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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
六章 君ガ為のカタストロフィ
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62 隠れ蓑への道

 山形駅に辿りついた俺達はさっそく動き出す事にした。

 時刻は午後7時前。もしこれが旅行だったらどこかでゆっくり食事を取る所だけれど、今は身を隠さなければならない。それ故に晩飯は駅弁で早めに済ませてある。人が居る所に留まっているわけにはいかないんだ。

 例え俺達の居場所が知られていなくても、非番の隊員に偶然見つけられる可能性も否定できないから。

 あくまでこの指輪は魔術による探知を妨害するだけで認識を阻害する様な代物ではないんだ。正攻法には効果を発しても偶然にはあまりにも弱く脆い。


 だけど本当にすぐに動いたかというと、実はそれは違っていて。


 今更気付いた事なのだけれどエルだけじゃなく俺も顔は割れているのだから、可能なら俺も帽子位はかぶっておいた方が良い。そういう事で俺も帽子を購入した。エル曰く割と似あっているらしい。なんとも微妙な評価。だけどまあいい。次にこっちの世界に戻ってきてから恰好良いのを買おう。

 そしてそれ以外にもう一つだけ寄り道をした。

 どうやら山形駅内に玉こんにゃくが食べられる店舗があったらしく、エルと食べる機会があったら食べると約束していたので食べてみることにした。

 結論だけを言えばとてもおいしかった。

 いつもの俺達のように食事の感想はとても下手で、ただシンプルにおいしいという感想を語る事しかできなかったけれど、そんないつもの感じをまた感じられてどこか嬉しく思えたんだ。


 そしてそうしたほんの少しの寄り道を済ませた俺達は、目的地へと向かう事にした。

 隠れ蓑にする場所は一応絞ってある決めてある。


 飯豊山。もしくは以東岳。


 確か俺の記憶が正しければ、あの山は多発天災の際にある被害を受けている。

 その際、まだ日本に大きな被害がなかった事から危機管理能力が足りてなかったのかもしれない。当時登山グループが登山していて、その後亡くなっている。

 以東岳の方はよく確か毒性のあるガスが地表から漏れ出し始めたのが原因だったか。活火山でもない以上火山性ガスは発生しない筈だけれど、それでも各国で似たような事例が頻発していた事もあり、俺達はそれを信じざるを得なくなった。多発天災はこれまで残されていたデータがまるで役に立たず、もはや何が起こってもおかしく無かったから。

 ……もっとも今ならそれが全て嘘である事も理解できているけれど。

 とにかくそうした事例もあった事から、今現在飯豊山は立ち入り禁止区域に指定されている。

 世論的に登山などのアウトドアを控える風潮が広がっている中でそうして立ち入り禁止という対策も取られている訳だ。

 故に俺達にとっては最善の隠れ蓑となる。


 ……もっとも完全に出端を挫かれたわけだけど。


「……多分完全にルート間違えてんな俺達」


「まあ仕方ないですよ。土地勘全くないわけですし」


 俺達はとりあえず山形県に入ろうという事で山形駅まで向かった訳だが、どうやらその選択は間違いだったらしい。

 聞けるかどうかは分からなかったが案内カウンターで目的地への行き方を訪ねてみたところ、とても非効率だったというか……どうも俺達が乗った大宮駅からだと飯豊山方面だと、山形駅より少し前の米沢駅。以東岳に行こうと思えば、そもそも最短ルートは山形駅に向かうよりも先に新潟駅に向かうべきだったらしい。

 だから今日中に現地に現地……いけそうなところだと飯豊山へ行こうと思えば、とりあえず新幹線で少し戻って米沢駅に向かって、そしてそこから米沢線に乗り換えて羽前椿駅という所へ向かわなければならないらしい。気付いたのがまだ間に合う時間だったのと、そうした移動をおこなっても何とかなるだけの現金を持ち合わせていたのが幸いだった。普段だったら金銭的にキツい感じがある。


「アレだな。スマホがあれば一発で色々分かるんだけどな」


「まあ確かにそうですね。なんというか、便利な物に頼りすぎるのも問題かもしれません」


「だったらたまにはこういうのも良いのかもしれない」


 もっともそれはなんとかうまく行っているから言える事なのだろうけど。


 とにかくそういう風に危なげではあったが、そこから再び新幹線に乗り目的地へと向かう事にした。




 飯豊町についた俺達だったが、そこからの移動は思ったよりも厳しいものがある。

 登山口まで相当な距離はあるうえに、一応立ち入り禁止になっている場所だ。馬鹿正直にタクシーなどで向かう訳にもいかない。

 だから俺達は人が違和感なく利用できるようなギリギリの地点までタクシーで移動して、そこからは徒歩での移動となった。運転免許も何ももっていない俺達としてはそれしか手段がない。

 ……当然普通に歩いたりはしない。

 そんな距離をエルに歩かせるわけにはいかない。

 とりあえずタクシーを下り、人がいないような所までは歩いた。

 そこからはもう、普通にはいかない。

 二時間近く歩いた事もあって、今のエルも限界だし。途中から背負ってたし。


「人はいないな」


「そうですね。ここなら大丈夫ですか」


「最悪見つかってもカメラで取られたりでもしない限り、見間違いみたいな感じで処理してくれるだろ」


 もう周囲に人の居るような感じはないし、車も全く走っていない。だったらもう使っても問題ないだろう。


 ……精霊術を。


「じゃあエル。此処からは一気に行くぞ」


「はい」


 そう言って俺はエルを刀へと変化させ、そして走りだした。

 精霊術未使用の状態と比べれば移動速度には天と地ほどの差がある。周囲の目さえ気にならなければ、俺達が取れる最善の移動手段。

 これで一気に辿りつく。





 もっとも俺も疲れきっていて、二時間も歩いて。そこから肉体強化という身体的に負荷がかかる手段を取ると、流石に一気には無理だったけれど。

今回から6章後半戦スタートです。

一応前のエイジさんパートからの続きなので、前回の誠一達のパートよりは時系列は少し前になります。

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