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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
六章 君ガ為のカタストロフィ
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68 土御門式戦闘術

 誠一達対策局五番隊の魔術師達との訓練で最も重点的に教えてもらったのは、自分の身を守る為の術。

 それを天野宗谷や荒川圭吾との戦いで少なからず活用してきた。

 だがそれはあくまで応用に過ぎない。

 本来徒手空拳で扱うはずの戦闘技能から剣術にも流用できる物だけを掻い摘んでいただけだ。

 特に体の動きや風の扱いによる技能はともかく格闘技術の大半は刀を持っていては使えない。


 だが今なら。

 エルに頼れない。己の力のみで戦い抜かなければならないこの一戦だけは。


 会得した戦闘技能を攻撃以外なら余すことなく扱う事ができる。


「……ッ」


 急接近してきたエルの拳を体を反らして辛うじて躱す。


 ……速い。


 そう認識した次の瞬間にはエルから左ストレートが俺の鳩尾目掛けて勢いよく飛んで来る。

 回避は間に合わない……だが、防げる!


 右手から風を噴出させ推進力を与え、エルの拳に合わせる様に裏拳を放つ。

 エルの拳を横から叩いた裏拳はエルの拳の軌道を反らさせ、その拳に空を切らせた。


 完璧に近い思い描いた理想の防御。

 だがその一撃で理解。いや、再認識する。

 分かっていた事だがエルの出力は確実に俺を上回っていた。

 それも天野宗也に暴走した際の出力を更に上回っている。

 今の一撃を弾いただけで、この戦いの厳しさを突きつけられた気分だった。


 だけど一撃躱して、一撃弾いたぞ。


 それはかつての俺にはきっとできなかった事かもしれない。だが紛れもなく今の俺にはできた。

 ……それは背中を押す強い要因になる。

 エルを助ける。助けられる。必死に言い聞かせる心に糧を与えてくれる。


「くらうかあああああああああああああああああああああああッ!」


 拳を。蹴りを。躱し、弾き、そして防ぐ。一瞬のうちに幾度となく放たれる鋭い攻撃をすべて処理してみせる。

 だが処理できない攻撃も出てくる。

 攻撃を弾いた僅かな隙。体制的にどうやっても防げない攻撃。


「……ッ!」


 その攻撃に対し風の動きで被弾地点を割り出し小型の結界を展開。そしてその後ろに周囲の風を操作して瞬間的に作成した風の防壁を展開。一瞬で二段構えの防衛策を組み立て、それがいとも簡単に破られるのとほぼ同時、俺はバックステップで後方に飛ぶ。

 防げない。攻撃は食らう。

 だがそのダメージを最小限に抑える。


「グ……ッ!」


 激痛と共に宙を舞った。

 だが……歯を食いしばれ。


 両手に風の塊を作り出し、こちらに追撃を仕掛けようと飛び出そうとするエルに両手を向ける。

 そして右左と一瞬ずらしてそれを射出した。

 次の瞬間、速度が速くなるよう調整した右手の風の塊がもう片方とぶつかり合い、激しい風を周囲にまき散らせる。

 その勢いでエルをわずかに足止めし、俺は風圧でエルから距離をとった。


「……」


 足場は悪いがなんとか着地し、再びエルのいる方向を見据える。

 すぐにエルは接近してこない。だけどまたエルが元に戻っているわけでは無い。

 振ってくるのは雨だ。


 槍の雨。

 風で形成された槍の雨。

 その接近を目視よりも早く風の動きで感知し、目視する瞬間には既に足元に風の塊を形成。雨から逃れる為に勢いよく左方へと跳んだ。

 そして逃れた先に、上空から降ってきたエルが居る。


「ッらあああああああああああああッ!」


 そしてエルから放たれた蹴りを風の力で無理矢理体制を修正させ、威力も向上させた蹴りで相殺する。

 次の瞬間には空いた右手から風を勢いよく噴射させ、エルの後方から降ってきた風の槍を回避し、近くの足場に滑るように着地する。


「……」


 息が荒い。

 少しでも気を抜けばそれで一気に畳みかけられる。それが一撃一撃を凌ぐために伝わってきて心身が感じるプレッシャーを加速させる。

 だが同時に心はより前へと加速した気がした。


 ……いける。


 エルの動きには着いていくのがやっとだ。

 だがそれでも、やっとの思いでも着いていけている。

 今、一連の攻防でそれを証明できた。

 自分自身に向けて証明できた。


 大丈夫だ……エルを救える!


 そして俺は次なる攻撃に備え、いつでも風の防壁を作れるように周囲の風を操作し始める。












 し始めた筈だった。


「……ッ!?」


 感じ取ったのは初めての感覚だった。


「なんだ……一体何がどうなって……ッ」


 今まで。エルと契約したあの時から俺はずっと風を操って戦ってきた。

 そしてそれをどう運用するかという観点はともかくとして、風を操るという事に対する事自体は初めから一環してできていたんだ。

 そこに。その動作そのものに違和感なんてものは存在しなかったんだ。

 それが今、初めて伝わってきた。


 ……否、違和感どころでは無い。そんな甘い事では無い。


「……ふっざけんなよクソがッ!」


 一体何が起きている。


 ……なんで風のコントロールが効かない!?


「……クソッ!」


 それでもなんとか風をコントロールしようとしていた最中、エルは俺の目の前に到達した。


「なに……ッ!?」


 目を離していた訳ではない。ずっと視界に捉えていた筈だ。

 故にエルはただ当たり前のようにこちらに接近したんだ。

 こちらの想定を完全に越える速度で。


「ぐ……ッ」


 咄嗟にエルの拳を辛うじて裏拳で弾いた。

 だがそれだけで明らかにエルの拳が重くなっているのを感じ取った。

 まるで更に出力が増した様に。

 否、様にじゃない増してるんだ。

 まるで暴走の段階が上がったかの様に


 つまりは状況は最悪だった。

 エルの出力は上がり。原因不明の風のコントロール不良。

 だから初撃を防げたのは本当に奇跡だったのかもしれない。


 ただ当たり前のように。吸い込まれる様に。


 俺の顔面に拳が叩き込まれた。

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