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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
二章 隻腕の精霊使い
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10 正真正銘の一体一 上

 ……コイツ一人じゃない。他にも誰か部屋に入って来やがったッ!


「ッらあああああああああああああッ!」


 両手で手刀を押さえながら、襲撃者の腹部に蹴りを叩きこむ。

 手刀に込められる力が弱まったのが分かった。俺は手を振り払って手刀を逸らしながら起き上がり、間髪入れずに襲撃者の胸倉を左手で掴みかかって右拳を顔面に叩きこむ。

 そしてのけ反った末に戻ってきた顔面に、さらにもう一撃!


「……ッハッ」


 その一撃で襲撃者は膝から崩れ落ちる。

 否、正確には自分から崩れ落ちた。


「……ッ」


 崩れ落ちた事によって生じた一瞬の隙。その隙を付くかの如く、今度は襲撃者が倒れ掛りながら掌底を打ち込んでくる。

 咄嗟に後方に飛んで勢いを殺すが……それで殺せるのは掌底そのものの威力だけだ。

 その手から放たれる精霊術は防げない。


「ガハッ」


 先程と同じ様に、俺の体は痛みと共に推進力を纏って、建物の隅の壁に叩きつけられる。

 胸部と壁にぶち当たった背中に激痛。だけど……まだ意識は飛んじゃいない。

 次の瞬間、目の前にまで迫っていた追撃の拳を、風を踏み蹴り右方に飛んで躱す。

 ただしその場所に地面は無い。

 窓ガラスを突き破った。

 そして見据えるのは敵じゃない。

 シオンの部屋の前の窓。あそこを突き破ってそのままエルの元へ向かう!


「いくぞッ!」


 空中で足元に風の塊を発動。勢いよくそれを踏み抜き軌道修正と共に加速。顔面を守りながら窓ガラスを突き破り、転がるように床に着地しながら、そのままシオンの部屋へと突入する。


「エル!」


 その叫びの返事は返ってこない。


「……ッ」


 部屋の中には俺を除いて誰もいやしない。

 俺と交戦した奴に続いて侵入してきた数名がエルを連れ去った。

 そうするだけの時間を稼がれた。



 背後で物音を立てる襲撃者に。



 振り返りながらバックステップで距離を取る。

 そうして部屋に入ってきた襲撃者と、一体一で向かい合った。

 場に一瞬の静寂が訪れる。それを破る言葉は無い。

 一体何が目的か。そんな事はもう分かっている。

 エルを狙った犯行で、まだこうして俺と対峙していると言う事は、シンプルにエルの契約者という立場の俺が邪魔なのだろう。もしくは追われる可能性を摘みたいのか。


 いずれにしろ、やる事は変わらない。

 コイツを倒さない事には身動きが取れない。そして倒せばエルが連れ去られそうな場所を明確に示し出す事が出来るかもしれない。

 だから……エルを助ける為にまずコイツをぶっ飛ばす。

 俺は地を蹴り距離を縮め、頭部に向かって右足で蹴りを放つ。


「グ……ッ」


 襲撃者はそんな呻き声を漏らす。だけど……俺の右足は確かに左腕で防がれていた。

 そう認識した時には既に襲撃者は左腕を振り払い、体勢を崩した俺への反撃を繰り出そうとしていた。

 そこまでは、理解できた。


「なに……ッ」


 唐突に目の前から襲撃者が姿を消した。

 まるで、どこかにテレポートでもしたかのように。


「後ろだ」


 背後からそんな声が聞えた瞬間、体は反射的にそちらを向き拳を振るう。

 確かに声の主はそこに居た。だけど俺の拳は虚空を描く。

 貫通した……いや、何もない空間を、きっと俺は殴っていた。

 まるでそれが幻覚だったかの様に。

 だけど襲撃者の言葉に嘘は無い。


「かかったな」


 一瞬遅れたタイミング。幻覚を囮にする様に、攻撃を振るった直後の俺に突っ込んで来た。

 それはまるで、ルキウス達との戦いの様だった。

 幻覚に惑わされ放った攻撃。その隙を突かれた。

 あの時はエルが居たからどうにかなったけど、今回は誰も居ない。


「グア……ッ!」


 顔面に飛びひざ蹴りをモロに喰らう。

 激痛に顔を歪ませながら床を転がる。そんな俺に追撃を掛けるべく、着地した襲撃者は再び床を蹴り、此方に接近してきた。

 ……迎え撃つ!

 体勢を立て直して拳を握りしめ、踏み込む。

 襲撃者の拳を向上した動体視力を駆使して躱して、全力で拳を顔面に叩き付けた……筈だった。


 だけど俺の拳は再び何もない空間を殴り付け……次の瞬間、再び拳が目の前に迫っていた。


「……ッ」


 空いていた左手から風を噴出し、推進力を利用して無理矢理攻撃を回避する。

 着地に失敗し再び床を転がる。だけども瞬時に体勢を整えながら呼吸を整え、目の前に広がる状況……同じ風貌の襲撃者が四人もいるという状況を考察する。


 ……幻覚。もしくは分身でもしているのか?


 いずれにせよ、本物以外は実体が無い。

 最初の背後からの攻撃も、先程の攻撃も。全部偽物。

 さっきのはひざ蹴りをしてきた奴がそのまま追撃してきたように見えたけど……どうやら転がっている間の一瞬で位置を入れ替わりやがったみたいだ。そうでなければ拳は当たる。


 だから……次は本物を見逃さない。

 そのためにもまずは判別の必要がある。

 考えながら風による実体の探知を試みる。だけどもそれは失敗だった。原因は単純な力不足。剣になったエル無しじゃ、ああいう事は出来やしない。

 だったら俺にできる事をやるだけだ。


「まだ終わらんぞ」


 襲撃者の男とその分身が同時に口を開いたかと思うと、全員で一斉に突っ込んでくる。

 だけどそこに居るのは確かに一人だ。

 俺は正面に薄く伸ばした結界を張り巡らせる。

 元々強度が弱かった結界の強度をさらに減らし、その代わりに面積を広げた。防御に使おうと思ってもまるで使えない、大きいだけの結界。多分人が通過しようとしただけで壊れる。

 だけど……この状況においては、十二分に使える。

 そうしてその結界は見事に割れた。

 三人目。三番目に通過した襲撃者が、確かに割った。


 それがその三番目に実体があるという事を示す証拠となる。


 それを認識した瞬間、その三番目に向かって跳びかかった。

 今度は視線を逸らさない。そこにいる本物を確かに蹴り抜く。

 そして今度こそ、全力の蹴りを浴びせた。

 いや、今度も浴びせたのだ。何もない空間。幻覚に。


「……は?」


「どこを蹴っている?」


 そう呟いたのは、もう既に結界を壊すことなく突破していた筈の一人目か二人目。

 そんな声が背後から聴こえて来た。

 思わず振り向く。

 その先にあったのは拳ではない。


「成程。中々のやり手と聞いていたが、件の精霊無しではそんなものか」


 離れた位置に居た襲撃者が言いながら放ったのは、俺が風を固めた様に、精霊術によってつくられた何かを球体状にした物。

 それが俺の目の前に迫っていた。


「……ッ」


 俺は無我夢中の跳躍で、襲撃者との距離を取りながら、なんとかソレを回避する。

 だけど……危機はまるで回避できていない。

 ……マジで何が起きている。

 確かにあの三人目が結界を破った。だけど三人目は幻覚で、幻覚だった筈の一人目。もしくは二人目が本物だった。

 本物ならばどうして一人目と二人目は結界を、俺の体を通り抜けた? 偽物ならばどうして俺の結界を破れた?

 

 ……いや、違う


 俺の結界が砕かれた。その事実だけは揺るがない。

 つまりそこにはぶつかる質量があった。衝撃を放つ何があった。本物の襲撃者が居た。その筈なんだ。つまり一人目か二人目が本物の襲撃者だった事に加え、三人目もまた襲撃者だった。

 自分で言っていて訳が分からなくなりそうだ。

 だからそれを解消する為にも……捉えるんだ。そうすれば見えてくるかもしれない。


 襲撃者を……確かに結界を壊した何かを、捉える。


 その為の策は、考えた。

 だから……覚悟を決めろ。

 その一撃を。俺を殺す為に放つ一撃を、受けとめる覚悟を。

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