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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
七章 白と黒の追跡者
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12 共に居場所へ帰るために

「私は精霊が暴走したら戦う力にどんな影響があるのかはよくわかりません。ナタリアさんの元の強さをそこまで知っていた訳ではありませんし、私自身の強さも客観的に見れた訳じゃないんです」


 だけど、とエルは言う。


「エイジさんが私に隠れて特訓していたのは知っています。それで凄く実力を付けたのも刀になって一緒に戦って知ってるんです。そのエイジさんを……あんな状態になるまで追い込んだんです。それだけ強い力なんですよね?」


「……まあな」


 エルと同じ力を震えるからこそ、それだけは確信を持って言える。

 暴走したエルの力は仮に俺が全力でエルを殺しにかかったとしても、十中八九敗北を喫するような、そんな強大な力だ。

 そしてエルは真剣な表情で俺に言う。


「だったらその力を身に付けられれば……今度はあの力でエイジさんを守る事ができます」


 だけどその言葉に素直に頷く事はできなかった。


「……お前に一人で戦わせる様な真似はさせねえよ」


 エルの力が発揮される時があるとすれば、それはエルを刀にせずエル一人で戦わざるを得ない時に限る。

 きっとそれは起きてはならない状況なんだ。

 エルを刀に俺が戦う。もしくは俺が拳でエルを守る。それが俺の思い描く理想で。

 それに頷いてしまえばエルを一人で戦わせるような事態を肯定しているように思えて。

 だけど結局そんな事は理想論でしかない事は分かっていて。俺がお前を守るからなんて格好良い否定の仕方ができるほど甘い世界じゃないのも分かっていて。それだけの力を手にしていないのも分かっていて。 だからそれ以上は何も言えなかった。


「それでも何がおきるか分かりませんから」


 その言葉を受け入れるしかなかった。

 そして俺の考えを読み取った様に、エルは俺に言う。


「エイジさんがそうやって思ってくれているのは嬉しいです。でも、本当は私もエイジさんに同じ事を考えている事を忘れないでください」


「……エル」


「二人で生き残るんです。二人で頑張って、二人で生きて私達の居場所に帰るんです」


「……ああ、そうだな」


 俺はエルの言葉に頷いた。

 でもこれでよかったのかもしれない。

 結局俺の考えは独りよがりで。それはエルの為を思っている様で実際はエルの意思を蔑ろにしていて。

 ……だからきっと、本当に俺と同じ気持ちでいてくれるエルの意思は尊重しないといけないんだ。

 同じ事を考えている俺だからこそそれは強く言える。その二つが同時に適う事は決してないのだけれど。

 でも、だからこそ二人で戦うんだ。

 ……そのためにエルは一歩踏み出す選択をした。

 その為に俺はエルの意思を受け止める事にした。

 ……きっとこの選択が正解だったはずだ。

 今更正しいだの間違いだのは、どうでもいいのだけれど。


 っていうかちょっと待てよ……冷静に考えれば何故にエルは俺の特訓の話知ってるんだ?

 一体誰に聞いたんだ……頼むからエルに言わないでくれって言ったのに。

 アレか? 宮村か。でも宮村は俺の特訓とかを見てない訳で……となってくると誠一か。

 誠一→宮村→エルって事か。なんかその説が濃厚になってきた。あの野郎……こうなる事察しろよ犯人かは知らないけど。

 と、そんな風な不満を募らせた時だった。


「やっぱ仲いいね、アンタ達」


 今のちょっとしたやり取りを見てハスカが笑みを浮かべてそう言う。


「不思議だよね。私達の時と違って一緒に行動していた精霊がいた訳じゃないのに、一からそんな仲を築けた訳でしょ?」


「まあ色々あったんです。詳しく話すのは少しは難しいですけど……とにかくエイジさんは私を助けてくれました」


「そんでエルは俺を信用してくれた。その後は寧ろ俺が助けてもらった事の方が多いくらいでさ……そうやってお互い助け合ってたら気がつけばこんな仲ってわけだ」


 本当はこんなに簡潔な事ではないけれど。言えないような話が山程あるけれど。

 それでも俺達の関係性の発展の要因の一つがお互い助け合った結果であることは間違いないだろう。それだけ俺がエルを助ける事か出来ているのかは分からないけど、少なくとも俺は本当に何度もエルに助けてもらった。

 ……感謝してもしきれない程に、本当に何度も。


「気がつけばこんな仲……ね。なかなか掘り下げると面白い話も聞けそうだ」


「まあ向こうの世界の事も色々聞きたいんだろ? そんときついでに話せる事は話してやるよ」


 まあそれも後でだ。

 正直いつ言おうか迷ってたんだけど、もし言えるならさっさと言ってしまいたかった事がある。

 そしてなんとなく今ならそれが言えそうだと思ったのでそれを言い出そうとしたわけだが、タイミングの図りかたがほぼ同じだったらしいエルが色々察してくれた様に先に言ってくれた。


「ところで、その……少し休める所とかって無いですかね? 私はまあいいとして、エイジさん今までろくに休まず戦ってきましたから」


「……まあ確かに言われてみれば疲れが見えるね」


 その通りである。

 正直限界が近かった。昨日から寝ていなくてボロボロな所に長距離の移動。エルと戦った時と先の精霊との戦いでの精霊術使用による疲労の蓄積。それを回復するのに途中挟んできた小休憩では少なすぎる。

 正直色々な事がうまくいって発生したし安堵感も相まって、気を抜けばこのままぶっ倒れそうではあった。


「よし。じゃあこの後色々と案内しようと思ったけどそれは明日にして、今日はゆっくり眠ればいいよ。とりあえず寝床は確保するし、他の精霊が何かしないように手回しもしておくし」


「……悪いな、ハスカ。助かる」


「いいって別に。アンタにしてもらった事と比べれば些細な事だから。じゃあさっさと案内するよ。着いてきて」


 そう言ってハスカ達は歩き出す。

 そんなハスカ達に着いていきながら、俺はエルにしか聞こえない様な声でエルに声をかける。


「助かった。ありがと」


「いえいえ。エイジさんいい加減限界なの分かってましたし」


「一応隠してるつもりだったんだけど、やっぱ分かる?」


「私を誰だと思ってるんですか。というか隠そうとしないでくださいよ。辛いなら辛いってちゃんと言ってください」


「まあ、その……流石に俺はアイツらを助けたって立場でさ、それで右往左往あって俺にある程度信頼向けてもらってる訳で……なんかこう、そういう連中の前でそんな情けねえ事堂々と言うのは極力我慢したいっていうかさ……」


「つまりカッコつけたいんですね」


「……そういう事になります」


 ジト目でそう言ってくるエルに、俺は正直に頷いた。

 だってさ……少しでもいい印象抱いてもらったほうが、なんかこう……いいじゃん。


「……エイジさん」


「……なんでしょう」


 なんか少し不機嫌っぽいエルに丁寧にそう聞き返すと、エルは答える。


「エイジさんのカッコいいところ、一番知ってるのは私ですから」


「お、おう……面と向かって言われるとなんか恥ずかしいな。というかえーっと……さっきからこう、なんか不機嫌っぽいけど何かあった?」


 なんかやっぱりこの森に来てからほんの少し……ほんの少しだけどエルが不機嫌っぽいんだけど、なんだろう……そうなる要素って何かあったっけ?


「察してください」


「お、おう……頑張る」


 さっぱりわからないっす。俺何かしたっけな? この短時間で? んん?

 まあそれは追々と考えていくとして。


 ……とにかく今は疲れた。


 俺は気が付けば再び手を握ってきていたエルと共に、ハスカ達の後を追った。

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