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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
二章 隻腕の精霊使い
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11 正真正銘の一体一 下

 多分あの襲撃者も、俺と同じ様にどちらかといえば近接戦闘を好むタイプの様だ。そうでなければ先の球体の一撃は躱せなかったかもしれない。

 何にしてもその方が好都合。寧ろそうでなければ不都合すぎる。

 俺は再び突っ込んで来た一人の本物と四人の分身に対し、バックステップで距離を取った。

 後ろは壁。これで背後からの攻撃は、壁を貫通する攻撃でもなければ受けない。ましてや背後に回り込まれる事は無い筈だ。


 そして俺は突っ込んで来た襲撃者に対し、再び結界を展開。先程と同じ様に薄く伸ばした結界は、人が通過しただけで容易に破壊できる程度の強度。

 その結界を二人目の襲撃者が破った。

 俺はその二人目に全力かつ大振りで、隙だらけのストレートを放つ。

 拳は再び虚空を切った。分かってた。こんなに簡単に当たってくれるなら、端から覚悟なんて決めていない。


 そうして明らかに立て直し不可能な体勢の隙を突く様に、襲撃者の拳が迫る。

 おそらくその拳は本物だ。本物を叩きこむのに絶好なのはこのタイミングで、これを逃せば遅すぎる。故にそれは本物だ。

 だけどその立て直し不可能な体勢でも回避は出来る。ルキウス達との戦いでは大剣を握っていたから出来なかったものの、いまなら両手から風を噴出できる。

 得られる推進力は少ないものの、風の塊を作って踏み抜くよりも発動が早い故に、先の様に無理矢理攻撃を回避する事だって十分に可能だ。


 だけどしない。いい加減俺の無理矢理な回避に対策を立てられたっておかしくないし、そもそも既に立てられているかもしれない。それに勢い任せの攻めじゃコイツに攻撃は当たらない。否、当て方がまだ分からない。

 だから受けとめる。


「グファッ!」


 俺の隙を突くかの様に懐に潜り込んで来た襲撃者が、俺の鳩尾に拳が叩きこまれる。

 あまりに強力すぎる一撃。というより当てられた箇所がマズすぎる。いくら肉体強化で鍛えられているからといって、本来そこは人間が鍛える事の出来ない部位だ。肉体強化が掛けられた今でも一番脆いのはきっとそこだ。


 ……だけど。


 俺の意識は此処にある。例え俺に技量が無くとも、正規契約の恩恵で出力だけは確かに高い。だから……踏みとどまれる。

 そしてその場から微動だにしない。微動だにさせない。

 空いた左手。回避に使ってきたその手を用いて後方に風を噴出。勢いで壁に叩きつけられるのを……襲撃者の拳が俺の体から離れるという事態を回避する。

 そう……今、確かに襲撃者の拳はそこにある。

 結界という人体から離れた位置では無い。確かに俺の目の前に、襲撃者は確かに居るんだ。


「……ッ」


 襲撃者の表情に陰りが見える。当たるかどうかは分からないが、狙いはそこだ。

 左手から噴出される風を最大限にまで高める。拳に押さえつけられる体を置いて行くように、風で推進力を得た左腕が、文字通り無理矢理正面に突き出される。

 左腕や左肩。否、左半身の激痛でただでさえ痛みで歪んでいた表情が更に歪む。そうして放たれた左腕は……襲撃者には当たらない。

 だけどすり抜けた訳でもない。ただ単純に、跳んで躱された。

 裏を返せば、躱す必要が有った。

 やはり確かにそこには実体があったんだ。

 俺は左手の噴出をゆるめながら、その推進力で前のめり無理矢理右腕をそちらに向けさせる。

 そして……風の塊を形成して放つ!


 だがその攻撃は襲撃者をすり抜け、奥にあった窓ガラスをブチ破るに留まった。

 実体が、そこには無かった。

 まるで分身とすり替えられてしまったかのように、確かにあった筈の肉体は消えて無くなっている。

 だけども……俺の抱いていた疑問も、今のでほぼ消えて無くなった。


「……見切ったとは言わねえよ」


 俺は体勢を整え、次の攻撃に備えながら呟く。


「だけどカラクリは、なんとなく理解できた」


 攻撃は外れた。だけど確かに収穫はあった。

 俺の言葉に襲撃者は特に反応を示さない。

 次なる攻撃を仕掛けてくる。今までと同じ様に、どれが本物か分からない一斉攻撃。

 ただ違う事があるとすれば、今度は四方向の一斉攻撃。

 それに対し俺は再び結界を張る。全方角に対応したドーム状の結界。当然ながら防御力は皆無。多分虫が飛んで来ても壊れるのではないだろうか。


 でも、それでもいい。


 背後から結界が砕ける音がした瞬間、俺は後方に飛びながら右腕で肘打ちを叩きこむ。右手から風を噴出しつつ放たれたソレは、これまでと同じ様に分身に貫通する。

 そして残りの三体。一斉に攻撃を仕掛けようとする襲撃者を見据える。

 そのどれかが本体だ。


 その内のどれかに、俺が今肘打ちを行った本体だった筈の奴が、入れ替わっている。


 そう、入れ替わり。

 確かに質量を持っていた筈の個体がただの分身となり、持っていなかった者が本物となって襲いかかってくる。入れ替わりだとするならば、俺をすり抜けた分身が背後から攻撃するなんて事も理解できるし、入れ替わっていたからこそ、結界を破壊した奴が俺をすり抜ける。

 そして入れ替わっているからこそ、確かに俺を殴り付け、俺の攻撃を回避までしてみせた奴に対する攻撃がすり抜けて、違う分身が俺のドーム状の結界を打ち砕いたんだ。


 ……そして。その入れ替えには、致命的とはいかない程度の弱点が存在する。

 俺は両手から後方に風を放出させ、分身の内の一人。僅かに此方に対する反応が早かった個体に向けて、今出せる自分の全速力で突っ込んだ。

 そして右拳を顔面に叩きこんだ。叩きこめた。

 その拳はすり抜けない。

 あの時、俺の左手が放った無茶苦茶な攻撃をコイツは躱した。そうするだけの反射神経があれば、他の分身と入れ替われそうな気がするのに、確かに躱したんだ。


 つまり……一度使えば、次の使用までにある程度の時間を有する。


 まだコイツは消えられない。

 だから……殴れる内に殴っとく。


「……ッ」


 襲撃者が声にならない声を上げながら床を転がる。

 そんな男に追撃を加える為に左手で再加速。壁に打ち付けられた男の顔面に飛びひざ蹴りを喰らわせた。

 その瞬間、部屋の鏡にちらりと写っていた分身の一人が消滅した。

 恐らくは、全部消えた。

 だけどコイツの意識は消えていない。


「つまりもう入れ変わったりはしねえよな?」


 膝を離して即座に側頭部に蹴りを叩きこむ。

 それでもまだ意識は消えていない。

 片やエルのアッパーカットで一撃で沈む奴も居たのに……本当にタフだと思う。

 だけど……まあ、タフで助かった。


「で、お前らエルを何処に連れてったんだよ」


 なんとなくエルが連れ去られた方角は、感覚的に分かる気がするけれど、その程度じゃ情報不足だ。喋って貰う必要がある。

 そう思って襲撃者の元に近寄ると、視界の端に何かが映った。

 人ではない。人になり掛けの何か。

 それを認識しながら襲撃者の胸倉を掴もうと手を伸ばすと、伸ばした先には何も無くなり……その何かがあった地点に襲撃者が出現する。


 ああ……初めのテレポートはそういう事か。

 作成途中の分身は、入れ替わると消滅してしまう。これが、あのテレポートの真相みたいなもんだろうか。

 そして入れ替わった襲撃者は、此方にビームの様な攻撃を放ってくる。だけどそれを回避する事は容易だった。サイドステップを踏み、着地地点に風の塊を形成して踏み抜く。

 話は聞きたい。だけどまだ戦う意思があるのなら、意識を奪わねえと反撃喰らう。

 だから容赦なく、俺が出せる最高速の拳を顔面にお見舞いしてやった。

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