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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
六章 君ガ為のカタストロフィ
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49 奪還作戦

「キミ達も知っているだろうが対策局内部は今現在非常に混乱している。非番部隊を含めた多くの隊員があの精霊を救うために我々を探しているらしいな。それが空回りに終わってくれなければ我らが困るがそれでもその動きそのものは称賛したい。このままその姿勢を崩さず、今回薬という形で我々の想像の範疇を超えて見せた様に、うまく精霊を救う方法を見つけてほしい物だよ」


そう男は前置きした上で本題に入る。


「さて、そういう風に精霊を救おうと動いてくれている訳だが、だからと言ってあの精霊を連れだすのは難しいだろう。それで簡単に話が進んでしまうようなら日本は今頃暴走する精霊によりもっと酷い状況に陥っている筈だ。そして強行突破も難しいだろう。何しろ我々は裏方だ。表に出るわけにはいかない。つまりは

攻略するには戦力不足だという事だよ」


 戦力は俺達三人だけだからな

 多分というか間違いなく三人束になっても天野宗也一人にも勝てない今、それはあまりにも乏しいものだ。

 ……でも。


「だったらどうするつもりだ」


 強行突破も無理。説得も無理。では後は何が残っている?

 そして俺の問いに男は答える。


「対策局を欺くんだ」


「欺く? つまり嘘を付くって事か?」


「そうだ。心苦しいが彼らの良心を利用させてもらおう」


 男は一拍明けてから言う。


「まず前提条件として、彼らは左程精霊の事を知らない」


「そんな事はないと思うけど」


「いや、どうだろうな」


 宮村の反論に男はそう答える。


「例えば精霊術が一体どういうプロセスを踏んでどういうメカニズムで発動している物か、なんて事をキミ達は説明できるかね?」


「それは――」


「分からないだろう? ……では瀬戸栄治君。模範回答をお願いできるかな?」


「模範解答……そうだな、なんかこう……超能力みたいいな感じって言えばいいのか?」


「この通りだ。使っている本人ですらぼんやりとした事しか分からない。そして対策局側にはさっき説明した異世界に行ける時と場所の情報が回っていない訳だ。つまり……キミが言う事は真実になる。何せ実際に精霊術を使ってこの世界と向こうの世界の二つを行き来した事のある人間はこの世界にキミしかいないんだよ」


「じゃあなんだ。エルを異世界に連れて行くからエルの元まで案内しろってストレートに言えって事か?」


「そういう事になる。これはシンプルかつ愚作にも思えるが、おそらく現状最も有効な手段に思える」


 ……まあ確かにそうなのかもしれない。

 人間と精霊が似て非なるように、魔術と精霊術でも勝手がまるで違う。

 対策局側の良心が大いに影響しているものの、強行突破よりもまだ現実的に思える。

 だけど……仮にエルの元まで無事に辿りつけたとしてもだ。


「じゃあそうやってエルに会った後はどうする。エルを説得出来ても俺は明後日まで異世界へと渡るための精霊術を使えない以上、対策局から脱出しなくちゃいけない。だけどエルを異世界に遅れない以上、そこで嘘が露見するぞ」


「そこは嘘に嘘を重ねようか。対策局内部は精霊が出現しない様な結界……転移魔術を始めとしたそういう類の術式を無効にする結界が張られている。それが原因で飛べないというていで外に出してもらおう」


「それじゃあ駄目だ」


 反論したのは誠一だ。


「あの結界は結構融通が利く代物だ。効果範囲を伸ばせと言われれば無理だがピンポイントに結界を向無効化する事は出来ない事もない」


「……知ってるよ。だからそれでうまく行かなければプランBだ」


「プランB?」


「強行突破だ」


 強行突破って……。


「それができねえからうまく嘘ついてエルの所まで行こうって話だろ」


「潜入と脱出では話が違うさ。単純に戦力が変わってくる。考えてもみたまえ、そこまで辿り着きさえすればキミはあの精霊を武器化できるんだ。少なくとも楽ではなかったであろう異世界での戦いを生き残らせただけの力がキミの手に宿る」


「……だけど天野には歯が立たなかったぞ」


「それに関しては対策を打たねばならないな」


 そう言って男が視線を向けたのは宮村だった。


「天野はキミが抑えるんだ」


「私?」


「今現在天野宗也は土御門洋介らと共に対策局の外で陣を張り我々を探し出そうと動いている。だがいざとなれば対策局のほうに戻ってくるだろう。だからそれをキミが食い止めるんだ」


「食い止めるって……私でもあの人には勝てないよ?」


「勝てなくてもいい。彼がゴリ押しで対策局内部からの脱出を終えるまでの僅かな間足止めしてくれればそれでいい」


 ……確かに宮村ならばそれも可能だろう。

 あの戦いの中でも感じたことだが、宮村はエルを刀に変えた俺よりも強い。話の流れから考えてその場には誠一の兄貴達もいるのだろうが、それでもある程度戦うことはできるだろう。

 言われた宮村は少し考えるそぶりを見せた後、男の提案に頷く。


「……分かったよ。やってみる」


「よし。そういう訳で一時的にだが天野宗也という驚異は抑えられるわけだ。ならば後は脱出するのみ。

そこを含めた内部でのフォローはキミに頼むよ、土御門君」


「フォロー……」


「対策局との橋渡しや脱出に至るまで、一応部外者である彼一人では難しいこともあるだろう。そこはキミの力で何とかしてくれ」


「……まあ俺にはその位しかできねえか」


 軽くため息を付く様に誠一はそう言った後、一拍明けてから男に問う。


「で、脱出した後はどうするつもりだ。協力するみたいな事を言っておいて、ここまでほぼ俺達しか何もやらない感じになってんだが、一体どうやって二人を逃がすつもりでいる」


「これを瀬戸君に使ってもらう」


 そして男から俺に向けて何かが投げられ、俺はそれを受け取る。

 握ったそれを見てみると、手の中にあったのは鍵だった。


「我々が使っている鍵の簡易版だ。諸事情あって使い切りのそれ一つしか用意はできなかったが、それがあれば魔術師でなくとも池袋から埼玉県位までの距離なら移動できる。そしてもう一つ」


 そして男が取り出したのは二つの指輪だ。


「元々魔術の気配を消す為の物だが、これを嵌めれば理論上精霊の発する気配も消せるはずだ。これを嵌めた上で鍵を使って移動してもらえば対策局側もそう簡単にはキミ達を補足できない」


「精霊の気配を消す……んな事できるのか?」


「できてもおかしくない」


 俺は誠一の言葉にそう答えた。


「実際に異世界でそういう物に世話になった」


 シオンクロウリーから受け取った枷は確かにエルが放っていた精霊の雰囲気を消し去った。

 実際そういう事例があるのだから、十分にあり得る話だ。

 ……それよりも、たとえ気配を消せても大きな問題が残っている。


「でも例え対策局から見つかりにくくなったとしても、警察とかに情報が回っていれば場合によっては通報されて居場所がばれたりとかしそうなんだが」


 俺の問いに男は答える。


「警察や対策局の支部などの通報などに関しては心配しなくていい。そこをどうにかする事こそが我らの今回最大の仕事と言ってもいい」


 ……つまりはその内部にいるスパイがどうにかするという事だろう。

 ……本当にどこにでもいやがる。


「他にも陰ながらフォローはさせてもらうつもりだ。今のままではそこら中穴だらけの策だからな」


 だが、と男は言う。


「現状キミ達が選択できる中で最善の解を提示できた筈だ。確実にうまくいく保障などどこにもないが、それでも我々を精霊を助けるという同じ意思を掲げる人間だと思ってくれるならば、是非この案を呑んでほしい。どうかね」


 誠一と宮村がうなずく中で、俺も男の問いに間髪明けずに答えた。


「どうせこれしかねえんだ。やってやるよ」


 ……異世界へと戻る。

 そんなどうしようもない案をエルに伝えてどんな反応をするかはわからないけど。

 それでも俺はエルを救うんだ。


 ……待ってろ、エル。


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