(閑話)魔王と医者の攻防
マンゴーがおいしいので、大量に仕入れるのはいいがどうやって消費していこうか。
もちろん、熟したものをそのまま食べるのがベスト。したたるあまい汁とくゆる濃厚な香りを思うだけで唾液がわいてきそうだ。
かなたは日本のスイーツやらファミレスでよくあったマンゴーフェアなどを思い浮かべた。
あのオレンジ色の鮮やかな果肉がパフェやケーキ、タルトにてんこ盛りにされていたり、プリンやゼリーに変身していたり。デパ地下にあったエクレアはおいしかった。さくふわっとした生地に生クリームにまみれたマンゴーがごろごろと挟まっていて。駅前のケーキ屋にあったプリンは絶品と聞きながらも食べる機会に恵まれなかったのだけれど。
思い出は置いておいても、意外と用途は多いように思う。さしあたり作れそうなものといえば――
「プリンか、頑張ってアイス。あとはドライマンゴーにしちゃうのもいいかなあ」
指折り数えてつぶやくかなたに、宿屋の新聞を広げていたエーデが片眉をあげた。
「なに、独り占めの算段?」
「……なんでそうなるんですか」
からかっているのはわかるのだけれど、もしそうならそうはさせないよ? の意味が含まれている気がするので侮ることはできない。邸で桃を食べているときも思ったが、この男はどうやら果物が好きらしい。この町にきて食べたマンゴーも、もちろん彼のお眼鏡にかなってしまった。
「カナタはしらっとした顔をして、意外と食べ物にがめついからねー」
「その言葉、まるっとエーデさんにお返しいたします」
にっこり。ふたりしていい笑顔を向け合って三秒。
どういう意味ー? すばやく飛んできた手がかなたの鼻頭をむぎゅっとつかもうとするのを、すんでのところでよける。思わずドヤ顔をした魔王に、医者は微笑みながら逆の手で瞬時にその頬をつまみあげた。
いたいたいたいいいー!
ぎゅっとされれば情けない悲鳴がこぼれ、その声に何事かと血相をかえて側近が駆け込んでくるまであと一秒。




