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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
六章 君ガ為のカタストロフィ
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46 イルミナティ Ⅶ

「……」


 あと三日。

 その言葉が重く圧し掛かってくる中で、抱いた感情は絶望的な物だけでは無い。

 それは確かに最悪で洒落にならない話ではあったが、それでもそこに希望がなかったわけでは無い。

 だから俺は話を進めさせた。


「エルを連れだす策はあるのか」


「……ある事にはある。中々難しい事だがね」


「どうすればいい」


「その辺りの話は後だ。こちらはこちらで準備を進めている。それが纏まらない事には碌な事を話せんさ」


 だがこれだけは言っておくと男は言う。


「大々的に動くのはキミだよ瀬戸栄治君。我々はあくまで裏方だ。直接的な支援はあまりしてやれないという事だけは頭に入れておいてほしい。連れだした後の逃走も同様だよ」


「……だったらその後は」


 そこを追及したのは誠一だ。


「エルが確実に正気を保っていられるのは後二日だ。その保証された期間を過ぎた後はどうするつもりだ。まさか何も策がねえとは言わねえよな?」


 俺とエルを異世界へと向かわせる。その選択に今だ乗り気ではないのが目に見えて分かる誠一のそんな言葉に男は答えた。


「言わせてもらおう。それに関しては何もないさ」


「……何もない?」


 誠一が驚いた様にそう言葉を返す。

 だけど俺はもうそういう物だと考えていた。

 だってそうだ。


「キミは我々が残りの猶予期間を引き延ばばす様な手段を持っているとでも思ったのか……そんな物があるのならそれを教えた上で対策局で無事三日目を迎えさせるさ」


 男の言う通り本当にそんな事ができれば、色々な問題を消滅させられる。

 それどころか場合によっては異世界に行くという選択肢を取る必要が無くなる可能性だってあるわけだ。

 ……今此処でこうして話をしている時点でもうそんな簡単な解決策が残っているわけがない。

 そして男は一拍空けてから言う。


「イルミナティに精霊のSb細胞を抑える様な技術は無い。あのエルという精霊が我々の魔術に対して強い耐性を持っていると本気で思いこむ位にはその分野に関する知識が欠落している」


「……本気で信じてたのかよ」


「もかつての先人達は自分達の魔術が欠陥品である事を理解していて予め異世界へと精霊を送ったそうだからな。契約を結んだ精霊が我々の魔術の元でどう動くかなどというデータは持ち合わせていなかった」


 そして、と男は言う。


「そんな中で我々が得た情報はあの精霊が体内のSb細胞を除去できているという情報だ。暴走しないという異例の事態にそういう研究報告が重なれば我々はそれを信じざるを得ない。今にして思えば疑っておくべきだったよ。我々が真実を知っていれば、もっと早い段階でキミとあの精霊に直接会って異世界へ向かうよう進言していたというのに」


「……多分そううまくはいかなかったと思うぞ」


 今俺達はエルが暴走したという前提の元にこの話を聞いている。

 もしもエルが暴走しないと思っていれば、仮に同じ話を聞いていたとしても信じるという選択は取らなかったかもしれない。


「だろうな。故にどう足掻いても今回のケースと似たような状況には陥っていたかもしれない」


 まあとにかくと男は言いう。


「その点は我々にはどうする事もできない。それ故に最終的に重要になってくるのは、あのエルという精霊がどこまで持つか。その一点に限る」


 そういう事になるだろうとは思っていた。

 だからあと三日という日数は絶望的だがまだ光が見える日数だ。

 これが四日五日とんあったらその時はもう流石にこの手段でエルを救うのは不可能だと思う。

 そうなればやれる事はもう一か八かで何とかして無理矢理世界中に展開されている魔術を破壊するか。もうそれ位しか残っていなかった。

 なにはともあれ三日間なら十分に可能性はある。


「……理解してくれたかな、土御門誠一君」


「……これが無茶苦茶な作戦だって事は理解したよ」


 誠一はそう言うがその先の反論は出てこない。

 別に代替えできる策などもう残されてはいないだろうから。

 もう俺達にはそれしかないから。


「無茶は百も承知だ。もしここから対策局側が日数を引き延ばせる薬でも開発してくれれば話は別になるだろうが……報告によるとそれも難しそうだ」


「報告……ちょっと待て、冷静に考えればアンタはどっからそういう情報を仕入れている。いくらなんでも俺達の事情を知りすぎじゃねえか」


 誠一は不審そうに男にそう問う。

 考えてみればそうだ。コイツは多分外部の人間が探れる様な情報以上の物をその手に収めている。冷静に考えればそれは無茶苦茶な話だ。

 さっきの話の誠一の兄貴の報告だって多分出回ったとしても対策局内かもしくは海外にあるという対策局の様な組織に位だろう。

 少なくともこういう存在も認知されていないような組織に出回ることは無い筈だ。

 ……ならどうやってコイツらは情報を手にしている。

 そう考えて思いついた答えは一つで、男はそれを口にする。


「イルミナティはどこにでもいるよ」


「……どこにでも?」


「ああ、どこにでもだ。もっともどこにでもとは言ったが、今回の一件の中心にいるような者の中には紛れ込んでいなかったみたいだが。それ故に真実を掴み損ねた」


 つまりはスパイという事だろう。

 対策局の誠一達の部隊以外の誰かがイルミナティの人間で、誠一の兄貴が提出した虚偽の報告を鵜呑みにして情報を持ちかえった。つまりはそういう事だ。


「……一体誰だ。茜、なんか心当たりあるか?」


「……誠一君が分からなかったら私も分からないよ。暫く出入りしてなかったんだから」


「完全に溶け込んでいるだろうさ。今も、これからも」


 男はそう言った後、一拍空けてから言う。

 

「まあキミ達にとってはあまり気分の良い話ではないだろうがね、これはキミ達にとって朗報の筈だ」


「朗報?」


「対策局の中に我々の息の掛かった人間がいる。それ故に我々はあの精霊の奪還の支援を行う事が可能となるわけだ」


 まあ確かに内部にそういう人間が居るのだとすれば、今の俺からすれば朗報でしかない。

 エルを連れだす。その役に立つのは間違いないだろうから。

 そしてそんなやり取りを交わした後、男はさて、とその場で立ち上がる。


「どうした急に」


 誠一が男に問うと男は素直に答える。


「キミらに話しておかなければならない事は大体話し終えた。そして作戦概要を説明するにもそれは対策局に送りこんだ人間の報告を待ってからの方が良い。つまりはタイムリミットが迫る中で空き時間が発生している訳だ」


 だから、と男は俺達に言う。


「今までの話の信憑性を上げてもらうためにも、今から一度キミ達に隠し通してきた化物を見せよう。我々の敵を……この世界の意思を」

そろそろ説明回終わりそう……

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