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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
二章 隻腕の精霊使い
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ex 歪んだ道の、その先に

 例えばの話だ。

 自分が異世界人だとしよう。その世界には精霊がいない。故に何かしらの現象が原因で異世界に飛ばされ、その世界で精霊の置かれている状況を見て、間違っていると思ったとする。助けられるなら助けたいと思ったとする。


 だけどその最中で、その精霊に半殺しにされていたら?


 例えそれが正しい事だと思っても、果たして自分は精霊を助ける事が出来るだろうか? 仮にできたとして、その中でも自分を半殺しにした様な相手を助ける事が出来るだろうか?

 ……出来る訳が無い。それがシオン・クロウリーの出した結論だ。


 今、シオンは自分が正しいと思う事をしている。それはきっと自分を助けてくれたというプラス的な事実や、罪悪感や罪滅ぼしといった感情が背を押しているからだと自分で思う。

 実際、前者の事実があったから、この世界の歪みに気付く事が出来た。最初の一歩を踏み出すきっかけを与え、背中を押し続けた。

 後者の感情があったから、自分を助けた精霊をより助けたいと思った。加えて今まで自分が喰い物にしてきた精霊そのものを助けたいとも思えたし、それは例え片腕を失っても最後まで貫き通せる程に大きな物になった。


 だけどエイジにはそれがない。


 エイジの話から察するに、エイジがエルに半殺しにされたというのは、この世界に来て間もない頃だろう。


「俺の非もあったけど、結果的に俺はエルに半殺しにされた」


 この世界の事をある程度知ってからエルと出会っていれば、恐らくそこに非は生れなかっただろう。だから彼はきっとこの世界に来てすぐ……シオンの様に背中を押す何かを得る前に、エルに半殺しにされている。

 それなのに……ただ正しいと思うから、エルを助けだした。


(……歪んでいる)


 感情や関係もなにもないその行為を、シオンは素直にそう思った。

 そして……そういう歪み方をしているのならば、エイジは本当に実行するのだろう。

 見捨てる事が正しいと感じたならば、言葉の通り見捨てるのだろう。


 ……でもきっと、そういう事にはなり得ない。

 きっと半殺しにされてでも動いたエイジなら……どう考えたって無謀な単身での救出作戦を実行に移そうとしたエイジなら、おそらく劣勢だとかそういう事では止まらない。きっと何かを天秤にかける必要が出て来ても、それでも両方を取ろうと行動を起こすだろう。

 だから見捨てるなんて事は、エル自身が何か大きな問題でも起さない限りは起こり得ないだろう。そしてそんな事はそう起こる事ではない。

 だとすれば……危惧するべきは、無茶をして死なないかどうか位の物だ。


(……本当にそうか?)


 例え自分が正しい道を歩んでいると思っていても、人は何処かで間違える。シオンも何度も間違えた。

 世界は決して自分を中心に廻っている訳ではない。精霊の事を差し引いた以外に抱く正しさが、全て正しいとは限らないのだ。

 多分エイジが間違えても、間違いに気付くまで止まらない。気付かされるまで止まらない。

 そして……そうなった先に、取り返しのつかない何かが待っているとすれば。

 半殺しにされてでもその相手を助ける程に、自分の正しさに振り回されているエイジは……それを一体どう受け止めるのだろうか。

 その時、一体どんな表情を浮かべているのだろうか。

 その答えは考えない事にした。


(少なくとも今だけは間違っていない。間違っていてたまるか)


 きっとエイジとシオンでは観えている世界が違う。

 だけど今、見ている方向だけは同じで……それは決して間違いではない筈だ。

 そしてその方向に移るのは、正しいと信じたい。歩みたい道筋だ。


 故に彼は拳を握る。

 そうする事が正しい事だと信じて……その一歩を踏み出した。

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