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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
四章 精霊ノ王
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9 打開の策

 精霊術の効果範囲から出た俺達は、その場でエル達を待つ事にした。

 基本見張りは俺だったわけで、一応アイラには寝ていいと言ったが断られた。


『流石に事が終わるまでは眠れない』


 まあ言われてみればそうかもしれない。成り行きが気になるってのもあるだろうけど、一体どういう事態に発展するかが分からない以上眠れないのも無理はない。俺も逆の立場だったら眠れないだろう。

 だから暫くは俺達二人で見張りをする事となった。

 色々と会話を交わした後で今更な気はするが、それでもヒルダとリーシャを起こさない様にお互い特に言葉は交わさなかった。

 だけど訪れた静寂を破る様に、不意にアイラがこんな事を淡々と訪ねてくる。


「……そういえば、怪我とかしてない?」


 ……良く考えたら一悶着の詳細をアイラに話してなかったな。だから俺が今どういう状況に置かれているかも、アイラは知らない。


「大した怪我はしてねえよ。精々軽い打撲程度だ。だけどまあ怪我以外なら一つ問題があるけども」


「……問題?」


「精霊術の出力が随分と落ちてる……というより抑え込まれている感じがするんだ。ナタリアに何かされたってのは間違いないんだろうけど……アイラ、これどうにかできないか?」


 俺には知りえない情報でも、他の誰かなら知っている事だってある。精霊術に関してはそういう事の方が圧倒的に多い。だからアイラならこの問題を解決できるかもしれない。

 だけどかもしれないは決して確定ではない。寧ろそうでない事の方が圧倒的に多い。

 故に彼女は首を振る。


「……私にはどうにもできない」


「……そうか」


「……そう。単に力が出にくくなってるだけなら、精霊術を使う基盤となっている器官が衰弱させられてるう可能性が高い。だから回復術で直せる。だけど抑え込まれている感覚なら話は別。術そのものを打ち消さないと、どうにもならない」


 そしてどうにもできないという事は……、


「つまり、そういう事をできる術をお前は使えないって事か」


「……それどころか回復術も使えない。そして話を聞く限り寝ている二人もきっとそういう術は使えない」


 二人とも微量な肉体強化が使えるだけで、後はヒルダが結界に特化。リーシャが回復術に特化しているらしいからな。そういう術になれば完全に畑違いなのだろう。そして得意分野の畑違いだとすれば、仮に使えても俺に掛けられた術をどうこうできるレベルに達しているかも分からないし。

 つまり現状現実的にできる打開の方法はただ一つ。


「……つまりはやっぱりナタリア自身がどうにかしようとしてくれないと、どうにもならないって事か」


「……そういう事になる」


 つまりはエルがうまくやってくれないと俺の力も戻らないって事だな。

 ……まあそもそも、そういう状況になったらもうそれどころじゃない様な最悪な事態に発展してしまう気がするけど。

 そして最悪の事態と言えばだ。


「……だから今何かが起きたら危ない」


 アイラが淡々とその最悪の状況を口にする。


「……今の状態で戦える?」


 俺の力は弱体化して、もしこの状態で戦闘にでも発展すれば力任せの戦法が取れない。完全に出力便りの俺の戦闘スタイルじゃこの出力の低下は致命的と言ってもいい。

 そして……この場にエルが居ない。

 まともに戦おうと思えばエルの協力は必須だ。そのエルが近くに居ないのだから、この低下した出力でエルと合流する僅かな時間を戦い抜かなくてはならなくなる。きっと僅かな時間でも相当に苦しい。

 そしてそもそもその合流が僅かな時間で済んでくれるかどうかも分からない。俺達とエル達の間に敵が出てきたらそれも難しくなるからな。


「……厳しいな」


 だから本当にこの状況は芳しくない。


「だからこそ、気は抜けない」


 不意を突かれでもすれば本当に取り返しがつかない事になる。それだけは避けなくてはならない。

 だけど精霊の敵であるこの世界の人間は、基本的に人間には優しい。

 例えば工場内部に無断で入り込んできた侵入者だとか、どう考えたってヤバい奴でもなければいきなり危害を加えてきたりはしないだろう。もっとも俺がそういうヤバイ奴だという事を知られていれば文字通り危害を加えてくるだろうけど、現段階では件の一件から精々丸一日が経過した程度だ。俺のやった事を知らない人間もそれなりに居るだろう。


 だからこそ、目の前から歩いてくる人間が俺の事を知らない奴である事を祈ろうか。


「……来た」


 アイラが小声でそう呟く。

 俺達の前方から精霊術で周囲を照らしながらこちらに小走りで走ってくる人間と精霊。それぞれ二名を確認する。


「……明らかにこちらに向かってきてるよな」


「……とりあえず二人を起こす?」


「いや、ちょっと待て」


 あちらはどうやら明確にこちらに向かって移動してくる。その目は分からないが、それでも高確率であまり良くない事が起きるだろう。

 その場合起きるのが戦闘だろうけど、力の利も無い上、戦闘要員が実質二人しかいなく数の利もない今、そうなると本当にまずい。

 だからこそやるべきなのはこの状況で戦闘が起きる事を回避する事。

 つまりだ。


「……今はまだいい。それは戦闘に縺れ込みそうになってからでいい。とりあえずはこの場で何も物騒な事が起きないように平和的に立ち回る」


「……どうするの?」


「会話でうまくやり過ごす」


 相手がこちらを知らない事を祈って会話でこの場をうまく乗り切る。その為にも状況を把握していない二人を起こして、寝起きの状態で対面させるわけにはいかない。

 そしてエルにサインもまだ送れない。仲間を呼ぶようなサインをあげると、俺がアイツらを見つけて戦う為に呼んだと思われてしまう可能性も否定できないからな。

とにかく平静を装い会話を紡ぐんだ。


「だからうまく俺に合わせてくれ。そんで本当に危ないと思ったら二人を無理やりにでも起こして戦闘開始だ。いいな?」


「……了解」


 後、もう一つだけ伝えておきたい事がある。


「後、もしかすると会話の中でお前らに対して酷い事を言うかもしれねえ。だけど基本それは嘘だ。頼むから真に受けるなよ」


「……分かった」


 そんなやり取りの直後。逃げることなくその場に突っ立っていた俺に、接近してくる男の声が届く。


「おいそこのお前、こんな所で何をしているんだ!」


 すぐそこまでやって来た男のその言葉に対する返答を必死に練り上げる。

 そしてそれで本当にいいのかと半信半疑になりながらも、俺は嘘を吐き散らす。


「ああ、なんかこの辺り精霊が結構いるらしいって聞いたんで、ちょっと金稼ぎに」


 さあ頼むぞ。うまく行ってくれ。

 この状況を打開するんだ。

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