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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
五章 絶界の楽園
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6 作戦開始

 誠一から放たれたのは、こちらに手を貸すという意思表示。

 今この状況において、その言葉に対する対応はもう迷う必要も無い。躊躇う要因もなければ第三者にす無理矢理遮断される様な状況でもない。

 だから俺は誠一に応援を要請する。


「ナタリアを……アイツを僅かでもいい。無傷で止めてくれって言ったら……できるか?」


 自分が難しいことを言っている事は理解できる。

 ナタリアの手を掴むチャンスさえあれば何とかできるが、気絶させては論外だ。もしナタリアを無傷で止められるのならばソレ以上の事は無いだろう。だけどあの出力で暴れまわるナタリアを無傷の状態で止めるというのはいささか無理がある。

 そして頼んでいる自分が無理だと思っている時点で、事は円滑に進みはしない。

 俺の肩から手を離した誠一は苦しい声で言葉を返してくる。


「無傷ってオイ……流石にそれは無理だろ。相手がもう少し弱けりゃともかく、あのレベルになるとそれは無茶って奴だ。だとすれば無傷ってのが絶対条件なら手は貸せねえしお前も止めるぞ」


 ……当然と言えば当然の返答だと、そう思った。命を懸ける様な場面でそんな無謀な真似はしないし

させてくれない。

 だけどそれでも手は差し伸べられる


「だけどなエイジ。極力攻撃をしないでって条件ならいくらかやり様はある。ソイツじゃ駄目か?」


 その極力が具体的にどういうものなのかは分からない。

 だけど気絶させる程の攻撃を浴びせるような、そんな言葉には思えない。極力って事はそれよりもきっとマシだと、そう考えた。考えたかった。

 だから俺は頷く。


「分かった。じゃあそれでいい。それなら何とかなるんだよな」


「ああ。難しいが何とかなるしもう既に動き出してる。そういう風に話纏めて動いたからな。作戦変更の手間が省けて助かった」


 さっき他の連中より僅かに遅れてきて、あのロングコート達とは分離している誠一が殺さないって言ったのはそういう事か。あの連中も誠一の言葉が正しければ、視界の先のロングコート達は最小限の攻撃でナタリアを止めている。確かに言われてみれば、あくまでその動きは足止めという側面が強い動きにも思えた。

 そしてそこまで事が進んだのならば、当然こういう話に発展する。


「で、止めたらお前はどうすんだ?」


 ナタリアの動きを止めた上でどうやって助けるのか。その手段の確認。


「アイツと契約を結ぶ。その為にアイツの手を掴まなくちゃいけないんだ」


 その言葉ではまるで契約に関する情報は伝わらないだろう。だけど事が俺がナタリアの手を掴めればそれで良くて、その為に動きを止めてほしいという事を伝えられればそれで十分にも思えた。

 実際契約そのものが何かなんてのは誠一には伝わっていなかった。伝わっている訳がない。だけど伝わらなくても流してくれる。


「契約……そいつがうまくいけばアイツを助けられんのか?」


「ああ、エルと同じ状態にできるはずだ」


「エルっつうとさっきの精霊か……で、その契約って奴は俺達でもやれる事か?」


 それは即ち誠一を含めたロングコートの連中が契約を結べるかという事だろう。

 それができればどれだけいいかと思う。大人数で取り掛かれれば一人と契約を結ぶ成功率も効率も、そしてより多くの精霊を助けることができる。

 だけどそれは現実的ではない。


「それは多分無理だ。契約はある程度お互いを信頼してないとできないんだ。初対面の状態じゃ無理だと思う」


 この場において可能性があるとすれば、それは俺に限られる。

 だけどそんなものは可能性にすぎない。希薄な可能性でしかない。


「そうかよ……でもお前はアイツの信頼をある程度勝ち取ってるんだよな?」


「……ああ」


 故にその言葉への返答は自然と詰まった物となった。

 直後に失敗したと思った。

 これから助けてくれる相手に成功率が低い事が伝わる事が決していい方向に進まないことはわかっているのに。無謀ではなくても非常に難しい事を知るだけで、そこから先に進まなくなる事は知っているのに。


「……そうでもねえって事か」


 ましてや誠一はできもしない事を抱え込む事には否定的だ。寧ろそれを止める側の人間だとも思う。だからこちらのそういう事情が伝わってしまえば、もう協力してくれないんじゃないかと思った。そんな

希薄な可能性に掛けるような真似はしないと思っていた。

 だけど誠一は一拍空けてから尋ねてくる。


「だけど、ゼロじゃねえよな? それだけは確認させろ」


「あ、ああ……ゼロじゃねえ。ゼロじゃねえよ」


 それはきっと俺の抱いた希望でもあるのかもしれない。実際そういう側面もあるのだろう。そうであってほしいという思いが強く表れているのだろう。

 だけどその言葉は妄言だけで構築されている訳ではない。

 出会った直後よりは、ほんの少しだけマシになった様に思える。確かに何も知らない状態よりは前に進んでいるんだ。

 だとすれば……きっとゼロじゃない。

 そして俺の言葉を聞いた誠一は少しだけ間を空けてから答える。


「だったら決まりだ。救うぞアイツを」


 俺の隣りに立って言った誠一の力強いその言葉にはどこか迷いも見える。

 本当にそれでいいのかと、言いながら迷っている風に見えるのだ。

 だから思わず訪ねてしまう。


「いいのか?」


「……いいんだよ。寧ろそうじゃねえと駄目なんだ」


 そして誠一は一拍空けてから続ける。


「無謀な事ならやれねえし、誰にもやらさせねえ。それは絶対曲げねえよ。だけどな、僅かでも可能性があるならやらねえと。他の事なら諦める程難しい事でも、これだけは諦めちゃいけねえんだ。ここで前に進まなかったら、俺はアイツに合わせる顔がない」


 言ってから誠一は掌に拳を打ち付け、覚悟を決めたように声を上げる。


「だからあの精霊を助けられる可能性があるなら、いくらでもお膳立てはしてやる。いくらでも頭を下げてやる。だから頼むぞ、成功させろ栄治!」


 誠一の言葉に出てきたアイツと言うのが誰の事を指すのか。そんな事は分からない。だけどその誰かを口にした誠一の声音からはもう迷いは感じられなかった。

だとすれば誠一に返す言葉は、それでいいのかと問う様な言葉ではない。


「ああ、当然だ!」


 誠一達の力を借りてナタリアを助ける。その意思表示だ。


「それで、ナタリアをどうやって止めるつもりだ?」


「どうやってって言われても専門用語言っても絶対通じねえだろうしな……まあ簡単に言うと、アイツの動きを鈍らせるだけしかできない割に発動させるのがアホみたいに面倒臭い手段がある。それを手ぇ空いてる部隊にやってもらう。俺らはそれまでの時間稼ぎだ」


「時間稼ぎか……上等だ。やるぞ誠一」


「いや、お前は今は下がってろ」


「は? おい、ちょっと待て。なんでそうなんだよ」


「何でってお前が倒れたら話になんねえだろうが。だからここぞというタイミングでぶっ飛んで来る。それだけ頭入れて待ってろ。心配しなくても目視で確認して飛び込んでくるまでの時間位は止められるさ」


「……」


 それでいいのかとは思った。

 ナタリアの戦闘力を身を持って感じた。あれを誰かに放り投げて自分は時が来るまで見ているだけ。そんな事でいいのかとは思う。

 だけどそれは思っただけで、きっと俺が待っていることが正しい事なのだという事は理解できた。誠一の言う通り俺が倒れたら話にならない。だから反論はそれ以上出てこなかった。誠一は正論を言っている。

 つまり俺がやるべきことは……誠一達の行動を無駄にしない事だ。

 ……当然心配ではあるが。


 そして誠一はこちらの心境を察したように言葉を紡ぐ。


「心配すんな。一体どういう原理でどんな力を使っているのかは理解できねえかもしれねえがな……俺らはそう簡単には死なねえよ」


 その直後、正面からナタリアの炎の弓矢が飛んで来る。正面のロングコート達に向けて何本も放たれた矢の一本がこちらに向かって飛んできたのだ。

 それを咄嗟に薙ぎ払おうと動こうとする。だけどそれよりも早く誠一が動いていた。

 懐から何かを取り出して正面に左手で放り投げる。


 ……札?


 それを視認した次の瞬間には正面に結界の様な物が展開され、炎の弓矢が結界に衝突する。

 メカニズムはまるで分からないが確かに出現した結界。それはほんの僅かに矢の勢いを殺すに留まり破壊される。

 だけど左手で札を投げながら、既に誠一はモーションに入っていた。


 炎の矢に……正面から右拳を打ち付ける!


「ぐ……ッ」


 誠一から苦悶の声が挙がる。だけど同時に破壊音が聞こえた。

 炎の矢が破壊され、消滅した音だった。


 そして荒い息使いで誠一は言う。


「な? そう簡単には死なねえんだよ」


 そしてその言葉から一拍空けて、誠一は言う。


「じゃあ……頼むぞ、栄治」


 そして誠一は他の連中に加勢する為に走り出す。

 こうして俺達のナタリアを助けるための戦いは本格的に始動した。

更新が非常に遅くなってしまって申し訳ないです。

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