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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
六章 君ガ為のカタストロフィ
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20 守護の刃

 天野は俺達の動きに相対してくる。それも明らかに全てを出しきっていない今の状態でだ。

 言ってしまえば天野宗也は俺達よりも格上。その力の底が見えない。

 故に力任せのゴリ押しは通用しない。故に冷静に状況を判断して有効な策を練らなければ勝てない。現状それも見えてはこないけれど、それでも冷静になれ。

 今なら。今の俺ならそれくらいの事はできる。

 

 そして探す答えが見つからなかったとしても、冷静になれば見えてくる事もある。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


 俺は天野の周囲に展開した魔法陣を過度に警戒する事を止めて天野との距離を詰める。

 これは読み。予測の勝負。

 天野のあの魔法陣は見掛け倒しだ。先の答えを問われた俺への牽制用だ。

 少なくとも今この場では、見掛け倒しとしか機能しない。


 詳細が分からなくともあの魔法陣は危険だと感覚や視覚的に訴えられている気がするし、それは確かにそうなのだろう。

 だけど此処はどこだ? 俺達は一体どこで戦っている。


 東京、池袋だ。


 天野が初撃で放った何かを俺は何も考えずに反射的に打ち払った訳だが、果たしてそうして弾かれた何かは軌道上に存在するビルに何かしらの影響を与えただろうか?

 否、大剣に伝わっていた強い衝撃とは裏腹にビルには傷ひとつついてはいない。

 つまりはそういう事だ。

 そういう流れ弾。少なくとも自分の攻撃で周囲の建築物を破壊しない様な術を天野は使用している。

 つまりは目の前の男は正義の味方だ。文字通り彼も守るために戦っているのだ。


 俺の斬撃をあえて躱さず結界で受けたのもその所為かも知れない。

 恐らくこの他にも保険は敷いてあるのだろう。この戦いで大きな被害を出さない為に。

 俺との戦いで。そして来るべきエルとの戦いで周囲を壊してしまわぬように。


 ……だったら好都合だ。


 本当の全力を出していないのなら、それを出すにはもう遅いという状況にまで追い込めばいい。

 そうなれば俺の勝ち。


 故にもう過度な警戒などいらない。

 一撃で周囲一帯を更地に返る様な攻撃はきっとないから。だったら最悪攻撃を受けても致命傷は防げる可能性が高いから。

 そしてそうなれば何度だって立ち上がれる。立ち上がってみせる。いつも通りだそんなもん。

 そしてそれだけじゃない。


 きっと今の俺とエルならそういう無茶をもっとうまくやれる。


 そして俺の魔法陣の読みは的中した。

 天野の懐に接近したころには天野の周囲の魔法陣は消滅していた。

 恐らく発動させていれば強力な力だったのだろう。だけど何もなければ前に進める。

 そして懐に踏み込み、風で速度にブーストを掛け斬り上げる。


「……ッ!」


 それはギリギリの所で躱される。だけど今の俺の武器は大剣とは違いリーチが短い。大剣よりも次への切り返しに繋げやすい。

 そして多少無理な動きでも風で無理矢理何とかできる!

 そして風で無理矢理体勢を修正して刀を勢いよく降り下ろす。


「……ッ!」


 それを手の甲で受け止めた天野はやや表情を歪めながら言う。


「どうやらお前への認識を改めなければならないようだ。お前は正しい事に固執するような人間だと報告があったのだがな――」


 そしてこちらの刀を押し返してくる。


「――ただの我儘なガキだよお前は」


 隙を付くように即答部に蹴りを放ってくる。だが何か阻まれたかの様に天野の蹴りの速度が僅かに落ちる。その隙に片手を刀から離し頭上に風を放出。無理矢理低い体勢を作る。

 次の瞬間には天野の蹴りが頭上を通過。間一髪の回避。

 そして俺は間髪開けずに刀身が後方を向いていた刀から後方に風を放出。そして同時に左手に風の塊を生成。そのまま天野に向けて掌低を放つ。

 次の瞬間響く結界を砕く破砕音。俺の攻撃で天野を後方に弾き飛ばすが、それでも視界の先で天野は滑るように着地し、大きなダメージは見受けられない。

 結界で勢いを殺され、後方に跳ばれた事で更に威力を軽減された。今の一撃もまた有効打にはならない。


 だけどどうした。だったら次だ。


 そう考えて動きだそうとした時、脳裏にエルの声が響いた。


『エイジさん、上です!』


 その言葉に反射的に上空に意識を向ける。

 その先に見えたのは先から天野が放ってきていた白い何か。それが雨と共に無数に降り注いで来ていた。

 範囲、速度。どう考えても躱すには遅い。

 ……だけど。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


 上空に向けて全力で刀を振るった。


 それだけで俺の頭上の魔術の雨が何かに阻まれ強い衝突音と共に消滅する。


 阻んだのは風。言わば風の盾。

 俺とエルの新たな力。


 感覚的に分かる。

 今でも撃てる斬撃を全力で放ったとしても、アルダリアスの地下から地上まで風穴をあけたような破壊力は生まれない。その点において今の俺達は弱体化している。

 目の前全てを薙ぎ払って進める力は、誇りと大剣と共に失った。


 その変わりだ。

 攻撃性を失って変わりに守る力を得た。


 今まで感覚的に放とうと思って斬撃を放っていたように風で防壁を作りだす。

 攻撃の際に動いた風で周囲に簡易的なものを作りだす事も可能。それで天野の蹴りの勢いを殺した。

 そしてかつて天井に風穴を空けた時の様に全力で放てば、天野の魔術の雨も防ぎきる。


 エルを守り切る為に、まだこの場に立っていられる。


 十分だ、それで。

 エルを守れるならばそれで。


 そして魔術の雨は止む。攻撃が止む。

 俺の頭上を逸れた魔術が着弾していたアスファルトはなんの損傷もなく、今も天から降り注ぐ雨を受け続けている。

 ……そうだ。なんの損傷もない。


 損傷は。


「……ッ!?」


 次の瞬間、周囲のアスファルトが発光。次の瞬間には俺を取り囲むように無数の魔法陣が出現していた。

 まるで今の魔術の雨でそれを描いた様に。

 そしてその魔法陣から出現する。


 対象を拘束する……無数の鎖。


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