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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
五章 絶界の楽園
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8 その手を掴め

 全神経を集中させてその時を待つ。

 呼吸を整え目標を見据え、耳に届くカウントを聞きながら剣の柄を握る力を構えて精霊術を発動。足元に風の塊を作り出す。

 これで全ての下準備が終わった。後は次の瞬間全てを終わらせる。ただ、それだけだ。

 そしてナタリアが何かの攻撃を行う為だったのかもしれない。地上から飛び上がった瞬間にカウントは終わりを迎える。


「行けッ!アイツ救ってこい!」


 誠一の兄貴の声を合図に風の塊を踏み抜いた。最高速を叩き出して一直線に宙に浮くナタリアへ向けて動き出す。

 そして同時に周囲の景色が微かに変わった。

 視界の先や視界の端。もしかすると背後からも。光の柱とでも言うべき何かが空高くに打ち上げられた。

 そしてその直後、ナタリアを中心に何かが広がっていく。

 それが一体何なのかは分からない。だけどエルから手を離した直後に確かに理解できたことが一つ。


 ナタリアの動きが緩んだ。


 完全に止まってはいなかった。ナタリアの出力を考えるに、もしかすると誠一達が実行したプランは完璧には成功しなかったのかもしれない。こちらに確かに反応して動き出す。

 だけど大丈夫だ。緩んでいればそれでいい。もうきっと、躱されないし反撃も飛んでこない。

 否、躱させないし反撃もさせない。させてたまるか!

 そしてその思いを押すように、ある意味で背中を押された。


 背後から突風が発生した。


 何が起きたかは容易に理解できる。元の姿に戻ったすぐのエルが俺の背を押してくれたのだろう。

 結果さらに加速する。加速して手を伸ばす。伸ばして確実に届かせる。

 そしてナタリアと接触する直前の段階でもう確信が持てる程に、最高の形で飛び込めていると直感的に感じられた。

 だけどもし、この瞬間の自分の表情を知る事ができたなら。それはきっと碌な顔をしていないのだと思う。

 だってそうだ。今はまだ最初期に設定したスタートラインに立っただけなんだ。

 この先が鬼門。誠一の問いに言葉が詰まったほどの鬼門。


 手を取るだけでは意味がない。手を取って精霊術を発動するだけでは意味がない。


 ナタリアが俺の事を信頼してくれていなければ全てが瓦解する。そして瓦解するほうが現実的で。

 だとすれば碌な表情を浮かべている訳がない。きっと動き出した時からいつだって、碌な表情なんて浮かべられていない。


 だから例えここまでうまく行ったとしても、心情を埋め尽くすのは不安と懇願で、とにかく縋る様な思いでこの手を伸ばしたのだと思う。


 そうして伸ばしたこの手は宙を浮くナタリアの手に触れ、俺はその手を確かに握りしめる。

 飛んできた勢いでナタリアの手を引きながら、精霊術を発動させて祈った。


 ……頼む。


 その祈りをどこに向ければいいのかなんてのは分からない。故に届くかどうかなんてのは分からない。

 だけどそれでも、俺はただただこの手に焼けるような痛みが走るのを待っていた。

 願わくばその祈りが何処かに届いている事を祈って。

今回無茶苦茶短い理由としましては、次回誰のとは言いませんがex回なので此処で話を切らざるを得なかったからです。正直前回に入れておくべきでした。

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