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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
六章 君ガ為のカタストロフィ
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47 世界の意思 上

「化物っていうのはさっきから言ってるエネミー事でいいのかな?」


「ああ。別に見ておきたくもないという事ならそういう事でもいい。別にそれを見る事によってあの精霊を救える訳でもない。その判断はキミ達に任せよう」


 男は最初に今までの話の信憑性を上げるためと言ったが、確かにそれをその目で見る事ができればこちらもより今まで語った男の話が真実に近い物であると認識できるだろう。

 ……できればそんな事を認識したくはないのだけど、それでももうエルをそういう風に助けると決めた以上色々な事を否定しても何も始まらない。

 そうなってくれば今すぐ何かできる事もない以上、そのエネミーという存在を目にしておくことにデメリットはないだろう。


「……見せてくれ」


 だから俺はそう答えた。


「二人とも、それでいいか?」


 俺が誠一と宮村にそう問うと、宮村も誠一もそれに頷いた。

 もしかするとこの男の話に対して俺達はみんな少し違う感情を抱いているのかもしれないけれど、それでもその存在を見るに越したことはないという考えは同じなようだった。


「だったら着いてくるといい。この鍵さえあればすぐに目的地に辿り着く」


「……鍵さえあればって事は、別にお前が魔術を使って空間を飛んでいるわけじゃねえのか」


「当然鍵を起動するのには基本的に魔術を使う。だが要となるのはこの鍵だ。キミ達の使う武器と同じようなものだというべきか。もっとも厳密にはテクノロジーのカテゴリが違う訳だが」


 どちらかといえばと男は具体例を挙げる。


「キミ達が日々使っている記憶を改竄する装置。部類としてはアレに近い」


「……は?」


「あれは我々の祖先が残したテクノロジーの結晶だよ……なんてい言うとどうしてそんな物が対策局にあるのかとキミ達は聞きたくなるだろう。だから先に言っておく。これもまた信じたくなければ信じてくれなくても構わないさ」


 男は一拍空けてから言う。


「キミらの様な表側の魔術師は我らイルミナティの前身から派生して生まれたような存在なんだよ。だからその根底には我々の意思が根付いている」


「……どういう事だ?」


「歩きながら話そう」


 そう言った男は再び入り口の方へと歩きだし、そして周囲の仲間に声を掛ける。


「そういう訳だ。篠原。秋月。それに蒼井。当初のプランから外れているとはいえ念の為元老院に申請はしてある。着いてきてくれ」


 男がそう言うと俺達の周囲にいたうちの何人かが男の元へと歩み寄る。

 多分その全員が実力者なのだろう。

 俺達が仮にあの男に攻撃する様な事があったとしてもそれを抑え込める様な、そういう人材。


「さあキミ達もだ」


 そして男は俺達を促し、俺達も立ち上がり男の元へと向かい、男は鍵穴に鍵を差し込み扉を開いた。

 そうして移りこんだ光景は当然ながらファミレスの中ではない。

 一言で言うならば広く無機質な研究所の様な、そういう所。


「私から離れるなよ。此処から先は一国の国家機密に匹敵する程の重要な情報が溢れている。当然の事ながら私の同伴でなければ足を踏み入れる事はおろか存在すら認知してはならない場所なんだ。下手に動いた場合の身の保証はできない。今回の全ての要である瀬戸栄治君はともかく、キミら二人はね」


 釘を刺すように俺達に男はそう言ってくる。


「流石にここで何かやろうってんなら、俺らはファミレスでアンタらと戦争してたよ」


 誠一はそう答えた後、話を戻すように男に問う。


「で、さっきの話はどういう事だ」


「キミらの組織がイルミナティから生まれたという話だったな」


 男は確認するようにそう言って、俺たちから否定の言葉が返ってこない事を確認してから話を再会する。


「かつて全ての精霊を異世界へと送りだした我らの祖先は、世界中の魔術師を二つに分ける事にした。その一つが世界の意思からこの世界の人間を守りつつ、その意思に対抗するべき研究を続けたイルミナティ。そしてもう一つが対策局の様な対精霊組織。この世界に現れた暴走する精霊を倒し人間を守る存在。元は一つ、故に根底は我らもキミらも変わらない。我々の技術の結晶が置かれているというのはそういう事だ」


「……じゃあなんで私達は何も知らないの? 元は同じだったんだよね?」


「精霊を犠牲にするという選択は苦渋の選択だよ。そしてそんな揺らいではいけない意思は世代を超えればいとも簡単に揺らぐことも想像できた。故に我らイルミナティの様に最低限必要の人間以外が世界の真相を継がないように取り決めた。それを記した文明の痕跡を破棄封印し、全ての矛盾を極力消し去る為に精霊との交流関係も全て隠蔽し、キミら側には突如異世界から現れた人と同じ姿をした暴走する生命体として語り継がせる事にした。その結果が今の現代だ。我々は今だエネミーの侵攻を食い止め、キミ達はその魔術の存在も知らないでいた。それ故に今日まで多くの人間が生きながらえている」


 そして男は一拍空けてから言う。


「これで答えになったか?」


「その話が本当だとしてだ……一つ聞いておきたい」


 誠一は男に問う。


「あの記憶を消す装置……アレをアンタらの祖先が用意したのだとすれば、一体なんの為にあんなもんを用意した。俺達はそうしないと世の中が回らなくなるから使ってるみたいなもんだが、そもそも最初からそういう物を用意しなけりゃ俺達が今使わざるを得ない様な状況にはなっていない筈だ」


「そういう状況だからいいんだ」


「なに?」


「何も知らない状況から突然圧倒的な非日常が展開されれば世界中が大パニックだ。故に人の記憶を調整しなければならない。だがそれ故に……精霊の事を誰も知らない。そして知らない者にどんな印象も抱く事などできんさ」


 そして男は一拍空けてから言う。


「もしもの話だ。この先エネミーをどうにかできたとして、その世界に残った人間が精霊に対し嫌悪感を抱いたとすれば、それは本当に救いのない話だろう」


「……そういう事か」


 誠一は納得した様にそう答える。

 確かにその通りだ。結果的に精霊が人間に危害を加えている事は間違いなくて、それで対策局の中にも精霊に良い印象を抱かない人間も多くいる。

 だとすればたとえ精霊と共存できる様な環境になったとしても、そこに精霊の居場所は無いのかもしれない。

 俺は結果的に精霊が暴走する姿を見ても……エルに半殺しにされるような事があっても結果的に今の俺達の関係があるわけだけれど、俺の時の様にそううまく行く展開ばかりではないだろう。

 だとすれば今の精霊の状態は、多分知らない方が双方の為だ。


「もっともかつての人間が残した願いは今も叶いそうにないわけだがね」


「叶える気はあんのか」


「なければこの先でエネミーの研究などしていないさ」


 そして男はエレベータの扉の前に立ち止り、タッチパネルに暗証番号らしき何かを入力しながら俺たちに言う。


「この下だ。この下にエネミーがいる」


 そう言って開いた扉に足を踏み入れていく男に続くように俺達もそれに乗りこんだ。

 そして辿り着いた先。エレベータを下り少し進んだ先。結界の様な物で隔離された広い空間の中にソレはいた。


「アレがエネミー。世界の意思だ」


 結界越しに見ても分かる、現実離れした姿。

 人型。だが全てを飲み込むほどの極黒。そして圧倒的なまでの禍々しい雰囲気。

 本来俺達が倒すべき筈の相手がそこに居た。

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