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地平線と彼方  作者:
本編
45/68

(閑話)一歩一歩前へ

「明日から、またよろしくお願いします」


 新月のこの日、小鳩亭のベルを鳴らしたのはココだった。定休日で閑散とした店には、かなたとイルディークしかいない。エーデは酒場に向かったあとだし、サザレアも町に出ている。

 食堂で手紙を広げていたかなたは、ひょっこり顔を出したココに思わず席を立った。


「どうだった? あっちは」

「勉強になりました」


 にこっと笑った彼は、なんだかひと回りかふた回り大きくなったんじゃないか。ここにいなかったのはふた月あまりだが、独特の落ち着きをまとっているように思えた。


「カナタさんたちとは違うから、口に出さなければ伝わりませんし、自分がどう動かないといけないかとか、今まで足りなかったところとか。表に出てくると焦りますね」

「それに気づいたなら、行った甲斐があったね。うん、よくがんばりました」


 小鳩亭ではかなたから教わる立場だったココ。彼が厨房を仕切るとはいっても、かなたやケットは言わなくてもココのやりたいこと、動いてほしいことが伝わる。しかし、場所が変ればそうもいかない。

 まして、碧の泉である。

 ダイナは仕事ができるくせに隙あらば長椅子で寝ようとするし、トリトリートは変に力が入りすぎて空回りだ。間に入って調整するのがココの役目だろう。

 ダイナはわざとそうしているだろうから、本当に手が足りないときは動き出す。問題はトリトリートだ。彼女が落ち着かない限りココの手は欠かせない。小鳩亭のように決まった時間にお客がくるわけでもないから、なにを優先してやるのか、誰がどう動くのか、トリトリートのなかで組み立てられるようになること。そして、なにより視野を広く取れる心の余裕がなければ。


 ふた月経って、ようやく要領を掴みはじめたように思えた。それなら、早々にダイナとふたりでの営業に慣れなくては。

 そんなこんなで、今回のココの小鳩亭復帰となった。

 トリトリートのためとは言いつつ、今回のココの派遣は本人も言ったとおり、ココのためでもある。

 かなたはずっと小鳩亭を続ける気はない。かといって、ココやケットを放り出す気もないから、彼らがどこででもやっていけるようになってほしかった。

 かなたたちの手がなくとも、小鳩亭を続けられるなんてことになるのが一番いいなあ、なんて思っているのはまだ内緒である。


「ところで、カナタさん。来月から店を休みにするって聞きました」


 今は月の初め。あと三週間ほどは先のことだけれど。

 かなたはうなずく。


「ああ、うん。まるっとひと月」

「えっ」

「みんなで出かけるから、開けられないでしょ。それにいくつか町を回るつもりだから、計画どおりになるとも思えないし。だったら急がないでゆっくりするのもいいかなあと思って。みんな、少ない休みでよく働いてくれたからね」


 正直に言うと、働きすぎである。日本だったら間違いなくブラックと言われてしまう。だって、月に休みが四日しかない。いくら日中が休みとはいえ、きちんとした休みがないのはよくない。常々思っていたが、誰も文句も言わずに働いてくれていて、そこにあまえてしまったのだった。

 旅行から帰ってきたら定休日も増やそう。せめてひと月に八日はないと。目指せ、ホワイト企業である。


「行きたい場所があったら教えてね。せっかくだからいろんな町に行ってみよう」


 旅行も休みも、みんなのご褒美になったらいいな。

 そう思いながら笑ったかなたに、ココもわかりましたとうなずく。楽しみにしていますと言ってもらえたので、俄然やる気になって旅行の計画を立てるかなたなのであった。


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