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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
五章 絶界の楽園
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ex 無冠の英雄 Ⅳ

「ああそうだコレだけ言っとくけど、私がああいう話をしたって事、誠一君には内緒だからね」


「言いませんよ。あの人言うの拒んでましたし、多分言ってもいい事ないですから」


「ん? そういう話になりかけたの?」


「霞さんと顔を合わせた時に。精霊に面と向かって言える話じゃないって断られましたけど」


「まあ確かに普通に考えれば面と向かっては言えない様な話だしね。さっき私は言わないで抱え込んでるのに耐えられなくなっちゃったけど、誠一君はメンタル結構強いから。私と同じような流れになっても何も言わないんじゃないかな」


 豆腐みたいな私とは違うんだ、と小さく笑いながら茜は言う。

 だけどそのあとその笑みを消して茜は言う。


「でも強いって思わせてるだけなのかもしれないんだけどね。一杯傷付いてるだろうし、私も一杯傷付けたから。本当は悲鳴を上げてるのかもしれない」


「……何かしたんですか?」


「巻き込んだんだ、私のしていた事に。それが巡り巡って傷付けた」


 茜のしていた事。それが先程の安楽死の話だろう。


「元々ね、誠一君と出会う前は一人で精霊を安楽死させるなんて事をやってたんだ。誰も使わない様なマイナーな術を使ってね」


 と、そこまで言って一つ気付いた事があったらしい。


「そういえばどうやってそういう事をしてたかなんて話はしてなかったね。というよりエルちゃん、私達が使っている力が何かって話は聞いた?」


 聞くタイミングはあったがそれは自分で流してしまった。その情報を知る必要がないと思ったからだ。

 だけど今の話を聞こうと思えば、多分それを聞いておかなければならないだろう。


「いえ、まだです」


「なら一応簡単に教えるね。私達が使う魔術の事を」


 そう言って茜は軽い説明をしてくれた。

 魔術はあの時外で見たように、精霊を対処する為の術らしい。

 効果は精霊の使う精霊術に似ている。

 大昔から精霊と戦う為に発展させてきた技術で……どういう訳か精霊に関する記憶を消す装置の効力に反応して精霊の記憶と共に削除される。そういう力。

 どういう原理で成り立っていて、どういう風に扱っているのか。そういう踏み込んだ話になれば本当に講義みたいになるという事で伏せられたが、大雑把に纏めればそういう事になる。


「その中でね、私は直接攻撃を与えず精霊の力を弱らせ、衰弱させる。そういう術を使っていたんだ」


「それで完全に衰弱させるってのが安楽死って事ですか」


「そういう事。理論上は痛みもなく精霊の息を引き取らせる事ができる」


 でもその話を聞くと疑問が生じた。


「さっき誰も使わないって言ってましたけど……どうしてですか?」


 そういう事が可能ならば、ああしてナタリアを助ける為の作戦に参加した人達は使っていそうな気がするのだが……それはどういう事だろうか?


「答えは簡単だよ。現実的に無理があるんだ」


「無理がある?」


「うん。だって使っている間はほぼ無防備だし、時間もかかる。ある程度動きを止められなければ普通に反撃されて終わりだし、じゃあ攻撃して止めてる間にってなると結局痛い目に合わせてるわけで意味がなくなる。動きが止まる程の攻撃って、つまりそういう事だから。だから誰も使えないし使わない」


 ……納得がいった。

 確かにそういう条件があるのなら、それは自殺行為なのかもしれない。


「でもそれを茜さんはやってたんですよね?」


「うん、そうだね。それでもやらなきゃって衝動にかられた」


 茜は懐かしい話を思いだしたという風に語りだす。


「私さ、最初はそういう事をしようとは思わなかったんだ。まだその頃は実戦経験もなかったけど、まだ夢を見ても良い様な時ですら、そ無理だって思える程に使えない術だったんだ」


「だったらどうしてそういう事をやり始めたんですか?」


「初めて戦う事になった精霊がね、花飾りをしてたんだ」


「花飾り?」


「うん。流石にそれが精霊の一部じゃないって事は理解できた。誰かに作ってもらったアクセサリーなんだって事はちゃんと理解できたんだ。それが理解できたら……もうね、手足が動かなくなった。元々は私達の様に普通に笑っていたような相手なんじゃないかって、押さえてたはずなのに止まらなくなって。もう、何もできなくなってた。同行してた先輩が居なけりゃ多分私はそこで死んでたよ。そうなるく位にはね……衝撃的だった。揺さぶられたよ」


 誠一が言っていた精霊を化物だと思って戦うというやり方。それが通用しなくなってしまったのだろう。


「終わった後一杯怒られたけどもう無理だった。最後に現場に残った不格好な花飾りを見てもうどうにもならなくなった。精霊に武器を突きつけて痛みを与えて殺す現実に、耐えられなくなった」


「だから……あの術を使い始めた」


「うん。でも当然の事ながらうまく行かなかったけどね。現実的に無理な話だから。大怪我負って大怪我負って、それでもうまく行かなかった。止めてくれる人はいたけど同調してくれる人はいなかったし、結局厄介払いみたく田舎の方に飛ばされたその時まで、ただの一度たりともうまく行かなかったよ」


「厄介払いってそんな……」


「厄介だよ。結果がまるで伴わなくて周りに迷惑だけを掛け続ける。それが分かっていても止めないんだから、そんなの毎度毎度勝手に出て行っては死にかけた私を助けてくれていた人達からすればただの厄介者だよ。処分らしい処分もそういう事だけで済んでいたのが不思議な位に厄介だったと思うんだ」


「……途中で止めようとは思わなかったんですか?」


 それだけ無謀でどうしようもない事なら、多分普通はどこかで折れるだろう。

 エイジの様な性格ならともかく、そうでなければどこかで折れる。無謀だと思っている事に挑戦し続ける程難しい事は無い。


 ……エイジの様な性格でなければ。


「何度も嫌になったよ。だけどあの時の私は結局目を背けられなかった。誰かが精霊を殺す事を容認したくなかったんだ。そんな現実を受け入れたくなかったんだ。だからやっぱり体が動いた。脳がそうしなくちゃいけないって言ってきた。どれだけ嫌になっても、どれだけ痛い目を見ても、そうしないといけないんだって。強迫観念に駆られてるみたいだったな。そうなったらね、もう止められない。止めようとも思わなくなってくる」


「……」


 多分、その時の状態がどういう風だったのかは容易に理解できる。一番身近な人間の行動をトレースできる。


 多分宮村茜は同じなのだ。瀬戸栄治と同じような人間なのだ。


「だからね、そうして飛ばされた先でもやる事は変わらなかった。辿り着いてそうそう病院行きだよ。あの時は参ったな」


 瀬戸栄治が正しいと思った事を無理矢理にでも実行してしまうのならば、茜はその対象を絞って精霊を対象にする。精霊を助ける為の行動を起こし続けていた。

 ……多分それは間違っていないように思える。多分人間を細かくカテゴライズすれば、エイジと茜は同じカテゴリに入れられるのだろう。


 そしてそれに気付いた時、話の軌道は元へと戻る。

 宮村茜の話から、土御門誠一の話へと戻り始める。


「そして飛ばされたその先で、私は誠一君を巻き込んだ。ただそういう家柄だから魔術や精霊の事を知っていただけの誠一君を……精霊と戦う事を拒んでいた誠一君を、この世界に引き入れちゃったんだ。無茶をしていた私を助けてくれて、その流れで協力してもらうって風にね」


 そう言って茜はその時の事を思いだすように一拍空けてから言葉を続ける。


「そんな危ない事を一人でやらせられるか、なんてカッコいい事も言ってくれたけど、やっと少しはまともな解決策が見つかったって浮かべてた表情の方がよく覚えてる。誠一君も必死に悩んでたみたいだったから、とりあえずの答えが見つかって嬉しかったんだと思うよ。結果的にうまくもいったしね。精霊の命を奪っている事は理解しているけど、それでも精霊を救えたんだって。少し嬉しそうだった」


「……そこからどうして傷付ける様な事になったんですか?」


 そこまでを聞けば傷付くどころか誠一にとってはいい話で終わっている気がする。

 きっと殺すしかなかった選択肢。そこにそういう別の可能性が生まれてきて、茜が一人でやってきた時とは違い成功を収めた。少なくとも傷付く様な事にはならないだろう。


「そうだね。私がどうしようもなく大馬鹿者だったからかな」


 そして茜は少し俯いて事の解を口にする。


「私の所為で結局誠一君に精霊を殺させたんだ。安楽死なんて生易しい事じゃなく、もっと生々しい方法でね」

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