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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
六章 君ガ為のカタストロフィ
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52 いずれ彼らを救う為に 中

「そんじゃ、とりあえず作戦の方をそろそろ伝えるとしますか」


「頼むわ」


 バイクに乗って走り出してすぐ、誠一は俺に対してそう言い、俺もまたそういう風に言葉を返す。

 そして誠一は対策局内での段取りを語りだす。


「まあ間違いなく俺ら二人でエルの元までいける訳がねえ。流石にそこまで進んじまうとお前のストッパーには俺じゃ役不足だ。だから誰かが付いてくる事になると見て間違いない」


「聞いても殆ど誰の事か分かんねえけど、その目星ってついてんのか?」


「一応な。大した根拠じゃねえんだが、お前がエルを剣にして暴れる可能性を考慮されると、一応今現在対策局内で動ける魔術師の中で一番強い人が部下連れて出てくる感じになると思う。そうなってくると絞り込みは簡単だ」


 そして誠一は一拍明けてからその名を口にする。


「荒川圭吾。お前も何度か対策局内で顔を合わせてると思うから知っていると思うが、対策局の局長だ」


 言われて思い返す様に頭にその人物を思い浮かべると、三十代前半程というこういう組織のトップにしてはいささか若すぎる様な感じがする容姿の男が浮かんできた。

 その人が精霊に対して穏健派であるという事が、今のエルの扱いを今程度に留めてくれている要因なのだろう。

 意識を取り戻して、エルのおかげでほんの少しだけ落着けた頃直接会話もしたが、感じた印象は話しやすくて良い人感が滲み出る様な感じとでも言うべきか。

 だがそんな平和的な俺の印章とは裏腹に、誠一は言葉を続ける。


「聞いた話だと天野さんに魔術を教えてたのが荒川さんになるらしい。といっても弟子の天野さんの方が今じゃ遥かに強いだろうし、流石に本人前にして言える話じゃねえが、孫弟子扱いになる茜の方が多分強いと思う。それに多発天災後に亡くなった前局長の後釜で局長になってから前線に出てねえから多分一年近いブランクがある事も考慮すると、お前がエルを剣に変えれば荒川さんには勝てるんじゃねえかなと俺は踏んでる」


 だが、と誠一は言う。


「それでもあの人は天野さんや茜。そしてお前みたいな、俺らから見ればインフレしまくってる戦闘能力の枠組みの中にいる事は間違いない。だから確実に勝てるとは言えねえし、倒せてもそれは長期戦だ。だが長引きゃ全部頓挫する。そんで逃げながら戦える様な相手でもねえ」


「だったらどうすんだ。その人出て来たら八方塞がりじゃねえか」


「そこで俺に策がある」


 誠一が自信ありげにそう言った後、一拍明けてから自信なさげにこう付け足す。


「まあ改めて考えても相当愚作だとは思うんだけど、聞いてくれるか?」


「あたりめえだ。もうそれが頼りなんだ。教えてくれ」


「分かった」


 そう言って誠一は考えた策を明かし始める。


「まず頃合いを見計らって俺はお前を裏切るフリをしようと思う」


「裏切るフリ?」


「そう、裏切るフリだ。とりあえず俺はお前が今日対策局内でエルを異世界へと送れるんだと思っているって体でしばらく進めさせてもらうつもりだ」


「つーことは、俺達の嘘が露見した段階で裏切るフリっていうか、敵に回るフリするって事か。お前話ちげーじゃんって」


「まあそういう事だ」


「でもまたなんでそんな事を」


「お前と荒川さんの戦いが長期化するのが一番マズい展開だ。だったら代わりに俺がって言いたいけどよ、さっきも少し言ったがお前らの戦いは俺みたいのからすりゃ少年漫画並みにインフレしてんだ。流石に俺が正面から荒川さんにぶつかっても一蹴されるだろうし、そもそも一緒についてくるであろう部下の方々もまあ、本来やるなら一対一って相手だ。それが複数人来る。つまり俺はマジで役に立たん」


 だから、と誠一は言う。


「弱者が強者に一矢報いる為の最善策を取ろうって訳だ」


「最善策?」


「不意打ちだよ。それで俺が場を掻きまわしてる間にお前を逃がす」


 不意打ち。もしかするとそれを卑怯だと非難する人間もいるかもしれない。

 だけど実際それは有効策だ。

 戦闘能力の差。人数の差を少なからず軽減させる事ができる。正々堂々なんて綺麗な言葉を使っていられる状況ではない以上、否定する要素が見つからない。


「じゃあつまりエルを剣にしてから一芝居した後、俺はなんとかその場からの脱出を試みる。誠一は俺の敵に回ったフリして俺達をサポートしてくれるって事でいいのか?」


「まあ大雑把に言えばそんな所だな」


 だけど、と誠一は言う。


「それだけじゃ多分駄目だ」


「駄目? 何がだ」


「俺達は役者じゃなければ演劇部ですらねえ。一番の問題は大の大人をガキの小芝居で騙せるのかって事になる」


 ……まあ確かに演技しろと言われても、リアルにそれを見せられるかどうかは分からない。

 下手すれば俺と誠一が無駄な小芝居を打つだけという無駄な時間を送った末に、不意打ちというアドバンテージ無しで戦いに臨まなくちゃいけなくなる。


「だけどそれ言いだしたらもう何もできねえだろ。なんとかこう……うまくやるしかねえ」


「……と思うだろ? 実は何もできない訳じゃない。俺らの演技をガチっぽくする手段は考えてある。寧ろ俺の作戦は此処からだ」


 そして誠一は一拍明けてから、正直言って無茶苦茶だと思う事を口にする。


「エルを剣にしたら数回言葉交わした後俺の方から手加減無しでお前を鎮圧しにかかる。だからお前は殺すつもりで俺を薙ぎ払ってくれればいい」


「ちょっと待て誠一。一体何を言って……」


「流石にそれだけ互いに躊躇いなくやれりゃ多少は俺への警戒も落ちるだろ。だからお前の攻撃喰らって、そこから何とか意識留めてお前逃がしてうまく荒川さん達を足止めする。それが俺の策だ」


 そして誠一は小さく笑い声を上げて言う。


「な、中々無茶苦茶な愚作だろ」

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