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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
二章 隻腕の精霊使い
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14 決戦前

「知って居ると思うけど、この区画の治安は最悪だ。いくらエルが居ないからと言っても気は抜かない方が良い」


「分かってる。エルを助けるまでは気なんて抜けねえよ」


 俺達が進んでいるのは俺とエルが襲われたあの路地裏。一切安全が保証されないこの街の闇。

 夜間であるため人は少ないと思ったが、すれ違う人の数は思ったよりも多い。故に一瞬一瞬が気を抜けない。

 怪我のダメージで肉体強化を使わないと動けないから、常時肉体強化を使っているけれど、これはきっと怪我をしていなくても発動させておくべきだ。いつ何時何があるか分からないからな。

 一方どうやらシオンは肉体強化を発動させていないらしい。


「お前、肉体強化無しで大丈夫なのかよ」


「……まあ発動するに越した事は無いよ。でも不意打ちを喰らっても反射的に肉体強化が発動する様にはなっているから、とりあえずはコレでいい。というより、こうしないと駄目なんだ」


「駄目?」


「まあ今話す様な事じゃないよ。とにかく今キミは、エルを助ける事だけを考えればいい」


「……ああ」


 それは言われなくても分かっている。

 今は他の事に意識を使う程の余裕は残っていない。


「分かってるならそれでいいよ……それで、後どの位か分かるかい?」


「そうだな……もう大分近くなった気がするけど……」


 そこまで言って俺は立ち止まる。


「どうした?」


「此処だ」


「此処?」


「どうもこの真下っぽい」


「……成程、地下か。参ったな」


 俺の言葉にシオンはそう返してくる。


「やっぱ地下って事だよな……で、参ったってのは?」


「例えばだ。屋内だったら壁を突き破ったり窓をぶち割ったりと、色々と侵入方法や脱出方法があるわけだけど……地下だとそうもいかない。地下設備の強度基準は相当なもんだからね。ちゃんとした出入り口しか使えない」


「確かにそうなると厄介だな」


「……そうだね。まあとにかく、侵入経路を探ろう」


 そう言ってシオンはしゃがみ込んで足元に手を置く。


「何をしているんだ?」


「内部の大雑把な構造を探っている」


「すげえな……んな事までできんのかよ」


「それだけ僕が多くの精霊を喰い物にしてきたって事さ」


 精霊術を使いながらそう返答するシオンの表情は、俺からは見えない。だけどきっといい物では無いのだろう。

 だからそれにはあえて触れない。これ以上触れてはいけない。


「それで、どうなってる?」


「少なくとも入口が四か所。階層は……そうだね。二、三層といった所か。ごめん、口頭で伝えられそうな事はそれ位だ」


「いや、それだけでも無いよりはマシだ」


 中に入ってしまえば階段の位置などがネックにはなるだろうけど、エルの位置はある程度分かる筈だ。だったら、シオンが入り口の位置を把握して、そして一体何階層あるのか程度の知識を有していれば十分だ。


「で、その入口は?」


「多分下の階層に続く建物がある筈。入口といえばそこだ。で、入口の位置を把握した以上、そこを特定するのは容易だ」


「で、そこから突入すると」


「まさか。正面突破がどれだけ無謀か分かっているかい?」


「無謀って……」


「無謀だよ。多勢に無勢。キミは出力が高くて、僕は技量では誰にだって負けない自信がある。だけどそれじゃあ足りないんだ。正面突破しようと思うなら、万全の状態じゃないと無理だ」


「万全っていうと……怪我の完治か」


「いや、そうじゃない」


 シオンはそれを否定する。


「これから助けに行く状況で言うのも何だけど、あの時キミが言ってたエルを武器化して戦うって事がキミの全力の筈だ。それが出来て初めて正面突破が可能になるかもしれない。あとは僕が……いや、何でもない」


 シオンが何かを言おうとして止め、仕切り直す。


「とにかく現状の僕たちじゃ正面突破は成し得ないという事だ」


「だったらどうするんだよ」


「正面突破はしない。寧ろそれが潜入のセオリーだろ?」


 ああ、確かにそうかもしれない。映画とかでもあるだろ。例えばダクトから侵入するとか、ダクトから侵入するとか、ダクトから侵入するとか……あれ? これ以外なんかあったっけ?


「例えばね、ダクトから侵入するとか」


「よし、それでいこう」


 ……それしか思いつかないからな。恥ずかしい事に。


「だけどそれだけじゃ駄目だ。結局の所、どこから侵入しようと内部に敵は居る。絶対どこかで鉢合わせになるし、そうなれば囲まれる。だから鉢合わせる可能性とその場合やってくる援軍の数や到達までの時間を減らすべきだ」


「どうやって?」


「単純な話。囮を使う」


「囮?」


「僕が囮になる。つまり僕は正面から突っ込もう」


「……何言ってんだ。正面が無謀って今話したばかりじゃねえかよ」


「突破は、ね。囮としての動きならば不可能じゃない。限界ギリギリまで引き付けて、そしたら逃げる。その位なら……やれる筈だ」


 その言葉を信じていいのかは分からない。

 多分シオンは強いのだろうけれど、多分正面から突っ込んで囮になるなんてのは……無茶なんじゃないだろうか。


「心配しないでくれ。僕はこんな所で死ぬつもりはない。死んでたまるか。だから大丈夫だ。何度も言う様に、キミはキミの助けたい奴を助ける事だけを考えていれば良い」


「……死ぬなよ」


「キミこそ」


 そんなやり取りを交わした後、シオンはその手を地から離す。


「侵入経路は把握した。とりあえずキミをそこまで連れて行こう」



「頼む。で、一応確認しておくけど……俺はエルを見つけて脱出する。それでいいのか?」


「いいよ。僕は僕で脱出する。キミはキミの全力を遺憾なく発揮して脱出する。それでいい」


 そう言ってシオンは再び歩き出し、俺もそれに続く。


「健闘を祈るよ」


「お前こそ」


 そうして俺はシオンに地下施設に続くダクトに案内され、そこで別れる。

 ここから先は敵陣だ。攻めてきた奴らを相手にするのとは違う。簡単に死んじまってもおかしくは無い。

 だけど、死んでたまるか。

 エルを助けるまでは死ねるか。


 そうして俺達は開始する。

 精霊の援護無しでの、たった二人の救出作戦。

 名前も規模も知らない。そんな悪の組織に売られた喧嘩を買った。

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