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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
七章 白と黒の追跡者
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49 三位一体 上

「ど、どうしたレベッカ!」


 戻ってきたレベッカに対して俺は思わず慌ててそう声を掛ける。

 明らかに頃合いを見て戻ってきたような。気持ちの整理ができて戻ってきたような様子ではない。

 間違いなく何かがあったから、レベッカは此処にいる。

 そしてレベッカは息を粗くしながら俺達に向けて言う。


「……来る」


「来るって何が……」


「敵がこっちに……向かって来てる!」


「……ッ!?」


 レベッカにとっては人間は基本的に全て敵なのかもしれない。

 だけどそれでも、それはどう考えたってただ向かってくる人間を見かけたというだけだとは思えない。多分それならレベッカはそんな風に慌てない。

 ……つまりだ。


「……まさか、例の武器を持ってる奴か」


「……ええ」


「……ッ」


 確定だ。

 どうやらこちらに向かって来ている敵は、俺達がこれから戦わなければならない相手だ。

 ……精霊を加工して作った武器を持った。相対するにあたって間違いなく最悪な相手だ。


「そいつらマジで俺達の方に向かって来てんのか?」


「でなきゃ態々こんな所に登ってこないでしょ!」


「でもだとしても、そもそもどうして俺達が此処に居る事を……というか俺達がここまで来た事自体知られている筈が……」


 と、そこまで言って気付いた。

 確かに俺とレベッカはあの森から此処に辿りついた。ただそれだけ。

 故にまだエルを助けに来ることも、辿り居ついた事も。知られていない可能性が高い。


 では、シオン・クロウリーは?


「……狙いは僕だ」


 シオンは呟く。


「……どうやらルミア達は、僕がまだ生きてる事を不審に思って僕の位置を割り出したらしい。参ったよ。割りだされない様な細工もしている筈なのに、それでも割りだされた。そして此処に向かってくる」


「……」


 そもそもシオンがどうやってここまでたどり着いたのか。

 そして向こうはどうやってシオンの位置情報を割り出しているのか。それは分からない。

 ……だけどだとすれば、そう急に対策は練らないといけない。


「どうするシオン。ここから移動するか?」


「いや、それは多分無駄だよ」


 シオンは俺の発案を否定する。


「向こうが僕が飛んだ座標を解析してこの場所へと辿り着いたのだとすれば、正直馬鹿としかいいようがない。だってそうだ。僕が此処にたどり着いてから随分と時間が経過している。少なくとも僕がまだ生きてまともに動ける状態なら、その時間で行方をくらませられる。向こうもその位は知っている筈だ」


「……まあ確かにな」


 シオンが生きているという事は。生きながらえ続けているという事は。結果としてそれができる状態であるという事だ。だとすれば向こうの行動が遅いというのは理解できる。

 飛んだ云々はよく分からないけれど。


「だから多分向こうは僕の現在地を把握している訳だ。それがどうしてなのかはさっぱり分からないけれ……ああ、そういう事か」


 シオンが答えに辿りついた様に言う。


「……あの子に力を無理矢理使わせでもしたのか?」


「あの子……ってのはお前の契約してる精霊の事か?」


「ああ。あの子の精霊術を使えば少なくとも僕の位置を割り出す分には十分だ……そして、そればかりは対策の仕様がない」


 つまり、とシオンは言う。


「逃げても無駄って事だよ」


「……クソ。だったらもう戦うしかねえじゃねえか」


 だけど落着け。絶望するな。逃げられなくても戦って、それで勝てばいい。

 こちらの戦力は俺はともかくとして、シオンとそして、精霊を武器にする向こうの連中と相対できるレベッカがいる。

 ……だから追手と戦うだけの戦力は充分にあるんだ。


 ……本当に?


 俺は嫌な予感がしてレベッカに問いかける。


「……レベッカ。向こう何人いた」


「……」


 レベッカは少し言葉を詰まらせた。詰まらさざるを得ない答えがきっとそこにある。

 そして。


「……三人」


「「……ッ!?」」


 告げられた人数はあまりにも最悪なもの。


「三人……三人って、あの武器持った連中がかよ!?」


「ええ。向こうは近くにいた私に気付いていなかったから……一人だったら奇襲で潰してる」


「……」


「まともにぶつかったら分が悪いなんてもんじゃない」


 最悪だった。

 形だけみれば三対三。

 だけど明らかに総合戦闘力が大幅にこちらが下まわっている。

 俺が大幅に下まわさせている。


「どうするエイジ」


「どうするったって……なんとか連中ぶっ飛ばす以外に選択肢が……」


「キミ達二人だけ逃げろ」


 シオンが突然そんな事を言いだした。


「俺達二人だけでって……んな事できる訳――」


「だったら今の僕達が正面からぶつかって勝てるか!? できる訳ないじゃない。やるんだよエイジ君!」


 シオンは強くそう言った後、一拍空けてから静かに俺に言う。


「僕ら二人ともここで終わったら、一体誰があの子とエルを助けるんだ」


「……」


 確かにシオンの言っている事は理に適っている様に思える。

 勝機は薄い。そしてここで全滅すれば全てが潰える。


「もし向こうがあの子の精霊術を駆使して僕の居場所を割り出しているのなら、多分キミ達の事は割れていない。割れていないから気付かれずキミは此処に戻ってきている」


 そうシオンはレベッカに言って、そして俺達に言う。


「だから今の内にここから逃げろ。だから僕の代わりにあの子を――」


「逃げない!」


 シオンの言葉を遮るようにレベッカはそう言った。


「……」


「他の何から逃げたっていい。だけど……アンタ達だけは見捨てられない!」


「何馬鹿な事を言っているんだ! エイジ君からも何か言ってやってくれ!」


 レベッカの意思は強い。多分もう、レベッカの意思は揺らがないだろう。

 だってそうだ。レベッカは俺やエルを助ける為に命を賭けてくれている。

 それがどの程度のものなのかは分からないけれど、少なくともレベッカは俺達の為に命を掛けてくれているんだ。

 そんなレベッカが……きっと、俺達以上に助ける理由としては十分なシオンを助けない訳がない。

 そこから逃げられる訳がないんだ。


 ……そして。


「俺も逃げねえぞシオン」


 俺も……逃げる訳にはいかなかった。


「エイジ君!?」


「俺からレベッカに何か言えって何言うんだよ。無理だろんな事。俺もアイツも。お前に対して返しきれねえ程の借りがあるからな。逃げられる訳ねえだろ」


 そうだ。レベッカにこの戦いから逃げられない理由があるのだとすれば。

 俺にだって同じだけの逃げられない理由がある。

 シオン・クロウリーという恩人を見捨てられない理由がある。


「今はもうそんな事を言っている場合じゃ――」


「俺とお前で精霊救うんだろうが!」


「……ッ」


 俺がそう言うとシオンは黙り込む。

 そしてそんなシオンに俺は言う。


「第一お前! 代わりに助けろとかふざけんなよ! 俺がお前の契約精霊助けてそこにお前がいなかったら意味ねえだろ!」


「……意味はあるさ。あの子が生き残る。それでいい」


「あーもう、くそ面倒臭いな! だとしてもそれじゃ駄目なんだよ!」


 そうだ。俺達の貸し借り云々を抜いても、それは駄目なんだ。

 それだけは絶対に駄目なんだ。


「お前がいなくなったら……あの子がどう思うか考えてみろよ!」


 分かるんだ。シオンの気持ちも。

 例え自分を犠牲にしてでも、助けたいやつを助けられればそれでいい。最悪それでもいいって。そういう気持ちも。

 だけど。例え理想論だとしても、それじゃ駄目なんだよ。


 俺はエルの為に命を掛けられる。

 だけどエルの為にも死ねない。

 それはシオンも同じの筈だ。


「だからここは俺達三人で切り抜ける! 俺達三人で勝つんだ! 誰が生き残るじゃねえ。全員で生き残るぞ!」

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