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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
二章 隻腕の精霊使い
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4 隻腕の精霊使い

 エルを武器化した瞬間、襲いかかってきた輩の数人の動きがひるみで緩くなる。

 俺はその内の一人の方へと跳びかかり、直前で跳躍。頭上を飛び越える際に空中で一回転する様に大剣を振るい、男の背に直撃させる。

 吹き飛ぶ男。そして俺はなんとか囲まれていた状況から脱する。


『大丈夫ですか、エイジさん!』


 着地した直後そんな声が脳裏に響くが、言葉を返す余裕は無かった。

 四方八方の包囲は抜けた。だけど抜けたのは一層であるに過ぎない。

 抜けた先にまだ敵は居る。


「ッら!」


 着地した俺に、何も無いところから短剣を作り出した男が突っ込んでくる。

 その後ろでは恐らく男の連れていた精霊が精霊術を発動。男の右足元が光り加速させる。

 早い。だけど……そのスピードに体が付いていっていない。

 素人目でもそれが分かる。今の動体視力と身体能力なら充分に躱せ――。


「……ッ」


 当たる筈の無かった攻撃が頬を掠めた。

 別に特別男の攻撃に何か変化が有った訳ではない。あったのは寧ろ俺の方。

 体の自由が利かない。否、利いているが動きが鈍いッ!


「オラッ!」


 攻撃を頬に掠めるに留まった男に向かって、俺は勢いよく拳底を叩きこむ。

 そして風を放出。掌底の勢いと重なり、男は前方へとぶっ飛ぶ。

 だけど……今の攻撃も思う様に体が動かなかった。

 感覚的には痺れが纏わりついている様だ。

 原因は分からない。

 だけど時間が経つにつれて症状が酷くなっている。そんな気がした。

 だとすれば逃げてもジリ貧だ。体が動くうちにコイツら全員倒さないとヤバイぞ。

 体が……動くうちに。


「……ッ」


 足が縺れた。

 バランスを崩して転びそうになっている所に先程男を加速させた精霊と、先程俺を四方から襲ってきた輩が挟み撃ちを仕掛けてくる。

 とにかく……躱せ!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


 全力で上空に飛んだ……そして空中で大剣を振り抜く。

 放たれるのは風の斬撃。

 それは地上の数名に直撃し、地に倒れ伏せさせる。

 そして……次だ!


「くらえッ!」


 落下。着地点に精霊を捉える。

 風で位置を微調整し落下しながら剣を……振れなかった。


「……ッ」


 俺の足が地面に着地する直前、俺が振り下ろす筈だった大剣に合わせて放たれた精霊の蹴りが鳩尾を直撃する。


「うッ」


 そんな声を上げながら、勢いで何度も地面を転がる。

 そして体を起こそうとして目に入るのは、倒れた俺に飛びかかる二ペアの精霊と人間。

 反撃は間に合わず、痺れて重い足は瞬時に動かない。そして俺の手にある筈の剣もそこに無い。


「エイジさん!」


 次の瞬間、俺はエルに抱えられて宙を浮いていた。

 動けない俺を、エルが咄嗟の判断で助けてくれた。

 その事に感謝しながら俺はなんとか手を動かして、その掌を先程のペアに向けて、圧縮した風の塊を放つ。

 直撃。だが倒すには至らない。まだ意識があるようだ。


「エル!」


 俺は再びエルの手を握り、今度こそ着地と共に大剣を振り下ろして一人を地に伏せさせ……そして俺も地に伏せる。

 ……まともに着地出来なかった。


『エイジさん!?』


「だい……丈夫だ」


 なんとか立ち上がるが全然大丈夫じゃ無かった。

 立ち上がるのがやっとで、まともに歩けるかどうかも怪しい。

 もう殆ど右足が動かない。

 左手の指先は感覚が無く、右手と左足も痺れが強くなってきている。

 ここまで来てようやく原因を察する事が出来てきた。


 ……毒だ。


 ソレが精霊術の効力によるものか、それとも普通の毒なのかは分からない。だけどそれが最初の一撃で体内に侵入したという事を察するのは容易。

 だけど打開は容易ではない。

 正面から一ペアが突っ込んでくる。こちらの異常を察してか察せずか、単純な特攻。


「……っそがああああああああああああああッ!」


 右手の力だけではもう弱い。俺は精霊術を用いて、追い風の推進力を生かして剣を振り抜く。


「グハッ……」


 そんな力任せの攻撃をもろに喰らい、目の前の男と精霊はなぎ倒される。

 そして俺は自分の振りを支えられず、再び地に倒れそうになる。

 だけど……んな所で倒れてられるか。

 体は動かなくても精霊術は使える。だからまだ……この状況を打開できる!

 足元に風の塊を作り出し、なんとか踏み抜く。

 敵の集団に傾いていた体は勢いよくその集団に向かって行き、ぶつかる直前に再び剣を追い風で振り抜く。

 だけど……あまりにもその攻撃は単調だ。


「……ッ」


 何人かを纏めて薙ぎ払う予定が、当たったのは精霊一人だった。

 気が付けば背に何かが迫っている事を風が告げてくる。

 告げられた時には、精霊の蹴りが背中に叩き込まれていた。


「グハ……ッ」


 勢いで地面に叩きつけられる。


「毒受けといてここまでやれる出力。そして剣に変わる力。本当にすげえなお前の精霊は。もったいねえから貰ってやるよ」


 そう言いながら男は俺の元に歩み寄ってきて、そのまま踏みつけようとする。

 だけどそれはエルが止めた。

 突然剣から元の姿へ戻ったエルが、男にアッパーカットを放つ。

 顎の下。それは確かにクリーンヒットした。

 だけどモロに喰らったのはエルも同じだった。


「……ッ」


 近くに居た最後の一体の精霊が、エルに掌底を打ち込んだ。

 俺がやったのと同じ様に、掌底そのものよりも付与させる精霊術に重きを置いた戦法。


「……ぁ」


 エルが声にならない声を上げて膝を突き、倒れ伏せる。

 痙攣している様に体がピクピクと動く。対する精霊の手には何かが纏わりついていた。


「……電撃」


「ご明察」


 同じく一人残った男が口を開く。


「いやぁ、危なかった。残ったのは俺一人とかなんの冗談だよ。不意打ち成功してんのに、負ける所だったじゃねえか」


 でも、と男は続ける。


「俺らの勝ちだな、このクソガキが。死にたくなかったらその精霊との契約を破棄しろ。今のままじゃ売り物にならねえんだよ」


 そうしなければ殺すという視線で男は見下ろしてくる。

 この状況をどうやって打開すればいい?

 それは解らなかったがそれでも、この言葉だけは自然に出てきた。


「お断りだ、クソ野郎が!」


 ここでエルとの契約を解消していい訳が無い。した先に何が待っているかなんてのは馬鹿でも理解できるし、この男自身が口にしてしまっている。

 だから……なんとか、エルを連れてこの場から――、


「じゃあもう死ねよお前。邪魔だから」


「いや、この場で邪魔なのは寧ろキミの方だ」


 唐突に。本当に唐突に。第三者の声がその場から聴こえて来て……気が付けば男の背後に誰かが立っていた。

 銀髪の俺と同い年位の少年。他に特徴的な点を上げるとすれば……まるでそこに何も無いかのように、左袖が風で揺れているという事だ。

 というか……いつの間に現れた?

 その答えが分からない内に、男が動いた。


「んだよてめえはよ!」


 振り払う様に裏拳を放つ。だけどそこにはもう誰も居ない。

 そこに居た少年は男の頭上に居た。


「色々と面倒だから殺しはしない。だけど……眠ってくれないか?」


 空中で男の頭部に触れ、何かしらの精霊術を発動させる。

 次の瞬間には男は膝を突いていた。

 そうさせたのが催眠術的な効果なのか、はたまた脳震盪なのかは分からない。

 だけど分かる事が一つ。


「大丈夫かい?」


 俺達は目の前に着地した少年に助けられていた。

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