(閑話)不躾な声
「……おい、緑陰に行ったって本当かよ」
エーデが黄金畑にやってくると、店の入り口近くで不躾に呼び止められた。
気配でわかっていたものの、壁に背を預けて待ち構えていた冒険者にエーデはため息をついてみせる。
「だったらどうだっていうの」
わざと口の端を上げて応じれば、相手は隠しもせずに眉を寄せた。
壁から背をはなして、ウェールズがエーデを睨む。
「ふざけるなよ。おまえがよかれと思ったことで、カナタが傷つくってわかんねーのか」
一歩、詰められた距離。
ふたりの間には、手を伸ばせば届く距離しかない。こんなふうに向き合うことは滅多になく、言葉を交わすのは何年ぶりだろう。ちらりとそんなことがエーデの脳裏をよぎったが、それも一瞬で消え失せる。
黙って紅蓮の瞳を見つめ返すと、彼は怒りをたたえて先を続けた。
「おまえが罵声を浴びるのを見せてまで、教えるようなことかよ。いくらでもほかに方法はあっただろ。口があるんだから言葉でも伝わる。それなのに、おまえが犠牲になってみせて、それでカナタが喜ぶと思ったのかよ」
嫌悪を隠しもしないで吐き捨てられていく言葉たち。黙ったまま表情も浮かべずにたたずむエーデに、彼は容赦する気もなかった。
「いっつもおまえはそうだ。へらへらして腹の内を見せねえくせに、簡単に自分を落とす。見ているほうがいらつく」
「そんなに嫌なら見なきゃいいじゃない」
ようやく口を開いたエーデは、ふうと息を吐くのと一緒にほんの少しの笑みをこぼした。もちろん、ウェールズが気づかないわけもなく、まして気にしないわけもない。ぴくりと眉を跳ねさせて、思い切り顔をしかめた。
「……おまえの派手頭は目立つから勝手に目に入ってくんだよっ」
「ああ、視野が狭いのに邪魔してゴメンネ」
あえてせせら笑ってやると、いっそう相手は声を荒げる。
「うるせーな! さっさとあっち行け」
呼び止めたのはそっちだろうに。
思ったけれど、また言い合いになるので鼻で笑うにとどめる。遠ざかっていく足音を聞きながら、エーデも酒場の扉に手をかけた。




