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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
四章 精霊ノ王
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18 総力戦 Ⅰ

「助けに来たぜ、ナタリア」


 ナタリアの前に躍り出てそう言ってから、状況を再確認する。

 もう一人の男には躱されたが、弓を持っていた男は薙ぎ払った。

 現状この場に残っているのは今攻撃を躱した男と精霊が二人。もし今薙ぎ払った男が起き上がってきても四人だ。

 例え相手が強い精霊と契約していても、俺一人で十分に相対できるであろう人数だ。加えて現実的な戦力は俺だけではなくアイラが居る。今この場にいる駒だけを見れば俺達が優位に立っている筈だ。

 だからこの優位が崩れない前に、今この状況だけでも終わらせる。


「お前ら! ナタリアを頼む!」


 遅れて俺の元に辿りつきかけていた三人にそう言って俺は再び地を蹴る。

 ナタリアは三人に任せる。アイラは戦えるしヒルダもサポートできる。そして出来るならば、ナタリアの怪我を少しでもリーシャに癒してほしい。

 そして俺は他の連中を叩く。


 動き出した先に居るのは先程攻撃を躱した男……の筈だ。だが動きだした先には誰もいない。動きだす直前にあの男が自分の姿を消した。

 だけど驚きはしない。事前にこうなる事は想定できた。

 移動の最中にエルからある程度この地点に居るであろう相手の情報は聞いている。その中の一人がコイツだ。姿を消す精霊術を使うらしい。

 だけどエルにそれが殆ど通用しなかったのと同じで、今の俺にもそれは通用しない。

 

 俺は男がいるであろうポイントで勢いよく剣を振り抜く。

 一瞬、男が姿を現して結界を発動させたが、あの反射結界を使う奴程の強度ではない。叩き割って薙ぎ払った。


 そして次の瞬間再び地を蹴って、後方から接近していた矢を躱す。

 矢が刺さったポイントの地面が陥没しており、その威力が相当なものだと察する事ができる。そしてそれを放ったのは視界の先の精霊。

 地を蹴った勢いで体を捻り、そのまま斬撃を打ち込む。


「……流石に駄目か」


 放った斬撃は辛うじてという風に躱される。

 そしてこちらの攻撃を躱せばアチラの番だ。

 次の瞬間には崩れた態勢のままこちらに向かって凄まじい勢いの矢を放つ。

 そしてその矢は正確に俺の着地地点を狙ってきていた。


「……ッ!」


 着地した直後にサイドステップで攻撃を躱すが、あと一瞬でも遅ければ何処かに矢を受けていただろう。

 でも受けなかった。受けなかったらもうそれ以上は考えるな。攻撃に転じろ。


「行くぞ!」


 そして俺は走り出す。

 精霊が放つ矢を躱して弾いて。ものの数秒で距離を詰める。

 そして俺は精霊の前に辿りついた所で、再びサイドステップで精霊との距離を僅かに離した。

 弓を構える精霊の周辺に何かが居た。きっと姿を消すことができる精霊が俺を待ち伏せしていたのだろう。

 だけどそれは俺には通用しない。そして足止めにすらならない。

 近接している二人同時に相手取る。


 体を捻って大剣を振るい斬撃を発生させ、二人纏めて薙ぎ倒す。

 流石に超近距離では躱されない様だった。


 これで全員倒した。一時的にでも戦闘は終わりだ。


 ……そんな風に気を緩めてしまったから、戦況は傾く。

 あまりにも詰めが甘い。


 よくよく考えれば分かる事だ。

 そもそも薙ぎ払った相手の意識が失われた事を確認していない。


 着地した後、俺はその場に立ち止まり軽く息を付いて周囲を見渡した。

 本来ならばその一瞬すら無駄にせず、相手の意識の消失を確認するべきだったのだ。


「……」


 視界の先で、ナタリアの枷を外し終えて立ち上がったアイラが何かに反応する様に、すぐには動けないナタリアを抱えて跳ぶ。そしてその腕に切り傷ができ、血が流れ出していた。

 それを誰がやったのかなんて事を考えるのは容易だ。

 距離が遠く位置をうまく把握できなくてもそれは分かる。

 つまりはまだあの男の意識は消失していなかった。まだ確かにそこにあったのだ。


 それを視認してからは半ば反射的だった。

 足元に風の塊を形成して踏み抜き、一気に彼女達の元へと戻ろうとする。

 だけど一度傾いた戦況はそう簡単には戻せない。結論を言えば、起き上がってきたとしてもと過程できていた相手への意識が完全に削がれ、ナタリア達と姿を消す男の方へと向いていた。


 故に背中に矢が刺さった。


 風の塊を踏み抜く直前に刺さった矢が追撃を仕掛けるように強烈な衝撃を打ちだしてくる。

 その勢いで足は風に触れない。勢いよく地面を転がされる。


 そして勢いを殺された俺には遠距離からの追撃が良く届く。

 なんとか態勢を立て直した俺の真横を矢が走る。

 そして後方に突き刺さり、背後から爆音と共に爆風が吹き荒れる。

 矢の衝撃も爆風も、俺の活動を止めるには弱い。まだ体は十分に動くし、どこの骨も折れていない。精々が背中に火傷を負ったかもしれないという位だ。

 この程度で俺は負けない。

 だけどこの僅かな時間、確かに俺は足止めされた。すぐにでも戻らないといけないのに止められた。

 それはきっと相当な痛手。嫌な予感が脳裏を過る。


 だけどそもそもだ。


 何に反応したのかの確信は持て無いが、アイラは接近してきた見えない相手に辛うじて反応出来ていたんだ。その時点で、俺が与えたダメージが蓄積している相手と戦おうと思えば……それはきっとそう簡単には負けはしない。

 再び態勢を整えつつ一瞬見えた光景。その光景の中で彼女達は確かに立っていた。ナタリアでさえも肉体強化を発動させたのか、自分の足で確かに立っていた。

 ……負けは無いとは言わない。

 だけどきっと俺が意識を向けるべきはそこではない。優先すべきはそこではないんだ。


 あの弓を使う男を潰す。そして他の精霊の意識が失われている事を再確認する。


 思考をそういう風にまとめた。

 纏めばもう動くだけだ。

 態勢を立て直し、迫ってきた矢を薙ぎ払い、それを合図に走り出す。

 何発も放たれる矢や吹き荒れる爆風を掻い潜り、距離を縮め再び矢を交わした所で足元に風の塊を作り出して踏み抜く。

 至近距離からの超過速。こちらの存在を視認し居ているとはいえ、そう簡単には躱されない。

 そして大剣の届く圏内にまで踏みこんで、一閃。

 弓を持つ男を再び薙ぎ払った。


 そして滑る様に着地した俺の視線の先で、戦闘は終わりを迎えていた。


 こちらに誰一人として倒れている者はおらず、激しい動きは無くなった。きっとなんとか相手を退けたのだろう。

 ……とりあえずこれで相手の意識をを再確認さえすれば、一先ずは今度こそ俺達の勝利。


 本当に一先ずはだけれど。


 全てを確認したうえで、それでも事は終わらない。

 寧ろそれの方が本番。全く持って気は抜けない。


 とにかく気を引き締めて迅速に行動する。

 それを頭に再び叩きこみ、俺は薙ぎ払った相手の意識確認へと向かった。

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