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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
七章 白と黒の追跡者
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21 開戦

 本来ならば、まずはこちらからの遠距離攻撃で数を減らす手筈だった。

 地上から樹木を掻い潜り打ち込む。

 上空に向けて打ち込んで、もしくは幻術によるサポートを受けて身を隠しつつ上空へと跳びあがり、空中から精霊術の雨を降らせる。

 そういう手筈。

 だがその前に敵に動かれた。

 先に仕掛けられた。

 故にもう奇襲は使えない。通用しない。

 正面からの遠距離迎撃は防がれる。

 地上から上空へ精霊術を打ち上げて落とすのも、そのワンクッションで敵に当たらない。

 そしてもう既に此処に戦うべき相手が居るという認識を強く持たれている今、どうやったって幻術の精度は落ちる。

 端から認識の外にいる。

 そして距離が離れている。

 その条件が揃って初めて、跳びあがって直接上空から狙い打つという行為を敵に悟られる事無く。的にされる事無く行える。


 ……だからもう、正攻法しか使えない。

 そしてその正攻法も取れるか危うい。


 この場に走ってるのは混乱だ。

 多分どの持ち場も変わらない。

 だってそうだ。

 あの威力を見せられたら。

 あの規格外の威力が自分達に向けられる事を考えれば、混乱するのも当然なんだ。


 幸いな事があるとすれば、場が混乱する中で一度俺の戦いを見たことがある所為か比較的ハスカ達が冷静だったこと。

 そして……多分精神的支柱にならなければならないレベッカもまた、同じく冷静だった事だ。


「皆落ち着いて! 人数じゃこっちが圧倒的に勝ってる! それに打つ前に力を貯めてたみたいだからそう連続で打てない筈! 攻めるなら今よ! ウチがアイツを潰すから皆他の人間をお願い!」


 レベッカは周囲を鼓舞するようにそう言ってからこちらに視線を向けて言う。


「作戦変更。ウチとアンタであの銃持ってる奴を倒しに行こう」


「お前、自分で倒すって言ったばっかじゃねえかよ」


「駄目!?」


「いや、ソレで行こう! そうじゃねえと駄目だ。アイツにもう打たせちゃ駄目だ! エルもそれでいいな!」


『はい! でも無茶しないでください! それ敵陣突っ込むって事ですからね!?』


「分かってる! さっさと潰して一旦引く!」


 そして俺はハスカ達に言う。


「そういう訳だ! 俺とレベッカでアイツを潰す。お前らはそれ以外の連中を極力抑えてくれ!」


「わかった!」


 ハスカの言葉と共に皆それぞれ頷きながら答える。

 そしてそんなハスカ達に。そしてレベッカの取り巻き達にも聞こえるように言っておく。


「とりあえずなんかヤバいデザインした武器持ってる奴がいたら少人数で挑むな! 多分ソイツは精霊を武器にしてる!」


 そうでなければあの威力に説明が付かなくて。

 そしてどうしてそんな事ができているのかは分からないが、一人そういう奴が居た以上、他にもそういう武器を持っている奴がいるかもしれない。

 ……戦いの素人が何十人も同時に相手をできたような、規格外の力をもっている奴が何人も。


 ……本当にこちらの戦力は勝っているのか?

 もしかするとこちらに勝る戦力があると確信して攻められているのか?

 ……いや、違う。それにしてはドール化した精霊が多すぎる。

 もしも仮に俺と同じ事をできる奴が大勢いるとしたら、向こうは人間に偏っていないとおかしいんだ。

 ……だとすれば、本当に一体何故アイツらは攻めに転じた。

 ……一体何が目的なんだ。

 だけどもう、考えている時間はない。


「じゃあアンタは此処に残ってあの銃持ってる奴の動向をウチにテレパシーで伝えて!」


 レベッカが自身の取り巻きにそう指示をした後、俺に言う。


「いくよ、準備いい?」


 レベッカが禍々しい雰囲気を全身に纏ってそう問いかけてくる。

 そうだ、考えるまえに動け。もうその段階だ。

 考えるなら、一秒後に自分が生きている為にはどうすればいいのか。

 一秒後に皆が生きてる為にはどうすればいいのか。

 それだけを考えろ。

 

「……ああ!」


「じゃあ行くよ! ウチに着いてきて!」


 そんなやり取りを交わして俺達は動きだした。

 俺はレベッカの速度に合わせて走る。

 後方に待機している精霊がレベッカにあの人間の最新の位置情報を伝えているのなら、レベッカについていかなければ到達できない。

 もっともレベッカは早かった。俺よりやや出力は劣るが、それでもエルを刀にした俺の戦闘に単独で着いてこれる事が確信できる程の速度で、レベッカがこの地形になれている事もあって合わせているという感覚は殆どなかった訳だが。

 とにかく俺達は急いでその銃を持つ男に向けて動いた。


 そしてやがてその速度で俺達は開けた空間へと跳び出した……その時だった。


 同時に向こうも数人。数にして9人が同時にその場に躍り出てきた。


 ……そう、9人だ。

 人間とドール化した精霊が4組。

 そして……歪なデザインをした指ぬきグローブを嵌めた男が一人。


「レベッカ!」


「分かってる!」


 歪な武器を持った人間はやはり一人では無かった。今、目の前に規格外の戦闘力を持つであろう男がいる。

 だけどソイツがいようといまいと、まずやるべき事は変わらない。

 人間達を目にした瞬間、俺達は攻撃態勢を取った。


 一人でも多く、勢い任せにぶっ飛ばす。

 駆け抜けるにも、このまま戦いに臨むにも。まずはそれからだ。


 次の瞬間、歪なグローブを嵌めた男以外の4組が、原因は分からないがまるで自身に掛かる重力が増したように突然前かがみに体態勢を崩し、大きな隙を見せる。


 そして次の瞬間、撃ち放った。


 レベッカは黒い球体を。

 そして俺は全身全霊の斬撃を。


 だが男の前に結界が現れた。

 右手を正面に突きだして張られた青い結界。


 そして次の瞬間、轟音と共に俺達の結界が衝突する。


「……ッ!」


 衝突の勢いで砂煙が舞う。

 それを視界の確保の為に風を操り、一気に振り払った。


 そして視界に映ったのは罅だらけの結界。


 確かに攻撃を防ぎきった結界。


 その防御力に思わず驚愕する。

 確かに今の斬撃に、エルが大剣だった頃程の威力は無い。

 だけどどんな結界でも一撃で破れると思えるだけの威力はあると思う。それにレベッカの攻撃も加わったんだ。

 それを防ぎきった。

 それはあの業者の雨の様な攻撃を一時的にでも防ぎ続けたヒルダの結界と同等か、それ以上。

 それだけの強度を誇っている。


 それだけの結界を張れるだけの強さを……目の前の男は持っている。


 だが驚愕しているのはこちらだけでは無かった。


 男が。正確にはその男に守られた形となった他の人間も、こちらを見て驚愕の表情を浮かべている。

 そして代表するように、その男は言った。


「……なんで、てめえが此処に居る」


 てめえ、とは俺の事だろう。

 故に男達が何に驚いているのか、すぐに分かった。


「なんで指名手配犯のテロリストがこんな所にいやがる!」


 まるで想定していなかったA級の犯罪者が目の前にいる。そういう驚愕。

 だけどそれだけでは無かったのかもしれない。


「……ああ、そうか」


 男は気付きたくない事に気付いた様に、呟いた。


「俺達はお前なんかの為に命を賭けちまったのか」


 そんな意味深な言葉を。

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