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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
七章 白と黒の追跡者
304/426

ex 向けられる不信感

「ま、とりあえずはこんなもんでしょ」


「ありがとうございます……結構すぐ直りましたね」


 治療開始から三十分程で目に見えた外傷はなくなり、体も十分動くようになった。

 まあ確かに今まで自分が負ってきた怪我の中では比較的軽症という事もあったが、思ったよりはやく終わったと思う。


「一番酷い所で骨に罅が入ってる程度だったからね……って、まあそれを程度って言ったらいけないんだろうけど。まあとにかくあの時みたいな怪我してなくて良かった」


 あの時。それはきっと精霊加工工場での戦いの時だろう。

 ハスカ達の前に現れた段階で浅い傷は回復術で治療してあったが、腕はへし折れたままだった。あれがどうやらハスカにとって強く印象に残っているようだった。


「……ま、今後はこんな怪我もしなように気を付ける事。いい?」


「はい、ありがとうございます」


「分かればよろしい……本当にわかった?」


「分かってますよ」


「……どうだかなぁ。まあ頼むよ、知ってる顔が怪我するのとか普通見たいもんじゃないんだからさ」


 諭すようにそう言ったハスカは、その後レベッカに視線を向ける。


「で、レベッカは大丈夫なの? どこか怪我してるなら一緒に治すけど」


「いや、ウチはいいよ。鳩尾に一発貰っただけだし。へーきへーき」


 そうレベッカは笑っていう。

 確かにあの一撃は浅かった。今こうして平静を保っているのを見ると、負っていたとしても本当に回復術が必要ではない程度の怪我なのだろう。

 その程度で済んだのなら本当に良かったと思う。レベッカは敵ではないのだから、そのレベッカに大怪我を負わせるのは大いに気が引けるから。

 もっともそれは自分の事を棚にあげていて、それも自覚しているけど。

 ……そしてそれはともかく、レベッカの様子が少しおかしい。


「えーっと、本当に大丈夫ですか? なんか顔色悪い気がしますけど」


 先程からレベッカからは何か調子の悪い様な雰囲気を感じていた。それは怪我等ではなく、体調不良といったところだろうか。


「あーうん、大丈夫。少し休めば直るから」


 そう言ったレベッカは一拍空けてからエルに言う。


「ああ、これがバーストモードの唯一の欠点。すっごい疲れる。元々精霊術使うのは疲労感半端無いけど、これその非じゃないから」


 本当に疲れきったようにそういうレベッカ。


「……なんかすみません。そんなに大変なのに付き合わせちゃって」


「いいっていいって。エルを強くすることがウチに親切にしてくれたエイジを助ける事に繋がるわけだし……それにそうじゃなくたって精霊が困っていたら、立ち止まっていたらウチ達は手を貸してあげるべきだと思う。やれる事は限られているけど、こんな世界で一緒に苦しんでる仲間なんだから」


「……レベッカさん」


「だから気にしなくていい。そうやって、皆で頑張って生きていけばいいんだって」


 そう言って笑みを浮かべたレベッカは、ゆっくりとその場から立ち上がる。


「さて、治療が終わったなら戻ろっか。そんでエルも早く休みなよ。正直ウチの事心配してるのがおかしい位には、アンタも疲れてるのは分かるからさ」


 確かに今レベッカが言った通り、精霊術は基本使用しているだけで相当な疲労感が発生する。元々疲れていたのだから、疲れが上乗せした今は正直に言ってもう寝床に倒れ込みたいと思う程の疲れだ。


「……そうですね。そうさせてもらいます」


 エルは素直に頷き、ゆっくりと立ち上がる。それに続いてハスカも立ち上がり、三人はその場を後にした。




 そして元居た場所へと戻ってきた訳だが、それですぐに休めるかといえばそうでもなかった。

 冷静になって考えればレベッカがこの場所にいる精霊に瀬戸栄治という人間の事を説明した際、レベッカと元々一緒にいた精霊を除いても、それでもまだその場に居なかった精霊がいるわけで。

 何しろレベッカ達のグループだけで森の外周全域を警備できる筈がなく、即ちある程度方角ごとに部隊を分けて警備していると見たほうがいい。

 つまりは何の説明も受けていない精霊が一定層いるのだ。

 そして……その中に、レベッカの主張を受け入れられない精霊がいてもおかしくはない。


「やっと戻ってきたか」


 エイジの寝ている小屋周辺でエル達を待ち構えるように、数人の精霊が立っていた。


「やあやあどしたのルナリア。どうしたの不機嫌そうな顔しちゃって」


 レベッカにそう言われたルナリアと呼ばれたやや目付きが悪いポニーテールの精霊は、不機嫌そうに言葉を返しながらこちらに歩み寄ってくる。


「聞かなくてもわかんだろ。お前の隣にいるエルっていう精霊と、そいつの契約者の人間の所為だよ。ふざけやがって」


「……」


 エルの予想通り、それは人間がこの場所にいる事に対する不満をぶつけに来たようだった。

 感覚的にこのルナリアという精霊から感じる雰囲気、はかつて地球に辿りつく前のナタリアに近しい物がある。基本的に人間を信用していないが故に、周囲の精霊の様子に困惑を覚えているような。理解できなような。ただ空気を読んでいるから手を出さないでいるような、そんな感じ。

 そんな感じでルナリアは言う。


「正直に答えろよ。あの人間は一体何を企んでるんだ」


 不信感に溢れたその声で、あの時の彼女と同じ様に不信感を纏わせて。

 だけど一つ、ナタリアとは違う事があったとすれば。


「……お前はあの人間と何を企んでる」


 今度は契約者であるエル自身にも、不振の目が向けられている。

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