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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
四章 精霊ノ王
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17 故に覚悟は決まってる

 少なくとも、祈らなければならない程度には難しい話だったのだと思う。

 手放しにはいそうですかだなんて言えないって。そう思っていた。


「それで、ボク達は何をすればいい?」


 確かに一瞬戸惑う様な表情は浮かべた。だけどそれを飲み込んで、三人は俺の言葉を受け入れたように頷く。


「何をっていうか、その前に……いいのか?」


 誰も俺の言葉を否定すらしない。きっと俺の言っている事は彼女たちにとって無茶苦茶に聞こえる筈なのに、それでも俺の意見が肯定されていた。

 そしてアイラは言う。


「……私達はもうどうしようもない状況から、あなたとエルに救われた。だったら二人の意見は尊重したいし、その為に私達が何らかの形で動かなくちゃいけないなら、動きたいと思うから」


 その言葉に、ヒルダとリーシャが頷いたという事は二人も同意見という事なのだろう。

 自分で頼んでおいて変な話だが、そんなにあっさりと決めてしまっていいのか? 


「なんでキミが困惑した顔してるの?」


 どうやら俺のそんな困惑は表情にでてしまっていたらしい。


「……まあな。正直嫌がられるんじゃないかって思った。いくら俺達の意見を尊重してくれるっていっても、限度があるだろうし……お前らも、あまりナタリアといい間柄ではなかっただろ。アイツの為に危険な事をやらないといけないのに……本当にいいのかなって思って」


 アイラはさっきナタリアの行動を擁護してくれた。だけどきっとそこまでだ。


『……確かに良くはない。あんな風な態度を取っていたら、近づこうにも近付けないしその気も無くなってくる』


 それでも良い間柄を築けていないのは確かだった。こういう場合において俺の経験則はまるで当てにならないけれど、それでも俺みたいな奴でもない限り、好きでもない、それどころかあまり良い関係を築けていない奴の為に命を掛ける様な真似はしないのではないだろうか?



「確かにボク達はナタリアに良い印象を抱いてないよ。抱けるわけがない。僕達はキミ達を尊重したいと思うけど、それでもなんだって出来る訳じゃない。きっとナタリアを助けるって事は、少なくとも私にとっては出来ない事だったと思うよ」


「……だった?」


「うん。今ならやれる」


 今ならば。

 今日一日、明確に亀裂が入っていた彼女達の間柄が修復される機会なんてのは無かったはずだ。

 それなのに、一体何が彼女たちを変えたのだろうか?

 そしてヒルダはエルの方に視線を向ける。


「あれだけナタリアを警戒していたあなたがそうしようと思えたのなら、きっと私達は何か誤解している。一概に突き放しちゃいけないんじゃないかって、そう思う」


 きっと俺が思っている以上にエルはナタリアの事を警戒していたのだろう。それが結果的に掌を返した事でヒルダ達に影響を与える程には。

 そしてそんなヒルダに続くようにリーシャが言う。


「……こんな酷い世界ですから。仲良くなれるかもしれない誰かはなんとかしてあげたいんです。無謀な事ならできないけれど、現実的に何とかなる算段が付くのなら手を伸ばしたいんです」


「……そうか」


「……そう。だからやるなら早くしよう。戦う覚悟ならもうできている」


 そう言ってアイラが一度消していた太刀を再び形成して、俺達の横を通り抜けるように歩き出す。

 それに続くようにリーシャとヒルダも動き出した。


「戦いで私にできる事なんて何もないでしょうけど……それでも、やれる事はやりますから」


「だったら終わったら皆の傷を治してよ。それまではさっきみたいに私が全力で守るから」


 そんな風に動き出した三人からは迷いなんて物が感じられなかった。

 エルはどうだか分からないが、少なくとも三人はナタリアの行動の根底にある物がなんだかは知らないのだろう。そんな彼女達がこうして動きだせたという事はとても嬉しく思える。


 とても楽観的な考えなのかもしれないけれど、それでも思う。

 ……こんな酷く歪んだ世界でも。どうしようもなく狂ってる世界でも。それでもまだ救いは確かにそこにある。

 歪んでいても狂っていても。きっとまだ終わっていないんだって。

 彼女達を見ていると、そんな事を思えた。


 だけどそこに結果を残さなければ、結果論としてはどうしようもなく救いようがない。

 だから結果を残す。

 残さないといけない。

 こんな風に立ちあがってくれた三人の思いを無駄にしてはいけない。


 そしてエルが俺の手を握る。


「出し惜しみ無しでいきましょう。負けていい戦いなんて無いですけど、それでもこの戦いは負けられない」


「当然だ。一気にカタを付ける」


 そしてエルを剣へと変え、俺達は動きだす。

 ヒルダとリーシャの肉体強化の出力が低い為、それ程速い速度での移動にはならないが、それでも素の状態から比べればは遥かに早い。きっとすぐに辿り着く。

 ナタリアの元へと駆け付けられる。


「それで、なにか作戦はあるの?」


 走りながらヒルダが訪ねてくる。

 だけどそれには碌な返しができやしない。


「悪いな。何もねえよ……ゴリ押しでなんとかする。俺に出来るのはそれだけだ」


 今から考えようとも思わない。

 どうせ高校生が考えられる策なんてたかが知れてる。そんな浅知恵でどうにかなるのは余程運がいい奴か本当の天才。もしくは漫画の主人公位だ。

 俺はそのどれでもない。そんな事は自覚している。

 だから難しい事は考えるな。

 ただ前に突き進めばそれでいい。

 そう思った時、空に何かが打ちあがったのが見えた。


「なんだ?」


 俺達の居た方角からこちらに向かって立て続けに二発、何かが打ち込まれた。

 黄緑と赤。それぞれ色が付いた煙をまき散らして空を飛ぶ。


『何かのサインですかね』


「って事は信号弾って事か。それもこっちに向けられたって事は……とにかく急いだ方が良さそうだ」


 あれが信号弾だとすれば、どんなサインであれアチラの状況を少しでも良くするものだと考えるのが当然だ。それは即ちこちらが不利になると言う事。

 ……だとすれば、本当に急いだ方がいい。

 戦況が俺達にとってより悪い物になってしまう前に、目的を終わらせる。


 ナタリアを……助ける!


 俺は剣を握る力を強める。

 決戦はすぐそこだ。

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