(閑話)部屋割りは公平に
「ふたり部屋かあ」
宿屋はそれほど大きな部屋が数あるわけではないらしい。日本のホテルというほど大きいわけでもないため、二人部屋が中心になっている。大きな部屋では宿泊客の人数によってベッドがあまってしまうこともあるから、店側の都合といえばそうだ。
それでも三人だったときにふたり部屋をふたつ使うのだから、すべてが望み通りにはならない。予備ベッドという概念もない。むしろ、そういう要望よりも、知らない人同士で相部屋にして割引を狙う客がいるのだそうだ。
日本では日常的ではないけれど、環境が違えばそういうことにもなるんだなあとかなたはこっそりと感心した。
それはともかくとして、かなたたち四人にはふたり部屋がふたつ用意されている。
部屋のカギを受け取って向かった扉を前につぶやくと、イルディークがかなたの背をそっと押してなかへとうながした。
「お疲れでしょう。荷物を置いておやすみください」
にっこりと笑ってかいがいしく世話を焼く彼を見上げて、同室が勝手に決まったことを察した。別にいいんだけど。イルディークのことが嫌いってわけでもないし。いいんだけど。だけど、勝手に決まっているのはおもしろくない。
これまでみっつの町を経由してこの【砂塵の町】までやってきた。そのときに泊まった宿でも、ふた部屋に分かれる場合は決まって彼がかなたと一夜を共にしている。だからいまさらと言えばいまさらな話だ。
じっと見上げたままのかなたにイルディークはきょとんと瞳をまたたかせた。いかがなさいましたか? と声はなくても言いたいことが表れている。廊下にまだアズもエーデも見えていることを確認するとかなたは微笑んで口を開いた。
「部屋割り、あみだくじで決めましょう」
そうしましょう。今まで勝手に決まっていたのだから、かなたもそうすることを勝手に決めた。ひとりでなっとくして鞄から紙とペンを引っ張り出す。妙な言葉にイルディークは戸惑ってかなたと廊下を見比べたのだけれど、エーデはなにか始めるのだろうと愉快そうに笑って部屋の扉をくぐった。それにアズも無表情ながらに続く。
「カナタ、あみだくじってなに」
ぴーっと四本の線を書き始めたかなたを見てエーデは遠慮なく椅子に腰かける。
「たまには同室をくじで決めてもおもしろいでしょ。好きな線を選んで、書いてあった番号が同じ人が今日一緒の部屋ってことで」
「魔王様っ」
「……イルディークさん減点」
納得がいかないとばかりに声を上げたイルディークに、かなたはじと目でばっさりと言い放つ。魔王様呼びは禁止されているのだ。容赦なく点数を引かれてイルディークがぐっとつまった。
そんな彼をしり目に、かなたは縦線の下に一と二をふたつずつ書くと紙を折って隠す。
腹を抱えて笑うエーデと傍らに控えたアズに順番にペンを待たせて横棒を足し、衝撃を受けた顔で固まっているイルディークをせっついてどうにかあみだくじを作りあげた。
「はい、じゃんけんしましょう。勝った人から好きな線を選んで、線をたどった先の番号が今晩の運命の数字です」
言うと、その場の空気がふっと変わった。
おもしろそうだと唇に弧を描く者、無言で組んでいた腕を解く者、瞳に熱を秘める者。
……そんな、くじびきにマジにならなくても。
結局のところ、なんだかんだで勝負事やら賭け事が好きなのだろう。若干一名は変態ポイントを加算しないといけない理由かもしれないが。まあ、たまにはこういうこともいい。
「それじゃあいくよー。――じゃーんけーんぽん!」




