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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
四章 精霊ノ王
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14 そしてその時それらは消える

 まず最初に動いたのは目の前の男だった。

 こちらに標的を定める様に視線を向けて、その場で右腕を振るモーションに入る。


「後ろに飛べ!」


 それだけ言って俺は後方に跳躍し、エルも瞬時に指示通り跳ぶ。

 そして俺達の居た所から長方形の巨大な結界が斜め方向に突き出してくる。躱していなければ今頃激痛と共に空に打ち上げられていた。

 だがこれで終わる様な相手ならば、きっと今の俺でもなんとか相対できる。

 それで終わらないから、彼はまだそこに立っている。


 結界が突き出し切った時には、既に結界の正面に、男が腕を振り上げた直後に放った巨大な何かの塊が接近していて、着弾直後に発射台の役割を果たすように上空に打ち上がる。


 まだ一度も見ていない攻撃パターン。だがしかし何が起きるかは大体分かる。


 雨が降る。


「……ッ!」


 上空で爆発音がした瞬間、俺達は思い思いの方向に全力で跳躍する。

 そしてその直後、俺達が居た座標に精霊術で作られた何かの雨が降りそそぎ、そして破裂する。


「グァ……ッ!」


 爆風に煽られ、俺の体は吹き飛ばされる。


「クソッ!」


 風を操り態勢を整えつつ、正面を見据えた。

 俺の動きで直接的な爆発によるダメージは回避できたのだから当然というか、エルはその爆風の煽りを受けずに滑る様に着地する。

 今の攻撃で俺達に直接的なダメージはない。だとすれば俺達の分断を狙ったのかと、そう思ったがそれは違う。そんな物はきっと目的の過程で生まれた結果でしかない。

 俺の正面を、隣を、上空を。先の爆風で砕かれた結界の破片が飛散する。


 衝撃を跳ね返す結界の破片が、俺の周囲に。


「……ッ!」


 まず正面に弾かれた。俺を弾いた結界は今度こそ完全に砕けて粉の様に消滅する。

 だけど弾かれた先にある無数の破片は、まだそこにある。

 激痛と共に体が弾かれ、次の瞬間向かう先にも破片はある。そう簡単には終わらない。

 突風で吹き飛ばそうにも、おそらくその突風に結界の反射が反応する。元の出力なら跳ね返す力を押し切る事も出来たかもしれないが、今の俺なら待っているのはきっと最悪な状況だ。

 だからその手段は使えない。

 俺の視界の先でこの攻撃に対して、即座にその場を離れる選択をしたエルの様に、もっと事前に行動を取らなければいけなかった。あまりにも勘付くのが遅すぎた。

 そして一瞬見えた視界の先のエルは攻勢に打って出る。結界の破片が集中していた場所から大きく横に飛んでいたエルは、勢いよく切り返して男に接近戦を仕掛ける。


 ……俺も、それに加勢する!

 その為にもここは強行突破だ。


 俺は不安定な態勢ながらもなんとか足元に風の塊を形成して、それを全力で踏み抜く。

 バランスを崩してやや予定とは違う方向に跳ぶが、それでもこれなら超えられる。根拠はないが超えられる。

 結界に弾かれた体を弾きかえす位の強度がこの結界の破片にあったとしても……文字通りただの暴風では押しきれないとしても。この勢いで体当たりをかませばきっと突破できる。


 歯を、食いしばった。


 食いしばった先で、俺は地面に勢いよく叩きつけられてその場に転がる。

 結界のダメージ。勢いよく地面に叩きつけられたダメージ。とにかく体に激痛が蓄積している様な、そんな気分に陥る。

 だがしかし、まだ体は動き自由にもなった。

 ならば早急に態勢を立て直して正面を見据えろ。エル一人に戦わせるなんて事はさせるな。


 視界の先ではエルが勢いよく接近して拳を男に放っていた。だがそれもまた俺の時の様に跳ね返される。

 ……俺の拳でも大きな罅は入れられた。それが今のエルの出力で壊せないのだとすれば、おそらくあの結界は一枚じゃない。何枚かの結界が重なって攻撃を阻んできている。

 だとすれば果たして俺がゼロ距離で風の塊をぶつけた所で効くかどうか。

 ……分からないが、それでもやってみるしかない。


 もう時間稼ぎをする事にメリットなんてものはない。寧ろ時間が経つにつれて状況は悪化していく。

 だとすればそこに可能性が薄くてもとにかく何度も食らい付く。それしかない。

 そうしなければいけないんだ。


 ……なんて、そんな事を考えたけど、きっともうそんな事を考える様な。考えていられる様な。そんな状況はとうに過ぎてしまっているのかもしれない。


 エルが弾かれたその先。滑る様に着地するエルに標的を定めるように、新手が 勢いよく跳びかかっていた。

 他と同じく男と精霊のペア。内の真っ先に到達した精霊がエルに回し蹴りをはなった。

 エルもそれに反応し、なんとか即答部を狙った蹴りを腕で防ぐ。

 だが不安定な態勢で防いでまともに防ぎきれるかと言えばそれは否だ。更にバランスを崩して足が地から離れる。

 そしてその攻撃を防いでも、その場に居るのはその精霊だけじゃない。

 その契約者もそこにいる。


 その瞬間、気が付けば反射の結界を張る男から意識が外れていた。

 一体何をどうすればいいのか。それすら正確に掴めなくなってきたこの状況で、とにかく一刻も早くエルの元に向かえと、必死になって体が動いていた。

 視界の先で男の拳がエルの鳩尾に叩きこまれ、エルが勢いよく地面を転がる。

 そんな目を背けたい事が行われているその場所に向かう為に、俺は右の足元に風の塊を形成した。

 その瞬間、違和感があった。

 否、ずっと纏わりついていた違和感が消滅したと言ってもいい。

 そしてそんな違和感が消滅した俺は、明らかに圧縮された風の密度が大きいその塊を勢いよく踏み抜いいた。

 そうして訪れたのは超加速。

 文字通りの超加速。


 そのまま勢いで、結界を張る男の前をすり抜けた。

 今まで鈍かった俺がいきなり加速する。もしかすうるとエルの動きを見て俺の速度の遅さに違和感を感じていたかもしれないし、この速度はどこかで想定していたかもしれないが、そんな事は関係ない。

 突破した。その結果だけが答えだ。

 そして着地地点で再び再加速。その瞬間にはエルに攻撃した新手もこちらに意識を向けてくる。

 ……それでいい。存分にこっちに意識を向けろ。


「エルから離れろッ!」


 そして俺は全力で拳を振り抜く。

 その拳は後方に跳んで躱された。目の前の男がカイル程の実力者でないのであれば、それは純粋に契約している精霊の質が高いという事になる。

 思ってみれば当然だ。大勢の精霊が訪れるこの場所で狩りをしているんだ。この場に居る者の多くが俗にAだとかSだとかそういう高位なランクの精霊と契約を結んでいたっておかしくない。

 つまり近接格闘を主軸とする相手ならば、もう俺と相手の出力はそこまで大差ない。そして僅かな差は技量で埋められる。

 故に俺の拳は届かない。エルの拳もあの男の結界に弾かれた。今までの戦いとは違い一人一人が強者のこの状況で、まともに戦えばきっと勝ち目なんて端から無い。

 だけどもう、普通には戦わない。


 直後に跳びかかってくる相手の精霊と、そして契約者の男を牽制するために正面に右手で突風を放つ。

 そしてそうして稼いだ僅かな時間。状況を察してくれたエルが俺の隣に現れて手を握ってくる。


 出力が戻っている。

 それは即ち、エルの剣化を妨げる何がが無くなったという事になる。


「……お願いします、エイジさん!」


「ああ、今度こそ反撃開始だ!」


 そして俺はエルの体を剣へと変える。

 それができたという事は即ちどういう事なのか。そんな事にはすぐには気付かず。

 ただ、目の前で展開される劣勢を覆す事だけを考え、俺は剣を構える。

 そうして俺は地を蹴った。

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