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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
七章 白と黒の追跡者
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42 敗北した者 下

 そしてシオンは辛そうな表情を浮かべながら言う。


「結果的に僕は殺されなかった。辛うじて生き残れた。だけど僕が死んでいなくとも、被害者にして加害者の頭のおかしい奴を押さえ込んだルミアには。社会的地位の限りなく高い彼女には……あの子の所有権を得る事位造作でもない。具体的にどういう風に事を運んだのかは分からないけれど、それでも本来凶器扱いで押収される筈の契約精霊が憲兵の元に渡っていないという事はそういう事なんだ」


 そして、とシオンは言う。


「今に至る」


「……」


 逃げ帰ってきた。

 つまり戦ってきた。奪還しに行っていた。


「……手も足も出なかったよ」


 そして……敗北して此処にいる。


「あの日僕はルミアに負けた。完全敗北だよ。でもそこから少しでも、僅かでも、打ち勝てる可能性は手にできたと思ったのに……今度はルミアに到達する事も叶わなかった。それすらも叶わなかった」


「……そうか」


 実際にその場でどういう戦闘が繰り広げられたのかは分からない。

 俺は直接シオンの戦闘を目にした事はない。

 だけどそれでも一度に何人もの相手をして殆ど無傷で切り抜けたり、一人で囮役を受け持って見事生還してみせたり。

 とにかくシオン・クロウリーという人間がとても強い事は知っている。あれから何度も戦闘を重ねればより理解できる。

 だけど相手は精霊を武器にしている。

 例え何度か戦闘経験を積んだだけの素人でも、土御門誠一の様な積み重ね洗練された技能をゴリ押しで突破できるだけの反則みたいな武器。

 シオンは間違いなくそれを相手にして……そして敗れた。

 そこには目も当てられない様な凄惨な戦況があったのだろうと察する。手も足も出なかったとはそういう事。

 ……だけどだ。


「でも……前回負けて今回も負けても。まだお前は負けてねえだろ」


 シオン・クロウリーはまだ敗北していない。

 そう、確信を持って言える。


「だから死に物狂いで逃げてきたんだろ」


 自分の判断のミスでナタリア達を失ってしまった俺だから。エルに支えてもらわないと生きていけない俺だからこそ良く分かる。


 俺とは比べものにならない程の精霊を犠牲にしてきて。それで自分のして来た事にようやく気付いて。きっと俺なんかの何重倍もの重圧に押しつぶされそうになりながらも、それでもあの精霊に感情を取り戻す為に抗い続けた。

 そんな奴が……もう今更戦いに負けた位で折れる訳がない。

 そんな奴が満身創痍になりながらも逃げ伸びたという事はそういう事なんだ。


「……当たり前だ」


 その声に力はない。まだ依然大怪我を負っているのだから仕方がない。

 だけどそれでも、そこに強い意志は籠っている。


「僕はあの子を救いだす。何を失ってでもそれだけは必ず成し遂げる。そう決めたんだから……それまで死ねるか」


 きっとシオン・クロウリーという人間は、死ぬまで折れる事は無い。

 かつての瀬戸栄治の様に折れて朽ちず、抗い続けられる人間だ。

 そしてシオンは俺に確信を持ったように言う。


「キミもそうだろう」


「ああ」


 俺もまた二つ返事でそう答えた。

 かつての誇りに振り回されていた瀬戸栄治はもういない。

 此処にいるのは自覚出来る程酷く脆い軟弱な人間だ。

 だけどそれでも……エルだけは。

 エルだけは絶対に守り通す。

 そう決めた。


「エルだけは絶対に救いだす。例えどれだけ過ちを重ねてでも」


 その一点だけは折らない。抗い続ける。

 だから……俺達は同じなんだ。

 どれだけの理不尽を前にしても、抗い助けたい誰かがいて。

 そしてその理不尽は。倒すべき敵もまた共通。

 今から俺達が向くべき方向は変わらない。


「……なるほど。一体何があったのかは分からないけれど……随分キミは変わったな。まあとにかく、その思いはきっと間違いじゃないさ。間違いであってたまるか」


 だとすれば……おのずとそれは交わされる。


「だからエイジ君。僕と共闘しないか? 互いに間違え続けてでも守りたいものを守れるように」


 共に守りたい者を守るための契約。

 それを拒む理由などどこにもない。


「ああ、そうだな。こちらからもよろしく頼むよシオン」


「なら決まりだね。よろしく頼むよ、エイジ君」


 だからとてもあっさりと。それでも強固な俺達の共闘は始まったんだ。




 ……それはまだあくまで、俺達二人のでしかなかったわけだけれど。



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