表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地平線と彼方  作者:
本編
50/68

(閑話)不躾な声

「……おい、緑陰に行ったって本当かよ」


 エーデが黄金畑にやってくると、店の入り口近くで不躾に呼び止められた。

 気配でわかっていたものの、壁に背を預けて待ち構えていた冒険者にエーデはため息をついてみせる。


「だったらどうだっていうの」


 わざと口の端を上げて応じれば、相手は隠しもせずに眉を寄せた。

 壁から背をはなして、ウェールズがエーデを睨む。


「ふざけるなよ。おまえがよかれと思ったことで、カナタが傷つくってわかんねーのか」


 一歩、詰められた距離。

 ふたりの間には、手を伸ばせば届く距離しかない。こんなふうに向き合うことは滅多になく、言葉を交わすのは何年ぶりだろう。ちらりとそんなことがエーデの脳裏をよぎったが、それも一瞬で消え失せる。

 黙って紅蓮の瞳を見つめ返すと、彼は怒りをたたえて先を続けた。


「おまえが罵声を浴びるのを見せてまで、教えるようなことかよ。いくらでもほかに方法はあっただろ。口があるんだから言葉でも伝わる。それなのに、おまえが犠牲になってみせて、それでカナタが喜ぶと思ったのかよ」


 嫌悪を隠しもしないで吐き捨てられていく言葉たち。黙ったまま表情も浮かべずにたたずむエーデに、彼は容赦する気もなかった。


「いっつもおまえはそうだ。へらへらして腹の内を見せねえくせに、簡単に自分を落とす。見ているほうがいらつく」

「そんなに嫌なら見なきゃいいじゃない」


 ようやく口を開いたエーデは、ふうと息を吐くのと一緒にほんの少しの笑みをこぼした。もちろん、ウェールズが気づかないわけもなく、まして気にしないわけもない。ぴくりと眉を跳ねさせて、思い切り顔をしかめた。


「……おまえの派手頭は目立つから勝手に目に入ってくんだよっ」

「ああ、視野が狭いのに邪魔してゴメンネ」


 あえてせせら笑ってやると、いっそう相手は声を荒げる。


「うるせーな! さっさとあっち行け」


 呼び止めたのはそっちだろうに。

 思ったけれど、また言い合いになるので鼻で笑うにとどめる。遠ざかっていく足音を聞きながら、エーデも酒場の扉に手をかけた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ