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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
四章 精霊ノ王
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21 総力戦 Ⅴ

 自分の意識がまだ残っている事が不思議で仕方がなかった。

 きっと少しでも攻撃を受けた場所が違っていれば結果は変わっていて、少しでも俺の体調が悪ければそれで終わっていて、そう考えると本当に運が良かったのだと思う。

 エルと出会ったあの森での戦いも。アルダリアスの地下での戦いも。精霊加工工場での戦いも。きっとかなりの割合で運という要素が絡んできている。絡まなければ終わっていたケースが多々ある様に思える。

 今回だって運が悪ければ終わっていた。運に左右されれば結果が変わってしまう様なギリギリの戦いだった。

 だからきっと今の俺の実力では、ここが限界なのだろう。これ以上の勢力とぶつかれば、きっと運があっても生き残れない。本当にどうしようもなくなる。ふと、そんな事を考えた。

 だけどそんな考えはすぐに掻き消された。掻き消した。

 まだ終わっていない。まだ立ち止まるには早すぎる。


「……ッ」


 動き出そうとした所で脚が縺れてその場に倒れこむ。どうやらまともに歩けない程に脚が重くなっているみたいだ。

 だけどだからと言って寝てはいられない。

 戦いはまだ終わっていないのだから。


『エイジさん!? もう限界です! これ以上攻撃を受ける様な事があったら……ッ』


「……」


 言葉を返す気力も残っていない。

 だけどもしまともに返事が出来たなら、きっと俺は大丈夫だだとかそういう虚勢を吐いていたんだと思う。そして言えなかろうと、言ってどんな返答が帰ってこようと、俺のやる事は。俺のやらないといけない事は変わらない。

 ゆっくりと、再び転びそうになりながらも立ち上がる。

 そうして視界の先に捉えるのはもう一つの戦い。ナタリア達よりも数がやや多く全員が戦闘要員。そんな相手との戦い。大幅に劣勢の様に見えるが、それでもまだ辛うじて踏みとどまっている。

 そこに加勢する。

 加勢して終わらせる。

 そうしないと十中八九ナタリア達が負ける。もう虚勢を吐いてでも、血反吐を吐いてでも、止まれない。止まってはいけない。

 止まる事が。逃げる事が。正しいだなんて思えない。


 そして足元に風の塊を作り出して踏み抜く。

 着地は考えなかった。きっと考えても出来ないとそう思ったから。

 だから集中するべきは。掻き消えそうな意識を向けるのはそんな事ではない。

 ただ視界に移った敵を薙ぎ払う。それだけでいい。


 そして一番近かったナタリアの元へと辿り着く。そのまま殆ど満身創痍のナタリアに攻撃を繰り出そうとしていた相手を全力で薙ぎ払った。


「……ッ」


 そのままバランスを崩して地面を転がる。

 風による加速で物凄い推進力を得ていたから、そんな状態で地面にたたきつけられるのはもはや下手な攻撃よりも激しいと言ってもいい。

 だけど俺の意識はまだ消えていない。

 そして消えていなければ……相手の意識をある程度こちらに向けられる。

 そしてまだ意識があるのなら。まだ体が動くなら。

 こんな所で止まってたまるか。


 こちらに意識を向けて飛びかかってくる連中に死線を向けながら、俺は左手に風の塊を形成。そしてそのまま地面に打ち付ける。


「……ッ!」


 相当無茶な姿勢で打った衝撃で肩が外れたんじゃないかという位の激痛が走る。

 だけどそんな痛みも今更で……寧ろその痛みが意識を取り留めてくれているのかもしれない。

 そして俺の体は激痛とともに地から離れる。次の瞬間には俺の倒れていたポイントに精霊術によって作り出された落雷が落ちていた。

 だけどもう終わった事なんてのはすぐに忘れる。勝手に抜けていく。考えるは敵を倒す事のみ。

 歯を食いしばって全力で斬撃を放ち、敵一人を薙ぎ払う。

 そして跳び上がった勢いを殺さずに、着地地点でこちらを迎え撃とうとする大剣を構えた男と刃をぶつけさせ、腕力で無理やり押しきる。


 ……そして、着地地点に風の塊を形成。

 一気に踏み抜いて押し返した男を薙ぎ払う!


 視界から消える男。手に伝わる確かな感触。

 そんな場景と感覚を得た直後、俺の体は勢いよく地面に叩きつけられ、そこで今度こそ動かなくなった。

 ナタリア達の加勢に入って何人か削れた。まだ敵は残っていた。全員潰すつもりだったのにそれは出来なかった。

 だけど随分と数は減らせた。数の利が無くなった上に俺の登場に動揺した相手にナタリアやアイラ達が攻勢に出ている姿が、薄らいでく視界に確かに映る。

 完全ではない。目指した結果には程遠い。だけど可能性は残した。全員が生き残る為の可能性は残した。

 だから、後は頼むぞ……エル。


 俺に止めを刺そうとするように、男が槍を構えて飛びかかってくる。

 そしてそんな男にある意味で不意打ちを仕掛けるように……エルが剣から元の姿に戻り拳を握る。

 そして突然の登場に一瞬動きが止まった男の顔面に、エルの拳が叩きつけられる。

 俺の意識はそこで完全に掻き消えた。

そろそろ四章終わりです。頑張ります。

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