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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
五章 絶界の楽園
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ex 連絡通路Ⅲ

 他に何が知りたいのか。

 元から察していた状況。今聞いた話。それだけでもある程度知るべき情報は知れた気がする。

 この世界はエイジの居た世界。

 この世界に訪れた精霊は自我を失い暴走し、その被害を食い止める為に土御門誠一を含むロングコートの連中が居る。

 状況を把握するにはその程度の情報で十分だ。

 もっとも真に把握するべきは状況よりもエイジに掛けるべき言葉だ。きっと色々と背負い込むエイジの逃げ道となるようなそんな言葉を探さなければならない。

 しかしそれを探す為に使えそうな情報もまた、今聞いた情報以外に役に立ちそうな物もない。


 差し替えられた記憶云々の話。


 エイジに直接的な影響があったのはそれだ。それさえ知っていれば回避できたかも知れない情報だ。


 だけどそれを知っても得られた言葉は当たり障りのない言葉だ。こういう理由があったから忘れていた。だからエイジは悪くない。そんな程度の言葉しか見つからない。

 それでは駄目だ。


 こういう世界である可能性を知りつつ、エイジは選択した。だから忘れていたから動向出はないのだ。

 何も知らずに飛び込んだのと、察しがついて飛び込んだのとでは違う。行ってしまえばロシアンルーレットと変わらない。当たりがでるかも知れないと思っていながら、その引き金を引いたのだ。


 そんな相手に……それも正しいと思う事を異常なまでに追い求める相手に掛ける言葉としては、あまりにも弱すぎる。


 ……そしてもっと適切な言葉が見つかるかもしれない問い何てのは見つからない。多分そもそもそんなものは無いのかも知れない。

 ではそれもなく、この世界の事もある程度把握できた今、他に何を聞けばいいのか。


「………どうした、黙り混んで。まさか聞きたいこと事ねえのか。なんかこう……色々あるだろ。俺達の組織の事とか、俺達が使っていた力の事とか」


「精霊が暴れる被害を押さえる組織……ですよね。今更聞くような事でもないでしょ」


「まあそう言われればそうなんだがな……ああ、その通りだよ。大雑把に言えばその通りだし、こういう場じゃ大雑把にしか言えねえよな。でもほら、俺達の力の事とかは何も知らねえだろ。お前ら精霊の力とは違うし、この力の事をエイジは知らない」


「そうですね。確かにそれは知りません…………だけど力の仕組みを知ったところでそれはもう、雑学とかと変わらなく無いですか?知っても多分知識が増えるだけでしょうから、そんな事は後でいいんです。もっと今知らないといけないことを知らないと」


「まあ確かにそれもそうか……でもそもそも何を聞けばいいか分からない……って所か?」


 図星だ。

 それが分からないがら黙りこんだ。黙りこんで考えた。それでも何も思いつかなかったが。


「まあじっくり考えろ。なにか思い付いたら聞いてくれればいい。少なくとも俺はお前らの味方のつもりだからさ」


 味方……考えている時にその言葉を聞いてひとつ疑問が脳裏を過った。

 それは今まで知らなくてはいけないと思っていた事とは違う括り。だけど今すぐに知らなければいけないことであることには間違いない。

 だからエルは問う。


「……ひとつ、いいですか?」


「お、見つかったか。言ってみろよ」


 こうして明確に味方でいてくれている相手に聞くのは多少気が引けるが、それでも聞かざるをえない。


「……この先。あなた達の本拠地があるんですよね」


「ん? ああ、そうだが今更どうした」


「……もう今更ですけどね、このまま着いていっても大丈夫なのかなって」


 自分は土御門誠一の所属する組織の知りたい情報を話す為に彼らの本拠地へと向かっている。その決断を取る際に人間に着いていくという事に抵抗は覚えた。それは何故かと問われれば、それは例え敵ではないと理解している相手でも人間である以上大きな苦手意識が出るからというのが主なものだ。

 そういう風に、敵ではないという認識を持っていた。自然とそういう風に彼らの存在を受け取っていた。

 土御門誠一はエイジの親友で、まるでこちらに敵意を向けることは無い。そしてナタリアを殺す事ではなく止める為に組織が動いたという事は、それが情によるものか情報などの目的の為なのかはともかく、その組織全体が基本的には可能ならば精霊を殺さない様な心情で動いているのだろう。


 ……だけどだ。果たしてああして動いた人間は皆、本当にナタリアに対して殺意を向けていなかったのだろうか?

 多分それは違うのだと思う。先程からの話を聞いた上で今の味方発言で再び考えを巡らせて、それが違うのだという予想を立てられる。


 ……自分達に理不尽な殺戮行動を行ってくる精霊。それを皆が助けようと思うだろうか。


 多分それは皆ではない。


 精霊はこの世界を滅ぼしかける様な破壊活動を行っている。そうして大勢の人が死んでいる。

 それは言ってしまえば理不尽だ。この世界の人間からすれば理不尽以外の何物でもないだろう。

 そして理不尽を受ければ与えた相手を恨んだりもする。

 直接的な接触はなくとも、理不尽を与えてくる存在全てを恨みの対象としてカテゴライズする事はよくある。

 精霊が人間に敵意を向ける様に。

 手を差し伸べてきた人間を拒絶するのと同じように。


 だとすれば……この先は自分が踏み入れていい領域なのだろうか。

 その精霊をこの世界に連れてきたエイジを連れていっていい場所なのだろうか。


「……不安か?」


「ええ、まあ」


「……まあ精霊からすれば俺達は殺す側の立場だからな」


 ……そういう事ではない。


「まあ俺からすれば、俺達がそういう事をしている連中と知った上で着いてきているんだと思ったが……あれか? 近づくにつれ怖くなったか? ……まあ無理もねえけど」


 続いた言葉も半分ほど違う。だけど怖くなった事に違いは無い。

 そして半分は違ったが、結果的にエルが出した問いの答えは返される。


「一応今から拒否るってのは勘弁してくれよ。もう連れていくって感じに話通ってるし、連れて行かなかった時の方が下手すりゃ危ないかもしれない」


 そう言った後、エルを諭す様に誠一は言う。


「まあ心配するなとは言わん。だけど多分大丈夫だ」


「多分って……」


「流石に絶対なんて事は言えないんでな。だけどほぼ大丈夫だ。俺達の大半は自我を持ってる精霊を抑え込もうとするような意思は持っていない。何とかできるならなんとかしたい奴。情報やデータを収集して今後の精霊が齎す被害を抑えたい奴。そういう奴が大半だよ。相手にしてるのがマジな化物だったらそうはいかなかっただろうが、お前たちは人間……それに女でほぼ全員が未成年って言える様な姿をしているからな。そういう風な考えの連中が多く俺達の組織に所属している」


「多くって事は、そうじゃない人もいるんですよね」


「まあな。確かに私怨で所属している様な奴も一定数居るさ。だけど上が今回お前を保護する方向で動いているし、パワーバランス的にも穏健派って言える様な連中の方が数的な意味で強い。何かあっても抑え込むさ」


 だから安心しろ、と誠一は言う。

 では、エイジはどうなのだろうか?


「……エイジさんは大丈夫ですかね?」


「あれか? 精霊達を連れて戻ってきたから危ないんじゃないかってか? そういう事ならお前よりは安全だしほぼ大丈夫だ。もう既に上はアイツを事の被害者と捕えている。アイツが俺達の組織の人間だったら問題だっただろうが、アイツは何も知らない一般人だ。戦いに巻き込まれて飛ばされて、帰ってきた。それだけなんだ」


 だから過激派の連中も大した動きは見せないだろう、と誠一は言う。


「まあそういう訳だ。絶対安全とは言わないが、それでもお前らに味方できる奴が大勢いる。だから安心してくれ」


「……はい」


 その言葉が本当ならば、ある程度安心できると思う。

 確かに危ない人間もいても……それでも元の世界と比べればずっとマシだろうから。


「……さて、もう少しだ。栄治は……まだ目覚ましてねえよな」


「……そうですね」


 まだ意識が戻る気配はない。


「元からそのつもりだが、とりあえず着いたらエイジを寝かせよう。話はそれからだ……流石に気失った奴を連れていくわけにもいかねえからな」


「……分かりました」


 できることなら今のエイジから離れたくはないが、そういう事ならば仕方がない。どこか安全な所に寝かせてあげよう。

 そういう風に考えを纏める。自然と纏まる。


 目が覚めた後の現実から逃避するように。

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