表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人の身にして精霊王  作者: 山外大河
七章 白と黒の追跡者
285/426

2 生き延びる為に

「……ひでえ」


 目の前の人間の遺体は本当に目を背けたくなるほどの酷い有様で、まさしく惨殺という言葉が当てはまる様な状態になっていた。


「……一体なんでこんな事に」


 思わずそう口にするが答えは分かっている。

 おそらくは積み荷を狙った盗賊の犯行だろう。

 エルと出会ってアルダリアスへと向かう途中で、好意で乗せてもらった馬車に詰まれた積み荷を狙ってきた盗賊と一戦交えた事を思いだす。

 あの時は俺とエルと、あの馬車のおっさんでどうにかした。

 ……そして今目の前に広がっている光景が、どうにもならなかった場合の光景なのだろう。

 俺がそうやって目の前の惨劇に対し自己解決している中で、エルが俺の答えとは異なる事を口にする。


「……精霊ですね」


 断定するようにエルはそう言った。


「盗賊とかの犯行じゃないのか?」


「まあ少し積み荷が持ちだされた形跡があるので、盗賊といえば盗賊なのかもしれません。だけど多分、祖の荷物を持っていったのはついでですよ」


「ついで?」


「……見てください。あんまり人に見せるようなものじゃ無いとは思いますけど」


 エルに促されて、俺はエルの目の前に転がっていた精霊の遺体に視線を落とした。


「……ああ」


「言いたい事、分かりましたか?」


「ああ、良くわかるよ」


 目の前の遺体にはあまり目立った外傷がなかった。

 先程みたあまりに酷すぎる惨殺死体とはまるで違う。

 ……そして、改めて周囲を見渡すと他も全て同じだった。

 精霊は亡くなっているがそれでもあまり酷い傷はなくて。

 その反面人間の遺体は、恨みを込めて何度も抉られたように酷い有様で。


 ……多分人間の犯行じゃこうする事はできてもこうはならない。


「……普通精霊は人間を見付けたらにげるか隠れるか。もしくはまともに会話なんて成立しない事は分かっているのに、あの時の私の様に気が動転して声を掛けてしまったり。大体はそんな感じなんです」


 ですが、とエルは言う。


「たまにいるんです。こういう所で人間を見かけたら積極的に殺しに行くような精霊も。まるで恨みを晴らすように。今回もそういう事ですよ。だから積み荷もついでという程度にしか荒らされていません」


「……やっぱそういう事だよな」


 ……多分その犯人がそこまでに恨みを募らせた一件と、この殺された人間はなんの関係もないのだろう。

 だけど瞳に映った段階でもはやそれは同じなんだ。それは俺がよく理解しているつもりだ。


「だからエイジさんも精霊と出会ったら少し警戒したほうがいいですよ」


「そうかな?」


「そうですよ。精霊加工工場からエイジさんは精霊を救いだしましたが、それでも多くの精霊に疑われてましたよね……というよりああいう事をやったからこそ、疑われる段階にまでなったんだと思います」


「……」


「もし向こうからこちらに近づいてくる精霊がいったら、それはエイジさんを殺しに掛かっている可能性の方が高いですよ」


「……ほんと、四方八方敵だらけじゃねえか


 ……分かっていた事だけれど。


「でもまあ精霊が相手なら私もいますし。そこはうまく止めて見せますよ」


「頼りにしてるよ」


「任せてください」


 本当に頼むぞ。

 できるなら。本当にドール化されていない精霊とは戦いたくない。

 その行動の裏側を。どれだけ辛い思いをしたのかもある程度分かっていて。

 そしてなにより相手が力が使えるだけのただの女の子なのはよく理解しているから。

 ……それでももしエルの身にまで危険が迫る様な事があったら、その時は覚悟を決めなければならないのだろうけど。

 ……そして、先の事や犯人の精霊の事よりも考えなければいけない事がある。


「……ところでエル。俺達は一体どうするべきだと思う?」


 目の前に人間と精霊の遺体がある。

 俺達はその遺体を放置してもいいのだろうか。


「そっとしておきませんか?」


「……それでいいのかな?」


「もしかすると埋めて墓でも作った方が良いのかもしれませんけど、その道具もありませんし……私もよく分かんないんです、こういう時にどうすればいいか」


「……そうだな」


 多分後から来た俺達に何かできる事なんてなくて。きっと精霊に対してはやれるだけの最大限の事を襲撃した精霊がやっていてくれていて。

 もしなにかやれる事があるとすれば、遺体の前で手を合わせる位だった。




 そして俺達は手を合わせた後、やや後ろめたい気持ちはありながらも積み荷を調べ始めた。

 やってる事は追剥ぎに近い物だけれど、正直四の五の言ってる場合じゃなくて。

 ……言ってしまえば目の前にあったのは俺達にとっては宝の山だったのだ。

 食料に衣服や日用品。それらが積み荷として詰まれていて、加えてリュックサックやナップサックなどもあり願ったりかなったりという様な状況だった。


「……なんかやってる事本格的に犯罪者染みてきたな。すげえ気が引ける」


「テロリストが今更何言ってるんですか」


「まあ確かに」


 何をしてでも生き残る。

 そんな思いで積み荷をあさり、俺達は物資の調達に成功した。


 ……ろくでもない事だとは思うけれど、それでも生き延びる為に。

 ダイレクトマーケティングとなりますが新作投稿しました。

 タイトルは『異世界に食事の文化が無かったので料理を作って成り上がる』です。


 ストレスフリーの成り上がり系になってます。

 精霊王は今後も普通に更新していきますが、その更新を待つ間にでも読んでくれれば嬉しいです。

 作者ページから作品に行けますのでよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ