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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
六章 君ガ為のカタストロフィ
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10 対策局最強の魔術師 上

 翌朝、俺を目覚めさせたのはまたしても悪夢だった。

 皆を助けられない夢。

 そして咎められる夢。

 そんな夢を今日も見た。


 それもいつもよりも酷い形で。


「……大丈夫、夢だ。ただの夢だ」


 酷い寝汗を掻きながら勢いよく体を起こした俺は、俺は隣で眠るエルを見てそう安堵する。


 ……夢の中で、エルまでもが一緒にいなくなっていた。

 他の皆が移る光景は実際に起きてしまった現実を元にした物になっていたのだが、エルに限ってはあの時無事で此処に居る。だから夢には混じらなかった。

 ただ皆がいなくなった流れで、それでいて全く違う場面で。とても朧気で言葉にできないほどちぐはぐで漠然としたものだったが、それでもエルを助けられなくて失う様な、そんな酷い夢。

 そんな夢を見た。見てしまった。


「……」


 昨日エルの敵になるかもしれない人間の存在を聞いた。それが思った以上に堪えているのかもしれない。突然そういう夢を見たのはきっとその所為だ。


「……守らねえと」


 エルを見てそう呟く。



 絶対にこの夢を正夢にはしてはいけない。

 夢は夢で終わらせなければいけない。


 隣りで眠るエルを眺めながら。必死にその夢を掻き消しながら。そんな事を考えた。





「エイジさんって映画とかよく見るんですか?」


「いや、そこまでだな。たまに夜テレビでやってる奴を見る位か。いや、まあ流石に超話題作とかだったら見に行くけども」


「ミーハーって奴ですか」


「そういうこと」


 そんな会話をレンタルビデオ店にてエルと交わす。

 あの後エルが起きてから朝食をとった後、今日何をしようかという話になった。

 今日は土曜日で高校も休み。加えて対策局での特訓は今日は都合がつかないらしい。いつでも来いとは言ってもそれは言葉の綾だ。

 だから午後から雨が降るらしいこと事もあり、右往左往あって家でゆっくり映画でも見ていようかという話になった。それで今映画を借りに来ている。


「エルはなんか見たいジャンルとかあんの?」


 折角見るのだから希望に沿った物を借りたほうがいいだろう。


「物騒な話とかはあんまりって感じですかね。あ、でもホラーとかは別ですよ。ちょっと物騒ですけど、ああいうのはああいうので結構嫌いじゃないです」


「嫌いじゃないって事は何か見たことあんの? 最近テレビ放送じゃやってなかったよな?」


「あ、この前茜さんに面白い映画があるってニコニコしながら進められまして……いやぁ騙されました。まあ結果的に良い意味でとは思ってますけど」


「まあ結果的に楽しかったなら良かったよ……っと、ホラーとかならこれとかどうだ。結構有名作でな、中々怖かった」


 近くに見たことがあるタイトルの名作があったのでエルに進めてみたが、エルはそれを手で制する。


「どうせなら二人とも見たことがないのにしませんか? その方が楽しそうかなって」


「まあ一理あるな。よし、じゃあそういう感じにしよう。ホラー含め何作か、見たことない奴」


「わかりました。じゃあそういう感じで」


 そういう風に方針を決めて俺達は借りる映画を決めることにした。

 なので手にしていた名作ホラー作品を棚へ戻そうと、エルから視線を外そうとしたその時。少しだけ視線がずれたその時だった。


「……ッ」


 見付けた。

 もしかするとそれは見付けられたの間違いなのかもしれない。

 視界の端。エルを挟んで少し奥の通路。見覚えのある顔が映った。


 昨日見せてもらった画像の自分物が。誠一の兄貴と同じ位に見える年齢の男、天野宗也があろうことかこんな所に現れのだ。

 それも方向転換してこちらへと向かってくる。


「? どうかしました?」


 思わず顔に出ていたのかもしれない。エルがそう訪ねてきた。

 ……どうする?

 なんて言葉を返すかもそうだが、一体此処でどう動くべきだ? どこかで遭遇するんじゃないかとは思っていたが、実際こうして遭遇してみるとそう簡単に頭は回らない。


 だけどとりあえず次の瞬間には答えは出た。


「あ、悪い。何でもない」


「? ならいいですけど」


 エルはそう言って棚に視線を向ける。

 そして今俺の視線の先に映っている天野は一度確かにこちらに視線を向けはしたものの、現在は普通に陳列棚に視線を向けて普通に映画を選んでいる。

 服装が明らかに私服な事も相まって、まるでこちらに左程興味がないのではないかという印象すら感じる。


「あ、エイジさん、これなんてどうでしょう。あらすじ見た感じ、良い感じに怖そうです」


「あ、ああ。そうだな」


 流石に目の前の天野を目にした事で動揺したのか、そんな返しになってしまう。


「どうかしました? なんだか様子がおかしい気がしますが」


「いや、なんでもねえよ」


「いや、そんな事は……あ、まさかエイジさん、あんまり怖いの駄目な感じですか? ビビっちゃってます?」


 ……どうやらエルは自分の後ろに誰が居るのかを今だに分かっていないらしいい。

 だったらまあ分からないままでもいいだろう。寧ろその方がいいだろう。現状何も起きる気配がない以上、余計な心配は掛けさせないほうがいい。


「んな事ねえよ。結構好きだぜそういうの。余裕だよ余裕」


「ならホラーこれで行きましょう」


 そういう風にホラー枠は決まったようだった。

 そしてそれが決まった所でエルが言う。


「じゃあ次はなんでしょうね……とりあえず手分けして探しますか。私は私なりに面白そうなものを探してきますんで、エイジさんも何か面白そうなの探してください。いくつか決めたら絞りましょう」


 結果的にそれが良い方向に転がるかは分からないものの、エルがそういう事を言うのであれば、まあそおれでもいいだろう。特に反対する気にはならない。


「おう。じゃあそうするか」


「じゃあ私あっちの方の奴見てきますね」


 そう言ってエルが動きだしたのは、天野のいる方向だった。

 だけどエルは反応しない。


 ……もしかするとそういう危険な奴が居るという話を聞いただけで、俺の様に顔写真を見せられたりまではしていないのかもしれない。

 エルは何事もなかった様に天野の後ろを通り抜けて別の列へと移動する。

 そしてこの場に残ったのは俺と天野だけになった。

 そういう風に認識した直後だった。


「あまりそう警戒してくれるな」


 天野がパッケージから目を話してこちらに視線を向けてきた。

 それに対して思わず体が強張り、いつ何が起きてもおかしくないように動ける体制を自然と取った。


「警戒するなと言っているだろうが……とはいえそれは無理な話か」


 天野は軽くため息を付いてから、持っていたDVDを棚へと戻す。

 そして改めてこちらへと向きなおった。

 そしてそんな天野に対して俺は口を開く。もう向こうから話掛けてきた以上、無視しても効果はない。

 とりあえずうまく乗り切るしかないだろう。


「……なんの用っすか」


「この状況は単なる偶然だ。暫く日本を離れていてな、戻ってきて非番とくれば何か映画の一つでも見ようと思うだろう。俺の趣味は映画観賞なものでな」


 そんな風に軽い自分語りを済ませた天野は、こちらを不穏な気分にさせる言葉を続ける。


「まあ元々お前らに会いに行く予定ではあった。だから偶然とはいえお前らに会いに来たと言っても嘘では無くなるのかもしれん」


 そう言って天野は懐から呪符を取りだし、それを陳列棚へと張り付ける。


「……ッ!」


 その呪符を見て思いだすのは誠一との特訓だった。

 あの爆発の様に何かしらの魔術が発動するのだろう、だとすればそれに対処しなければならない。

 そう思って反射的に体が動こうとした。肉体強化の精霊術を発動させ、その呪符をどうにかしようとした。

 だけど動くよりも先に呪符が発動する。


 そして結果、何も起きなかった。


「……!?」


「別に攻撃だけが魔術ではない。ただ俺達の会話に周囲の人間が興味を持たなくなるように細工した。それだけの事だ。後は人払いをするのがベストだが、今は必ずしも必要なわけでは無い。やればただの営業妨害。だからこのまま始めよう」


 そして天野は俺に向けて言う。


「ほんの少しだけ話をしておこうか、瀬戸栄治」

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