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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
七章 白と黒の追跡者
300/426

ex 覚醒プロセス 上

「大雑把にこの力の事を説明するとしたら、精霊術のリミッターを外せる状態になるって言えばいいのかな」


「精霊術のリミッター……?」


 聞きなれない単語に思わず聞き返すと、レベッカはその疑問に答える様に言う。


「どうも普段私達が使っていた精霊術ってのは無意識に制限を掛けているというか、とても非効率な使い方をしているというか、そういう感じだと思うんだ」


「……そうですかね?」


 言われてみるがそんな実感は無い。

 一応ハスカに視線を向けては見るが、ハスカもやはり良く分からないという風に首を傾げているだけ。まあ無意識にというのだから、それが真実だとすれば意識できている方がおかしいのだが。


「エルはこの世界に来てから。というより自我を取り戻してから、一回位は精霊術を使ってるよね? 使っていたら、何か違和感とか感じなかった?」


「えーっと、はい。とりあえず回復術は一回使いましたけど……特に違和感はありませんでしたね」


 怪我を負ったエイジを治療するために回復術は使った時は、そんな違和感を感じることはなかった。

 もっとも正確に言えばエイジと戦う直前に自殺を図って精霊術を使っているのどけれど、その時は違和感とかそういうことを考えていられるような状態じゃなくて。だからよく覚えていなくて。

 だから特に言わなかった。結局何も分からないという事に変わりはないから。

 そしてその事をレベッカに話すと、レベッカは一人で考察するように呟く。


「……そっか。多分使ってないからかな……うん」


 そして一応思い当たる答えに辿りついたらしいレベッカはエルに言う。


「じゃあ一回試しにそれ以外の精霊術を使ってみてよ。例えば肉体強化とか……まあとにかく、暴走状態のエルが使っていたと思う精霊術を」


「分かりました、やってみます」


 指示通りやってみることにする。

 暴走している自分が使っていた精霊術。それが殺傷能力を持つ何かと分かっている以上、ほぼ肉体強化と風の操作に限られる。

 だから肉体強化で正解だ。

 だからとりあえず肉体強化の精霊術を使ってみることにした。


「……」


「どう? 何か違和感とかある」


「……ちょっと待ってください」


 少し使った感じ、普段と変わらない。

 だけど少し集中してみれば、確かに何か違和感はあった。


「……あ」


 その違和感の正体を説明するのは難しい。だけどなんとなく、そうじゃない。何か今自分が使っている力が何か間違っているんだという事を全身が教えてくれているようだった。


「その感じ、どうやら気付いたみたいだね」


「……はい」


「うっそ、本当に違和感とかあるんだ」


 驚くハスカは置いておいて、エルはこの違和感について考察する。

 暴走状態で使った精霊術が強力なものだったのは間違いないとして、この違和感が強力な力を無意識化で使っていた事による、出力のギャップによるものではないというのは断言できた。

 だってその感覚を味わった事は何度もある。

 テリトリー。精霊ごとにバラバラに定められた、自身の能力を引き出せるポイント。

 現在こそ契約により常時テリトリーにいる様に精霊術の出力は高いが、かつてエイジと出会うまでは何度もテリトリー内外を行き来してそのギャップを味わい続けていた。

 それは断言できるが、こんな感じではない。うまく言えないが、もっと違う感じなのだ。


「……その違和感はね、制限が掛かった非効率な精霊術の使い方に対して、一度強い力を使った体が違和感を覚えているんだよ、多分」


「多分って、随分曖昧ですね」


「そりゃウチは研究者じゃないし、それが確実だって保証はないから」


 まあとにかく、とレベッカは言う。


「これが今ウチらが普通に使っている精霊術にリミッターがある事の証明。いや、証明って程強くないから判断材料として覚えといて」


「……はい」


 イマイチ良く分からないけど頷いておいた。

 というか、そもそもそんな細かな知識はいらないのだ。

 今必要なのは結論だけ。


「それで、どうやったらそのリミッターを外せる状態になるんですか?」


 暴走している時にその力を使っていたのだから、エルが思いつく限りで言えばその答えは暴走状態になる。即ちSB細胞を一定量以上摂取する。

 だがそれではレベッカと違い、文字通り暴走するし、そしてあれは地球の魔術師が何らかの目的で作りだした物質だ。故にこの世界でそれを一定量摂取するなんて状況にはなり得ない。

 では……他のやり方だ。


「どうすれば、か。これがまた難しいんだけどさ、とにかく一つ言える事は、この力と精霊の暴走は直接的に関係ないってのは間違いないよ」


「……え?」


 予想外の回答にエルがそう声を持たすと、レベッカが考える様に一拍明けてからエルに言う。


「何をどうしたかったのかは分からないけど、暴走した精霊は無意識化で破壊活動を行う。だからその時、そうする為の最適解として潜在的に眠っていたリミッターを外せる力を覚醒させた。そしてリミッターを外して精霊術を発動させたんだと思うよ……でなけりゃウチは暴走状態を経由してその力を使っていることになる。これもまあ憶測なんだけどさ、ウチが生証人という事で」


 だから、とレベッカは言う。


「一旦精霊の暴走って観点は捨てたほうがいいね。多分邪魔になってくるから」


「邪魔になる……なんのですか?」


「結局使うための方法なんて、イメージとか直感とか、そういうのが大切になってくる感じだからさ」


「……そんな感じなんですか?」


「そう。だから言ったじゃん、ウチにできるのは手助けだけだって」


「まあ言ってましたけど……直感にイメージか……」


 あまりにアバウトすぎて突然できる気がしなくなってきた。前途多難にも程がある。


「とりあえずさっきの違和感から辿っていく感じでやってみるしかないかな、真っ当そうなやり方だと」


 苦笑いでそう言ったレベッカに思わずエルが突っ込む。


「……その言い方だと、真っ当じゃないやり方がありそうですね。というかレベッカさんはどうやってこの力を覚えたんですか?」


「……真っ当じゃないやり方で」


 そして一拍明けてからレベッカが言う。


「実戦の中で偶然無理矢理引きずりだす。乱暴で無茶苦茶だけど、これがある意味真っ当なやり方なのかもしれないよ。だってやろうとしている事は、戦い方を思いだす、ただ一点なんだから」


(……なるほど、それでこんな所に。それにハスカさんも連れて)


 色々とエルは察した。

 口頭で説明できるような事ならば態々場所を移動したりしないし、怪我を負う心配も無い。

 だから結局、初めからこのつもりだったのだ。

 場所を移動しなければならず、回復術も必要になってくる特訓。


「だからやろっか一戦。アンタの中の戦いの力を呼び戻す為に。その中で教えてあげるよ。精霊術のリミッターを外すってのがどういう事なのか」


「……望む所です」


 元より怪我の一つや二つ位は負う気で来たのだ。

 今更それを断る理由もない。


「じゃあ簡単なルールだけ決めてやってみようか、実戦形式の模擬戦を」


「はい!」


 そして、エルの特訓が始まる。

300話達成です!

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