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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
七章 白と黒の追跡者
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ex この世界の地獄

 目を覚ましたエルの目に最初に映ったのは鉄格子だった。


「……ここは……」


 一瞬どうして自分の目の前にそんな物があるのがが理解できなかったが、やがて意識が覚醒していくと共に意識を失う直前の記憶が甦ってきてくる。


「……枷」


 そして自分の手と首に繋がれた枷を見て、今の自分が置かれている状況がある程度理解できた。

 自分は十中八九人間に捕らえられたのだろう。

 満身創痍の状態で挑んだ最後の戦い。その戦いで何かできる訳もなく。

 銃で撃ち抜かれて意識を失った。


(……なんで生きてるんだろ)


 あの戦場において精霊は捕らえられる対象というよりは殺される対象だった。

 そんな中でどうして自分は殺されるのではなく捕らえられたのか。


「……」


 痛みや傷一つ残っていない程に、怪我を精霊術で治療してまで生きながらせたのか。

 ……その予想は嫌な程理解できた。


(……研究材料って事かな)


 自分は最後に、この世界に広まっている精霊の情報から外れた力を使っていて、そして最後に対峙した男の着ていた服装は憲兵の制服ではなく研究者だと名乗っているほど分かりやすい白衣で。

 そして……今視界に映る光景からもそう判断できる材料はいくつもある。


 工場へ出荷する精霊を一時的に置いておく場にしては、牢の数が多い。


 正面の牢に眠っている精霊がいるのが見えた。もしこれが出荷待ちの精霊だとすれば、自分と同じ牢に入れるのだと思う。

 ……そして、自分の首の枷にはまるで何かを識別するようなナンバーの入ったタグがつけられている。

 ……それこそまるで実験動物の様に。


「……」


 ……だから今自分がおかれている状況というのは、つまりそういう事なのだろう。


 殺されるよりも。工場におくられるよりもマシなのかもしれないけれど、最悪な事に変わりはない。

 だけどそれでも、ある程度落ち着いていられたのは諦めや達観から来るものではない。


 右手の刻印。


 あれからきっとある程度の時間が経過していて、それでも右手にその刻印は刻まれ続けている。

 つまりはあれからエイジには回復術による治療が施され、一命を取り留めたという事になる。

 今の自分が置かれた不安な状況を、そうした安堵が上回っていた。

 ……そして。


「……エイジさん」


 それがとても難しい事だと分かっていても。楽観的な希望でしかないとしても。これまでの様にエイジが助けに来てくれる様な気がして。

 こんな危険であろう場所にこさせる様な事を願ってはいけないという事は理解していても、それが希望を抱かせ気持ちを落ち着かせてくれる。

 ……落ち着いて居られるのは今の内かもしれないけれど。


 と、そうして落ち着いて今後の事を少し考えようとした時だった。


 目の前の牢にいる精霊が目を覚ましたのが分かった。

 それを見てエルは鉄格子の方に近寄る。

 近づいて、何か掛けられる言葉があったわけではない。

 だけど今この状況で自分以外の誰かがそこにいるのだとすれば、コンタクトを取ろうという意思は当然の事ながら出てくる。

 そしてエルが何か声を掛けようとしていると、目の前の牢の精霊がこちらに気付いた様で、こちらに視線を向けてくる。


「……ッ」


 視線を向けられて、思わず声にならない声が出た。

 その精霊は酷くやつれていて、その表情からは碌に生気を感じられなくて、ドール化した精霊という訳でもないのに、露骨に分かってしまう程に目が死んでいた。

 そしてその精霊はエルに向けて言う。


「……ああ、新入りか」


 そして哀れみの様な。そんな感情を乗せる様に、その精霊は覇気のない声でエルに言う。


「ようこそ、この世界の地獄へ」





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