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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
六章 君ガ為のカタストロフィ
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51 いずれ彼らを救う為に 上

活動報告で前回の話加筆修正すると書きましたが、結局しない方向に落ち着きました。

「……ッ」


 目が覚めた。前後の記憶は一瞬朧気に感じられるが、それでも意識を失う直前の記憶は蘇ってきて、今からするべき事も鮮明に理解できた。


「あ、瀬戸君」


「お、目ぇ覚めたか?」


「……目ぇ覚めた」


 こちらが目を覚ましたことに気付いた誠一と宮村にそう言葉を返して起き上がる。


「体の調子はどうだ」


「何の問題もねえよ。今すぐにでも動ける」


 男の攻撃は本当に意識を失うだけだったのだろう。両手足に不具合はない。いつだって全力で体を動かす事ができる。

 そしてそんな俺の解を聞いた誠一は、だったらという風にこう言う。


「ならもう早速動くか。早いに越したことはねえ。天野さんが対策局内に戻って来たらただでさえハードモードなミッションの難易度が更に底上げされちまう」


「ああ」


 その言葉に否定する事は無い。

 俺が眼を覚ました。そして誠一と宮村も起きている。そしてやるべきことも決まっている以上、此処に留まる理由はない。

 ……この家ともお別れだ。


「今特別何か準備する必要とかはねえよな?」


 誠一にそう確認すると、一瞬考える素振りを見せてから誠一は言う。


「異世界に行くって考えると食料だとか着替えだとか色々持っていく必要はあるだろうけどよ……まあそれを持って逃げられるかっていうと難しいだろうしな。確か山形県だったな。向こうに着いてから調達する方が現実的だと俺は思う」


「……でも手ぶらだと異世界行く気あるのかなって思われないかな?」


「……確かに」


 宮村の意見に頷く。

 冷静に考えてその場から今すぐに異世界に飛ぶという話ならば、それ相応の準備をしていかないと不自然に思えるかもしれない。

 だがそこは誠一が持論を展開する。


「エルに残された猶予は明日まである。そんな中で今日異世界へ飛び立とうっていうんだ。それ相応の理由が必要になってくる。まあ簡単に考えた所だと、お前がその異世界に飛ぶ為の力を使える様になったが、いつまでそれが使えるか分からない。もしかすると次の瞬間には使えなくなっているかもしれない。だから今日やるって所か。そうなってくれば……寧ろ下手な準備をするよりも切羽詰まって急いできました感演出した方がうまく行きそうな気がしねえか」


 本当に急な事。確かにそうなれば悠長に色々準備している方が不自然な気がする。


「流石誠一。ナイスアイデア」


「いやいやどうも……んじゃまあとりあえず俺の方から色々根回しはしとく。流石にアポ無しで殴りこむ訳にもいかねえからな。向こうにもスムーズに動いてもらわなくちゃいけない」


「私はどういう体で動けばいいかな?」


「茜はアレだ。とりあえず栄治や俺が異世界に行くとかいうアレな意見を出したことに反発して、二人が行ってしまう前に全部解決する為に協力しに来たって体で行こう」


「それで天野さんが動きだす様な事があれば足止めする。そういう事?」


「そういう事だ。それでいいか?」


「いいよ。そんなに長くは止められないと思うけどやれるだけの事はやってみる」


 そう言って宮村は一拍明けてから言う。


「じゃあ私はもう行った方がいいかな? 何かやるにしても向こうの空気に少しでも馴染んでた方がやりやすそうだし」


「じゃあ頼むわ。あんまり無理すんなよ」


「無茶言わないでよ無理はするよ。無理してでも勝てない相手なんだから」


「じゃあ頑張れって言ったほうがいいか?」


「誠一君それ正解」


 宮村はそう言って笑みを浮かべた後、今度はこちらに声を掛けて来る。


「瀬戸君も頑張ってね。エルちゃんの事よろしく」


「ああ、頑張る」


 そう返事した上で、宮村には伝えておく事がある。


「宮村もその……本当に色々助かった。ありがとう」


 今俺達の味方でいてくれるこの二人には、感謝してもしきれないんだ。

 今、此処で宮村が動くとすれば、多分俺達はもう会う事は無いだろう。

 だから今、礼を言っておかないといけない。


「どういたしましてだよ」


 宮村はそう答えた後、一拍空けてから俺に聞いてくる。


「じゃあその見返りって訳じゃないんだけど、お願い一つ聞いてもらっていいかな?」


「分かった、俺にできる事ならなんでもやってやる……ってもマジで時間ねえからできる事なんて限られてると思うけど」


「後でいいよ。エルちゃんに伝言、伝えてもらっていいかな?」


 ……そういう事か。

 俺とエルは異世界へと飛ぶ。それまでの期間宮村と顔を合わせる事は無い。それ故に俺に礼を言う機会は今しかなくて……そしてエルにはもう宮村と直接会う機会はもう無い。

 だったら……これは必ず伝えなくては行けない大切な言葉だ。


「なんて伝えればいい?」


「今まで楽しかったって、伝えてもらえるかな?」


「……分かった。それだけでいいのか?」


「ううん、あと一つ」


 そう言って宮村は伝言を告げる。


「また今度って伝えといて」


「また今度? それってどういう――」


「じゃあ私はそろそろ行くよ。後の事はお願いね、誠一君」


「おう」


「ちょっと待てよ、一体さっきのはどういう……」


 意味深な言葉を残し、俺の問いに答える事が無いまま、宮村は部屋を小走りで出て行ってしまう。

 そして玄関の扉が開く音がした。どうやら本当にそれに答える気もなく天野の所に向かってしまったらしい。


「一体何が言いたかったんだ宮村は」


 俺達が異世界に行ってしまえばもう会う事は無いのに。


「まあ茜が動いた以上、俺達も動くか。外にバイク止めてある。それでいこう」


「あ、ああ」


 話が切り変わってしまい、誠一にその事を聞くこともできなくなった。

 そして誠一はそんな俺をよそに言葉を続ける。


「まあ出発前に色々連絡だけは入れとかねえといけねえけど」


「対策局の上の人にか?」


 さっきアポを取らないといけないと言っていたが、その事だろう。


「まあそれも当然するんだがその前にもう一人掛けとかないといけない人が居る」


「誰だ?」


「霞先生。多分今俺達の立場から見て一番信頼できる人はあの人だ。そして今、そういうポジションの人を一人味方に付けとく必要がある」


「味方に?」


「ああ。考えてもみろ。俺達は今から対策局に話を通してエルの元へ向かう訳だが、対策局側は俺達の話が真実かどうかを何も知らないエルに尋ねるかもしれない。お前の力がエルから供給されている事は把握済み。だとすれば異世界に飛ぶ為の精霊術が今使えるかどうかなんて事はエルに聞けば分かっちまうんだ」


「だからエルに作戦の事を伝える為の伝令が居る」


「まあ大体そんな感じだ。あの人はエルの元に比較的自由に行くことができるし、なによりあの人は多分事情が違えば此処に居てもおかしくない位エルに入れ込んでる。だから快く動いてくれる筈だ。だからあの人にそう動いてもらうための手筈を整えて、それから上にエルを救う為の策を流す」


 そう言って誠一はスマホを取りだす。


「まあうまくやるさ。やってみせる。だからちょっと待っててくれ」


 そして誠一は電話をかけ始めた。

 そこから誠一は牧野霞にこちらの作戦を伝える。

 俺はそこまでその人の事を知らないが、誠一が言うならその人には情報を流しても問題ないのだろう。誠一がそう言うなら信じよう。

 そして誠一はこちらが魔術により話せなくなっている、イルミナティに関する事以外の情報を牧野霞へと告げた。


「じゃあ俺らももう動くんで、よろしくお願いします」


 そして誠一がそう言ったという事はその話を引き受けてくれたのだろう。それに少しホッとする。


「ああ、でも一つ、できればでいいんで、お願いしたい事があるんです」


 そして誠一は電話の先の牧野霞に対してこう告げる。


「エルの奴には詳しい話を伝えないんでほしいんです。あくまでもし対策局の人間に話を聞かれたら、うまく話を合わせてもらう程度の事を言って貰えれば。ええ、はい。それでいいんです。まあそうなったら伝わっちまいますけど、そうでなければそれは俺達の口から伝えるべきことじゃないでしょう。はい、じゃあそれでお願いします。分かりました。よろしく頼んます」

 

 そう言って誠一は通話を切った。

 詳しい話を伝えなくていい……一体どういうつもりだ?


「とりあえず協力してくれそうだ」


「それは良いけど、詳しい話伝えないってどういう事だよ」


「まあもし対策局がエルに話を聞こうとすれば、そこからお前がエルを異世界に連れていこうとしているって事はエルに伝わる。だけどそれはできる事なら第三者から伝えられていい様な言葉じゃないと思う。対策局は話を聞く様な事にならなければ、それはお前の口から伝えるべき言葉だと思うんだ。だからエルには詳しい話は流さない。お前がエルに伝えるんだ」


 ……そういう事か。


「勝手に重荷背負わせて悪かったな」


「いや、それでいいよ。どのみち俺が伝えて説得しなきゃいけない事だと思っていた。というか多分俺が言わないと駄目なんだよ」


 説得できるかできないかという問題ではない。

 そんな大事な話は、きっと俺から言わないと駄目なんだ。うまくは言えないけれど、きっとそうだ。


「そう言ってくれて安心した。じゃあ後は上へ話通す。もうちょっと待ってろ」


 そうして再び誠一は電話を始める。

 結構うまい具合に切羽詰まった風に誠一は向こうと通話を続け、そしてうまく事が運んでいる事は誠一の言動から理解できた。

 そしてしばらくの通話の後誠一は通話を切り、今までの切羽詰まった雰囲気を感じさせない普通の感じで、俺に言う。


「とりあえず早くお前を連れてこいだそうだ。んな訳でさっさと行くぞ」


 どうやら第一関門は突破したようだった。

 俺は誠一の後を追いながら誠一に問う。


「それで向こうについたらどう動く。よく考えたらその辺の打ち合わせ何もしてねえんだけど」


「それに関しちゃ色々と考えてみた。どうせ色々言っとかなきゃいけない事がある。向かいながら話すわ」


 そんな会話を交わしながら俺達は家を出た。

 玄関の鍵を閉めて、思わず感傷に浸る。

 今まで当たり前の様に此処に住んでいて、そしてエルを連れて帰ってきて……そしてもう此処に帰ってくる事は無い。

 そういえば親父達にはなんの連絡も入れてねえな。まだ帰ってから顔も合わせていないし、エルの紹介すらもしてねえや。

 ……俺が異世界へと向かったらどういう扱いになるんだろうか。まあ対策局の人がうまくやってくれる事を願おう。

 ……まあいい。

 そういう事を余計な事として切り捨てるのはどうかと思うが、今に限ってはそれどころじゃ無い。

 エルの事だけを考えればいい。それで俺には手一杯だ。


「行くぞ。早く乗れ」


「ああ、悪い」


 そして俺は誠一のバイクの後ろに乗り、自宅を後にする。

 もう帰ってくる事は無い。 

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