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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
五章 絶界の楽園
152/426

ex 人間の組織Ⅱ

今回の更新の際、何話か前のex その言葉を探すためを微修正しました。セリフを一言加筆した程度ですので読み返さなくて大丈夫ですが、もし今回の話に違和感を感じたら、読んだ方がいいかもしれません。

 徐々に目的地に近づいている中、念のためにという風に誠一がエルに言う。


「一応確認しとくけど、聞かれた事は正直に答えてくれ。この中でお前を待っている相手は基本的に精霊とは闘うけど、それ以外でなんとかできるなら何とかしたいっていう思想を持っている相手だ。お前の今後の立場云々の話もあるが……その、頼むわ」


「大丈夫です。嘘なんてつきませんよ。私が聞かれる様な事を隠しても、多分良い事なんて何もないですよ。寧ろ悪いでしょうからね……私やエイジさんの立場的には」


「そう思ってくれているなら助かる。まああの人はその位で相手を貶めるような事はしないだろうけど……っと此処だ。この部屋にお前を連れてくるように言った人が居る」


 確認をしながら暫く歩いた末に、扉の前で立ち止った誠一はそんな事を口にした。


 此処がどういう部屋かを示した札は漢字で書かれており、この中にどういう相手が居るのかは分からない。だけど相手があの世界の人間みたいな最悪な価値観でも抱いていなければ、どういう相手だろうと望む意思は変わらない。


「じゃあ俺が先に入るから着いてきてくれ」


 そう言った後、誠一は部屋の扉をノックする。


「入ってくれ」


「失礼します」


 言いながら誠一は扉を開き、一歩中に入って姿勢を正して言う。


「五番隊三班、土御門。件の精霊を連れてきました」


「うむ、ご苦労……さて、キミの後ろに居るのがその精霊だね」


 部屋の中心に置かれた応接用のソファとガラステーブル。エルから見て奥側に座る三十代前半程の男はエルに視線を向けてそう答えた。


(……一人?)


 なんとなく大人数が待っていると思っていたが、どうやらそうではないらしい。

 文字通り部屋の中にはその男一人しかいない。いくら自分に自我があるとはいえ、人間からすれば精霊はある意味危険な存在だ。いくら精霊に対して前向きな思想を持っている相手でも、いささか無防備すぎる様に思える。

 もっともエルにとってはその方が気が楽でいいのだが。


 そしてやや慎重にという風に彼はエルに尋ねる。


「とりあえず……何と呼べばいいかな?」


「エル……でいいです」


「そうかちゃんと名前もあって意思疎通も問題無く可能……か」


 先程の霞と同じような反応をみせた男は、エルに言葉を掛けて促す。


「とりあえず座りたまえ。立ち話もなんだろう」


「……分かりました」


 そして言われた通り、向かい合いうようにエルはソファに座る。

 一方の誠一が動く様子はない。命令を待つように入り口に立ち尽くす。

 そんな誠一に男は言う。


「キミも残りたまえ」


「いいんすか? 俺みたいな下っ端が」


「いいんだ。寧ろ私が一人で話を聞くよりはずっといい。こうして連れてくる短い時間とはいえ、面識がある人間が居たほうが物事は円滑に進む。多少なりとも空気は変わるよ」


「そんなもんですかね」


「私はそう思うよ」


「ならまあ……分かりました」


 そう言って誠一はソファに座るエルの後ろに立つ。


「座らないのかい?」


「その精霊の隣りに座るべきなのは俺じゃないですから。後ろから眺める事にします。それでもいいですか?」


「まあ構わんよ。キミがそう思うならそれでもいい。強制する事でもないからな」


 そして一拍空けてから、改めて男はエルへと視線を向ける。


「では……色々と急だとは思うが、話を聞かせてもらうよ……いや、その前に自己紹介が必要か」


 思いだしたようにそう言って男は自分の名を口にする。


「私は荒川圭吾。防衛省精霊対策局の局長だ。まあ今キミが居るこの場所のトップだと思ってくれればいい」


「……そういう人が一人で精霊から話を聞くんですか? 私は何もするつもりは無いですけど、あなた達にとって精霊は警戒するに値する様な存在だと思うんですけど」


「ならそうしてほしかったかい?」


「……いえ」


「まあそういう事だよ。キミ達の事は何も知らないが、流石に外の様子を見た後ならば我々に対する印象はあまり良い物ではないだろう。そういう連中に囲まれるってのは多分それだけで十分に辛い。だからこういう形を取る事にした」


 それに、と続ける。


「仮に何かが起きても、相手が一人ならどうにでもなる。その位の実力は携えているつもりだ。だけども個人的にはそうならないで欲しいとは思っている」


 確かにこういう組織のトップに立つ人間だ。それ相応の実力があるのはおかしい事ではないだろう。

 ……これでこの状況にも納得がいった。


「まあこの話はもう掘り下げなくていいだろう。より時間を割くべき話が沢山ある」


 そう言って軽く咳払いをしてから、荒川はエルに言う。


「では改めて話を聞くことにするよ。どうしても答えられない話は答えなくてもいい。だけど話してもいいと思った事は正直に話してくれると助かるよ」


「……分かりました」


「では一つ目だ。これを最優先に聞かなければならない」


 そう言って荒川はエルに問う。


「キミ達精霊はどうしてこの世界にやってくる。我々の中には精霊はこちらの世界に攻め込んできているなんて説を提唱する者もいるが、実際の所はどうなんだ」


「……逃げて来たんです」


 隠す必要もない。正直に向こうの事情を曝け出す。


「逃げてきた? 一体何からだ」


「向こうの世界の人間からです」


「向こうの世界の人間……だと?」


 恐らくはその辺りは一連の流れで察していたであろう誠一は特に何の反応も示さない。

 だが荒川は驚愕の表情を浮かべている。


「キミ達精霊が別の世界からやってくる事は我々も把握している。その世界にも……人間が居るのか?」


 彼らにしてみれば向こう側の世界は精霊の居る世界という認識しか持っていなかったのだろう。まあ当然といえば当然だ。実際に向こうの世界に行くかこちらの世界に誰かが来でもしないかぎり、それは知りえない。

 そしてエルは荒川に言葉を返す。


「いますよ……最悪な人達が」


「最悪……そうだ。エル、キミは精霊はこちら側の世界に逃げてきていると言ったな。一体向こうで何が起きているんだ」


「人間は当たり前の様に私達精霊を狩るんです。狩って自我を壊して、私達を資源にするんです」


「……ッ」


 目の前で荒川は、一体何を言っているんだこの子はという風な表情を浮かべて絶句している。

 変わって思わずという風に背後から誠一がこちらが見える様に回り込みながらエルに言う。


「ちょっと待てよ、資源ってなんだ。一体何がどうなってんだ! エイジは一体どういう相手と戦ってきたんだ!」


 土御門誠一は向こうの世界でエイジが精霊を助ける為に戦ってきたという事を知っている。だけどそれでも、あまりにも予想外の角度の話だったらしい。彼が浮かべる表情も荒川のソレと変わらない。

 そんな彼らにエルは言う。


「向こうの人間は根本的に私達を自分達の生活を豊かにする駒としか見ていないんです。あなたは知ってますよね、誠一さん。エイジさんが振るっていた力を」


「ああ……少なくとも俺達が使っている奴とは違う。どちらかといえば精霊と同じような力を……」


 と、そこで誠一は気づいたらしい。記憶をなぞる様に言葉を紡ぐ。


「エイジが言ってた契約ってのはそういう事か」


「ええ……精霊と契約を結べば、人間も精霊と同等の力を得る事が出来るんです」


「……それと先程の資源だとか自我を壊すだとかという話。どう繋がる」


 辛辣な表情で荒川はエルに問う。

 そしてその問いに、エルは包み隠さず答える。


「精霊と人間の契約は、ある程度お互いを信頼していないとできないんです。だけど私達がそういう相手を……理不尽に虐げてくる相手を信頼すると思いますか? だからあの世界の人間は精霊を狩るんです。抵抗できないまでに痛めつけて、枷を嵌めて。自我を壊すための工場に送って……壊れた精霊と無理矢理契約するんです。そうなれば人間は力と、壊れて自我がなくて、命令通りに死ぬまで動き続ける駒が手に入ります。向こうの世界はそういう事をするのが当たり前なんです」


 その言葉に正面の二人は絶句してただ茫然とエルに視線を向けている。

 部屋の空気が完全に凍りつくのを感じたが、それでもエルは言葉を紡ぐ。


「……そんな相手から私達は逃げるんです。逃げて逃げて逃げて、やっとの思いで辿り着くのが……この世界なんです」


 救いようのない話を紡ぎ続ける。

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