35.その手が紡ぐもの 2
真っ黒に焼けた柱からゆったりと煙がくゆっている。それももうすぐに薄れ、すっかり消えてしまうだろう。
小鳩亭は一階部分が全焼。二階は半焼で水浸し。その他だと、右隣の雑貨屋の壁を焦がした程度ですんだことは幸いだ。
魔術の炎はかなりの勢いだった。使い手のツェーの魔力が強く、魔術の腕も抜きん出ていたからだろう。ある意味で、小鳩亭だけの被害でおさめられたことは冒険者魔族たちの手柄である。
「悪ぃ! お嬢、魔術使っちまった!」
腕に刺青をこさえた魔族たちが、てへっと笑って頭をかいた。防衛団に魔術無効の手かせをはめられ、それぞれがしょっ引かれていく。
「バレちまったらしかたねーよ。しばらくドロンしないとな~」
おい、ちゃんと歩け。なんてせっつかれているのに、連行される側は気楽なもので。
肩をすくめたひとりに、前を歩くひとりが体をひねってにししと笑う。
「意外と楽しかったなあ、森の外も」
「おー。おれ、今のやつらが代替わりしたくらいにまた外行こうかなー」
水を呼び寄せて放出した魔術は、大きなくくりで攻撃制のある魔術と判断されたらしい。魔族が大量発生してしまったこの場を収める意味もあるのだろう。
事情聴取のために強制帰還される魔族たちだが、使用目的が消火活動だから咎められることはない。本人たちもそれをわかっているからこんな調子なのだ。
「ツェーのあれは、ただの癇癪だから。気にすんなよお嬢」
この日の護衛が、かなたにそっとささやく。もちろん枷をつけて引っ張られているところだ。
あの場でかなたにも、イルディークにも魔術を使わせないようにしてくれた彼ら。大事なものを守ってもらった。どこまで考えた結果だったのかはわからないが、恩人と言ってよいほど、助けられてしまった。
「ありがとう」
連れられていく姿に、たまらずに声をかける。
お~、またな~。お嬢、元気出せよ~。 歩きながらひらひらと手を振ってくれる。まったく、どこまでも彼ららしい。
「大変ご迷惑をおかけしました。ただいま全員の拘束が完了したので、このまま連行します」
背が高くてがっしりとした体つきの女は、にっこりとかなたへ笑った。
かなたは頬をひきつらせる。実は彼女は魔族の防衛団副団長という役についていて、無茶をしては団長を引っ張りまわす魔王様に毎回ご立腹なのである。もちろん今回も例に漏れないだろう。
びしっと敬礼をした副団長にかなたはびしっと固まった。もうその丁寧な対応からして、ひしひしと彼女の怒りを感じる。
「のちほど、店主の方には事情をおうかがいしたいので。お時間いただいてもよろしいですか?」
にっこり。
「もちろんです」
にっこり。
「お店がこの状態では大変でしょうから、落ち着いたらでかまいません。それでは、よろしくお願いいたします」
にっこり。
こえー。副団長めっちゃ怒ってるよー。
かなたも普段アズを振り回し、ダイナを借りていることで、迷いの森の防衛団に支障をきたしていることは自覚している。そのため、意外とこの相手を煙に巻くことも受け流すことも苦手なのであった。
連絡しますので、にっこり。なんて最後に付け足されたのに苦笑して、かなたは肩をすくめる。
ゆっくりと息を吐きだして、真っ黒な小鳩亭を見上げた。
片付作業は明日から、とりあえず今は立入禁止。ということで店の周りにはロープが引かれた。
町長のゾムまで駆けつけ、後片付けの算段を助言してくれる始末だ。
お嬢、元気出せよ。片付け手伝うからな。町の人たちが口々にそう言ってくれるものだから、かなたは明るく笑ってありがとうと何度も言った。
ようやく野次馬も少なくなったところで、ようやくウェールズが手を上げる。
「無事だな」
「もちろん。お騒がせしてすみませんでした」
魔族の揉め事に巻き込んで危険にさらした挙句、泊まるはずだった宿を失わせた。頭を下げるかなたに、オーウィンがあっさりと首を振る。
「カナタたちが悪いわけではないだろう」
まっすぐ向けられる深緑色の瞳に、かなたは苦笑するしかない。
「怪我がなくてよかったです」
不幸中の幸い。
そう言って焦げている店を振り仰げば、オーウィンも同じようにした。
開いたままの扉から、真っ黒な受付や階段が見える。壁も焼け落ちて、テーブルや椅子、調理台まで燃えたことがよくわかった。
「しかし……残念だな」
ぽつりと呟いたのはオーウィンだった。
目を、店から自分の手のひらに移して、わずかにその表情を翳らせる。
「俺が来たから」
「オーウィンさん、それは違いますよ」
かなたは間髪入れずに否定した。
彼にしてみれば、ツェーは勇者と呼ばれる自分を倒しに来た魔族だ。まさか、かなたを狙っていたとは思わないから当然だが、自分のせいだと言われると罪悪感が沸いた。まして、かなたはずっと自分も魔族なのだと言っていないからなおのこと。
だけど、言うわけにはいかない。罪悪感があるくらいで、言うつもりはない。
「ちょっとだけ運が悪かっただけです」
いくつかの悪いことが重なっただけ。だから、かなたは多くを言わず首を振った。
オーウィンのなかで、すべての魔族が悪者になりませんように。こっそり祈ったかなたに勇者はぐっと歯を噛みしめた。
「また来る」
真剣な面持ちでうなずいた彼の肩を、ばしっとウェールズが叩く。
オーウィンとは対照的にウェールズは軽く笑みを浮かべてから、またなと手を振って紅蓮の瞳をおどけさせた。
ふたり揃って踵を返したのを、どこかホッとしてかなたは見送る。あの陽気さが、今はきっと勇者を励ますのだろう。
オーウィンと別れ、かなたたちも碧の泉へやってきた。
燃え尽きた小鳩亭をいつまでも見ていると気が滅入ってしまいそうだった。場所を移そうと言い出したダイナの言葉に甘えて、まだ営業していない店の扉をくぐる。
すると、ひどくそわそわしたトリトリートの熱い歓迎を受けることになったわけだ。
今日は店を休みにするから、このまま使ってよ。そう言ってくれた若い店主にもすっかり甘え、ようやく落ち着いてそれぞれが椅子に腰を下ろした。
ココとケットは、自分の家には本当に顔を出しただけですぐに戻ってきた。だから彼らも小鳩亭が真っ黒になっていく様を見つめたあとで、こうしてテーブルを囲んでいる。
出されたお茶にも手をつけず、ケットがめずらしく神妙な顔でかなたをうかがった。
「カナタさん、お店はどうするの」
あまり顔色がさえない。一度気分転換をと思ったけれど、あまり効果はなかったようだった。
火事になったことだけでも衝撃だろうに、魔族に悪意を向けられたことも、店に魔族が普通に出入りしていたことも受け入れがたいはずだ。
焼けてしまった小鳩亭は、容易に営業が再開できる状態ではないのだと、ケットの目にも明らかだった。
かなたは燃えてガラクタになったカウンターやテーブルなどを思いだし、小さなため息をこぼした。
「うーん……ちょっと悩むんだよねえ。今の場所だと建て直しからだし、そこに時間とお金をかけちゃうのももったいない気がしててね」
「えっ! 小鳩亭、作り直さないの?」
ガタンと立ち上がったケットの驚いた声に、他の視線もかなたに集まる。
売り上げやある程度の荷物なら、アズが店から移してくれて無事だ。団長兼魔王様護衛はそのへんも抜かりなかった。だから、やり直すことがまったくできないわけじゃないのだけれど。
「結局はただの宿屋だから。どこでもできるよ」
ケットがむっとして押し黙る。
「でも、そんなにこだわる必要はないとも思うんだよね。碧の泉もあるから、この町で私たちの料理が忘れられることはないだろうし。ゾムじいに聞いたら、今ちょうどいい空き家がないって言うし」
どうしようかなあ。
建て直してまで再開させるべきか、かなたは正直迷っていた。
だから燃えている店を見ていたときも、火が消えて真っ黒になった今も、なんとも言えない気持ちが渦巻く。
曖昧に答えたかなたに、ケットは声をとがらせた。
「じゃあ、やめちゃうの? 小鳩亭なくしちゃうの?」
「ここでやり直すってことは、店を建てている間はお給料の約束ができない。その間のふたりの生活を保障することもできないし、基盤がないってことはそれだけ不安定ってことだから。店主としては、簡単に答えられない」
「なんでよ。あたし、カナタさんなら意地でもお店やり直すと思ってたのに! あんなに頑張って、料理も広めて、お客さんも来てくれるようになったんだよ? 小鳩亭だからだったんだよ?」
ケットが店をとても気に入っているのだと、言葉の端々から伝わってくる。
料理を教え始めたころの厨房、お客が来てくれたときの受付、料理を褒めてくれるたくさんの声。勝手に脳裏にそんなものたちがひっきりなしに過っては消えていく。
「……うん、そうだね。でもね、ケット。わたしはずっとあの店をできるわけじゃないんだ」
「なにそれっ! そんなの――、ぐっ……」
かなたは、魔王だから。
だから、生涯宿屋の店主を務めることはできない。せめてココやケットたちが店を持てるくらいの時間は、と思っていたから。
事情は説明できず、言葉を濁すしかないかなたを見下ろしてケットが声を荒げた、のに。
ケットはぎゅっとお腹を抱えて、力なくしゃがみ込んだ。
真っ青な顔。痛そうに歪められ、汗をかいている。
「ケット?」
……きもちわるぃ、と口に手をあてて声を絞り出したのに、かなたは慌てて膝をつく。うええっとその場で嘔吐する背を抱え、ふらつく体を支えた。
「え!? ケ、ケット! ケット!」
「お嬢様、おさがりください」
背中をさすりながら呼ぶけれど、ゴホゴホとむせるだけで返事はない。咄嗟にココも駆け寄り、サザレアも椅子を揺らせた。
イルディークがかなたの肩に手を置いて制したけれど、その言葉だってかなたには入ってこない。
「……なんで? 火事のとき、どこか怪我でも」
たしかに、顔色が悪かった。
気づかなかったが、ツェーの炎が飛んでいたのだろうか。それとも、煙を吸いすぎた? 慣れない魔力に酔った可能性もある。
次々と浮かび上がる原因に、かなたが顔を蒼くさせた。どうしてもっと早く休ませなかったんだ。様子がおかしいことに、気づいたのに。
「カナタ様」
強く呼ばれ、はっとかなたは顔を上げる。
すぐそこから、水色の強い瞳がまっすぐと注がれた。
「大丈夫です、お任せください。私が処置をしますから、エーデを呼んでください。できますね?」
言い聞かせるような声に、かなたは息をつく。落ち着きを取り戻して大きくうなずいた。
「うん」
「イルさん、俺のとこ使って。カナタ、行くぞ」
かなたをひとりにはできない。暗黙の了解はこんなときにも有効で、すかさずダイナが店の扉を押し開く。うなずいてかなたはダイナに並ぶと、急いで町へと飛び出した。
大丈夫。イルディークがいる。だからケットは、大丈夫。
言い聞かせて駆ける時間が、途方もなく長く感じられた。
耳がよく、気配を読むことに優れている彼は、かなたたちが来たこともわかっていたのだろう。
黄金畑にかなたが駆け込むと、真っ先にエーデと目が合った。リュートの弦にかけた指をとめて、丸椅子から立ち上がる。
「どうしたの」
エーデの顔を見たら、膝から崩れそうになってしまった。
かなたは叱咤して口を開く。
「ケ、ケットが倒れて」
「うん、わかった。行くよ」
大丈夫。笑うエーデを見て、ようやくかなたの肩の力が抜けた。
今日はこれまで。酒場の店主に手を振ったエーデは、あっさりと店を出た。すぐ横の路地に入って、人目がないことを確認するとダイナがかなたたちの手を取った。ぐっと胃が浮く感じがしたと思ったら、目の前は碧の泉の裏手。
エーデが早足で店へ入っていった。それにかなたたちも続く。
まっすぐとダイナの部屋に向かったエーデは、枕元に腰かけたイルディークが目に入ると、大げさなくらい目を見開いた。
「イル。どうしちゃったの、きみが力を使うなんて」
ケットの鳩尾に手を当てていたイルディークは、めずらしく唖然とした顔をさらした医者に、嫌そうに眉を寄せる。ゆっくりと手を離して椅子を明け渡した。
「そんなことはどうでもいい。さっさとしろ」
「はいはい。任されました」
病人を前に言い合うのも野暮。そう思ったのか、あっさりとエーデはうなずいてケットに向き合った。
それじゃあ、ちょっと見せてね~。いつもの軽い口調のまま、聴診器なんて取り出した彼に、ココとトリトリートがぎょっとする。そういえば、彼が医者だなんてことは、言っていなかったかもしれないなあ。かなたはふたりの視線を感じて苦笑するしかなかった。
足元に置いた黒い鞄からひととおりの器材を取り出して、診察を終えたエーデはふうと息を吐きだした。
彼は見守る視線を受けながら、扉の前に立ち尽くしているかなたを振り返って笑う。
「うん、これは食あたりだね」
「食あたり」
エーデの下した診断に、かなたは目を丸くした。
火事、ぜんぜん関係ない。
魔力も魔術も関係なかった。
いや、いいんだ。大丈夫なら原因がなんでもよかった。ああ、本当によかった。どっと力が抜けたかなたを、イルディークがそっと支えた。
それにしても、食あたりか。
なにか悪い食材を使ってしまっただろうか。見回しても、ケット以外が体調をくずしている様子はない。
すると、サザレアがにやにやしていることに気づいた。彼女はかなたと目が合うと、いっそうその笑みを濃くして、気まり悪く目をそらしているケットに視線を戻した。
「……ケット。あんた、ブブルを食べたんでしょ」
「な、なんのこと?」
びくっと肩が震えて、ケットの声が見事に裏返った。
「厨房に真ん丸いカラが残っていたよ?」
ブブル。あの樹香の町でケットがたいそう気に入った果実だ。
中身が腐ってもわかりづらく、食あたりの原因になりやすいとたしかに聞いた。だから、買うのは止めたはずだけれど。
どうやらケットは周りの目を盗んで買っていたらしい。
サザレアの確信に満ちた言葉に、手詰まりだとようやくケットも認めた。唇をとがらせて肩をすくめる。
「だって、おいしかったんだもの」
「樹香から出発して十日も経ってるじゃないの。そりゃあ、あんた具合も悪くなるわよ」
ぶうとふて腐れた顔をしたけれど、果実の腐敗を身を持って体感してしまったのだから言い返せない。
ケットは上目に周りを見渡して、かなたの横にたたずんだイルディークで目をとめた。
なにかを迷うように二度ほど言葉を飲みこんだが、ぎゅっと布団を握って、意を決した様子で口を開く。
「イルディークさん、ありがとう。それと、ごめんなさい。本当は使っちゃいけなかったんでしょ?」
ちらちらとイルディークの白い手を見るケット。ついさっきまで、ケットの腹部にあてられていた冷たい手だ。
それだけで、イルディークもケットの言いたいことを察したらしい。おもむろに自身の手をながめた。
彼は、魔族のなかでも数少ない、治癒能力を持つ魔族だった。手のひらから魔力をとおして患部を見つけ、痛みを和らげたり癒したりできる。相手の状態によって完治できるか痛み止めになるのか、できることは変化するが、魔王の側近としてその力は最大限に活かされていた。
今まで、イルディークはかなたにしか使ったことがなかった。かなたにしか興味がないのもそうだが、稀有な力はイルディーク本人の消耗も激しい。むやみに使うものではない。
白い手から目を上げ、イルディークはケットを振り返った。
「これは、私が使いたいときに使う。そう決めていただけだ。だからケットが気にすることではない」
かなたは、彼の言葉に大きく目を見開いた。
そして胸がいっぱいになる。あの、イルディークが。魔王のことしか頭になかったのは言うまでもないが、あの月が見せた過去で、人間を憎しみ恨んでいた。その彼が、人間であるケットのことを救った。救うために力を使った。これがどれほど大きなことか、彼はわかっているんだろうか。
ぎゅっと唇をかみしめたかなたには気づかずに、ケットはベッドの上で首をかしげる。そういうもんなのか。つぶやいて、それからへらりと笑った。
「カナタさんたちも。隠してたのに、ごめん」
「ケット、気づいてたの?」
目を見開いたかなたに、ケットは今度は唇をとがらせる。
「……あたしは気づかなかったの! ココが気づいてて、それを無理やり聞き出したの」
ぶーぶー。不満げに言うケットにココも苦笑気味だ。かなたたちの視線を受けて、少し気まずげに頬をかく。
トリトリートだけまったく意味がわかっていないため、かなたはふうとひと息ついてからにっこり笑った。
「わたしたちね、じつは魔族で」
「ええっ!?」
「……トリトリートの反応は本当気持ちがいいなあ。魔族も魔族だけの町があるけれど、そこに閉じこもっているのはよくないから、外に出て生活するお試し期間をやっててね。その一環でわたしたちも小鳩亭を始めたんだけど」
ここまできたら、種明かししよう。
さらっと言えば驚きを顔いっぱいにのせたトリトリートがいろんな人の顔を代わる代わる見比べた。
「カ、カナタも、魔族なの?」
「うん。というか、ココとケットとトリトリート以外みんなそうだよ」
「ええっ!」
「それで、一応わたしが魔王なので。冒険者になった魔族とかみんな、報告がてら店に泊まってくれていたってわけです」
「ええええ!!」
トリトリートの声にケットの声がかぶさった。ココまでぽかんとした顔でかなたを見ている。
さすがのココも、魔王だとは思っていなかったのだろう。まあ、そりゃあそうだなあ。魔王ってまがまがしいイメージだが、かなたは一見普通の少女である。
あーあ、言っちゃった。エーデのおもしろそうな声に、ダイナもサザレアもそろって肩をすくめた。まさか、こんなふうにカミングアウトするとは誰も思っていなかっただろう。
ベッドにいるケットはそんな周りの反応を見て、慌てて口を開いた。
「カナタさん、みんなが魔族だってあたしもココも気にしないよ! 誰にも言わないって約束する。だから、お店やってよ。あたし、あの店大好きなんだよ」
必死に言葉を向けるケットは今にもベッドから降りてしまいそうだ。
かなわないなあ。こういうときに、かなたは思う。
ケットのまっすぐさには、さすがのかなたも煙に巻くことができないのである。大きく息をついて、降参と手を上げてみせた。
「ケット、さっきは言いかたが悪かったね。ごめん」
きょとんと目を丸めたケットに笑い、そうだなあと考えながら先を続ける。
「店自体は、やるよ。わたしたちが魔族だってことは、ここにいるみんなに知られている分には別にかまわないんだけど。ただね、これを機に方向転換もいいかなって思って」
「方向転換?」
声に出したのはエーデに布団をかけ直されているケットだったが、そろいもそろってみんな不思議そうにかなたを見つめた。
かなたはココとケットを順に見る。
「ふたりとも。迷いの森で、働いてみない?」
なんてことないようにさらりと紡がれた言葉に、一瞬の間があく。
かなたは、かなただ。こんな状態だって、爆弾を投下することにためらいはなかった。
さすがの魔族組だって、予想ができなかったのだろう。
えええええ!?
それぞれの驚きに染まった顔ににんまりして、かなたはすまし顔で首をかしげた。




