表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人の身にして精霊王  作者: 山外大河
七章 白と黒の追跡者
313/426

22 交渉

 だがその意味深な言葉をいちいち聞いている余裕なんてのは無かった。

 攻撃を防がれた。だとすれば俺のやるべきことは男の次の言葉を待つ事ではなく追撃を加えることだ。

 ……そして。


「レベッカ! お前はアイツを頼む!」


「分かった! そっちも気を付けて!」


「ああ!」


 そう言ってレベッカを先に行かせてから俺は再び地を蹴る。

 本当ならば目の前の相手は誰かと共闘して倒すべきで。きっとこの場にいる精霊の中では一番レベッカが適任で。

 だけど違う。誰より真っ先に潰さなければならないのはコイツじゃない。

 あの銃の男だ。

 仮にもし死角からこちらに向けて撃ってこられたらそれだけで終わる可能性もある。だとすればやはりあの男はここで俺がコイツを一人で引き受けてでも行かせるべきだ。

 ……大丈夫だ。やってやる!


 そして俺が接近する最中、目の前の男は周囲の人間達に言う。


「コイツは俺が引き受ける! お前らは他当たれ! 死ぬんじゃねえぞ!」


 そう言った男は右手を中心に出現させていた結界を消滅させ、新たに左手から結界を棒状に。いや、剣の形を模って出現させ、その手に握る。

 そして俺の攻撃に合わせる様にソレを振るってきた。


「……ッ!」


 刀と結界の剣がぶつかり合い、衝撃が手に伝わってくる。

 その一撃で結界の強度だけでは無い。目の前の男の身体能力が肉体強化により今の俺と相対できるまで上昇させている事が理解できた。

 ……その出力が、改めて確信的に目の前の男の手にする武器が精霊である事を意識させてきた。

 ……だが。


「っらあッ!」


 そのまま男の結界の剣を弾いて、男の体を仰け反らした。


「なに……!?」


「……」


 少なくとも単純な出力は俺の方が上だ。

 そして押しきった男に刀による追撃を振るう。


「……ッ!」


 それに合わせる様に苦い顔をした男は右手をこちらに向け罅だらけの結界を出現させる。

 それでとりあえず目の前の男が使う能力は。その両手のグローブでやれる事は分かった。

 両手で各一枚ずつ自由な形状で超高強度の結界を出現させる。そして一度壊れた結界は時間が経過しなければ修復できない。

 それ故にまだその結界は罅だらけだ。

 ならば壊せる。

 だが男も壊される事は分かっていたのだろう。だから男がやろうとしている事は普段俺がやってきた事と同じ事だ。


 結界で攻撃の威力、勢いを僅かに弱める。

 それで攻撃を防ぐまでの猶予を作る。ただそれだけ。


 次の瞬間結界の破砕音が周囲に響き、その直後男が刀を受け止めるように剣状の結界で俺の剣撃を受け止めた。

 とても、苦しそうな表情で。

 そしてそこから何度も刀と結界の剣をぶつけあう。

 その中で確信した。出力は俺の方が上で。そして、その剣術は対策局の人間よりも下だ。


 あの時、対策局の地下で戦った荒川さんより大きく劣る。

 そして男の表情はより険しくなっていく。多分これは勝てる勝負だと思った。

 少なくとも一対一では目の前の男に負ける事は無いだろう。


 そして、俺の刀を受け止めながらそんな余裕のない表情で。死に物狂いといった口調で男は俺に話かけてきた。


「おい、テロリスト!」


 正直それに答える必要はなかった。

 多分そこから出てくるのはこの世界の人間からみた正論で。俺が聞き入れるわけにはいかない言葉で。

 そもそも今の俺にはどんな事であれ悠長に聞いている余裕はなくて。

 だからこのまま押しきって追撃しようとした、その時だった。


「交渉……しねえか?」


「交渉?」 


 あまりに予想外の言葉に思わずそう返答してしまった。

 そしてその返答に言葉を返すように男は言う。


「俺達の作戦はお前が此処にいた事で半分失敗しているんだ」


「……」


「俺達はここら周辺の馬車襲撃事件や行方不明者の捜索で此処に来ていた。結果犯人は此処に500人近くいた精霊だと断定。ああ、規模は分かってたさ。だから引いておくのがセオリーだった。確実に駆除できるだけの人員を用意してから望むべきだった。こんな武器を何個か用意できても精々勝率は5割程度だろうからよ!」


「……ッ!?」


 ……駆除。

 そうか、ようやく理解した。

 あの銃の一撃は確実に精霊を殺せるだけの出力があった。

 考えてみれば当然の話だ。何もこの世界の人間にしてみれば、精霊に対する行動は資源として捕まえる事だけでは無い。

 それが人間に対し害悪な存在となるならば、それを駆除する選択もあるのだ。

 だって貴重な資源でも。それでも資源でしかないから。

 一般人に死人が出てるなら、その選択はこの世界の人間なら普通に取ってしまうという事だ。

 そして、男は言葉を続ける。


「だが俺達は動いた。何故だか分かるか!? この森の中に人間の反応があったからだ!」


「……俺の事か」


「そうだ! この作戦は半分救出作戦だったんだよ! この危険地帯に何故か一人残されている人間を救出する作戦! その一人がお前とかいう、何の為にセオリー無視して動いたのか分からなくなる訳の分からねえ結果になっちまったがな!」


 そう言った瞬間、男の左手から棒状の結界がこちらに向かって勢いよく伸びてきた。


「……ッ!?」


 それを躱す為にバックステップで距離を取る。

 次の瞬間には男は結界の剣による二刀流の構えになっていた。

 だが男はそのまま攻撃してくる訳でもなく、俺に問いかける。

 きっとここからが、交渉内容。


「なあ、テロリスト。今はお前を見逃してやる。だからこの精霊たちを止めろ。お前ならできるだろ、洗脳して操っているお前なら」


 もはや意味が分からない、そんな交渉内容。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ