第五話 花
「ただいまー」
「おかえりー」
未来が家へ帰ると、彼女の母、美紀は料理をしていた。
「お、もうご飯?」
「そう、今日は雅人さんが好きだったハンバーグ」
「そっか、きょう命日だもんね」
「そう・・・・あ、お花買ってきたから、お仏壇のお花と変えといてくれる?」
「うん、わかったー」
事件直後はショックで引きこもりがちだった美紀も、最近は普通の主婦と変わらない生活を送っている。
今では、夫である雅人が死んだあとも彼の弟、鈴谷大雅とともに、雅人のレストラン“月光”を受け継いでいる。
未来は、まだ花屋の紙につつまれた花をハサミで手入れして、花瓶に生ける。
「綺麗でしょ? 雅人さんが好きだった百合の花」
「へぇ・・・お父さんのこと意外としらないかも・・・」
「まだ未来は小さかったもの、仕方ないわ」
「そうだね、今日で十年だと思うと早いなぁ・・・」
「そうね」
未来がソファで10分ほど本を読んでいると、夕飯のハンバーグができた。
「ご飯できたわよー」
「はーい、」
ハンバーグは、雅人のレシピで作る。
今、二人が受け継いだレストランでも同じレシピだ。
作る人は変わっても、調味料やその分量は十年前から何も変わっていない。
そこに美紀は、アレンジでハート型にくりぬいたチーズをのせる。
余熱でちょうどよくとろけて、食欲をそそる。
「わぁー、美味しそう♪」
「ありがとう、それじゃ、食べよっか、」
「うん、」
「「いただきまーす」」
口に入れると、濃厚なデミグラスソースと肉の旨味が広がる。
「おいしい・・・・懐かしいね」
「雅人さんがいつも作ってくれたもの」
父の味。
未来は今もしっかりと覚えている。
母の美紀と楽しそうに二人で料理をしていたこともあった。
しっかりしているけれど、優しい・・・愛のある味。
「今もハンバーグ人気高いの?」
「もちろん!」
「大雅おじさん元気?」
「うん、私より若いし・・・」
「今、一緒に働いてるんでしょ? 結婚しちゃえば?」
「しません!! 私は一生雅人さんしか愛せないし愛さないもの」
「はいはい、30回は聞いた。」
二人は上手く仕事をこなしているようなので、未来は安心した。
そして、美紀から雅人への変わらぬ愛にも安心した。
「でも、大雅おじさんはいい人だよね、」
「そうね」
――お父さんはあんなに私もお母さんも愛してくれていたのに・・・
あんなに家族を愛してくれる、いい父親だった。
何も悪いこともしていないのに・・・なぜ自分の父親が・・・
なぜ自分だけが・・・
そんな思いが駆け巡る。
「お母さん」
「何?」
「なんでお父さん・・・殺されちゃったの?」
「・・・私にもわからない。 雅人さんは優しい人だった・・・」
未来は真剣だった。
そんな思いを感じ取ったのか、美紀は一度ナイフとフォークを置く。
「・・・じゃぁ、お父さんが死んだ時の状況はどんな感じだったの?」
「・・・」
話そうとするものの、彼女の中の、忘れてはいけないけれど、思い出したくない、
寂しい記憶・・・
「辛いのは、わかってる。 でも、ちゃんと知りたい」
「全てが本当ってわけじゃないけれど・・・警察の方の話しは聞いたわ」
「教えて・・・知りたい」
「・・・待って、心の準備をさせて」
「うん・・・」
美紀は未来から目をそらし数回深呼吸をした。
そして目をつぶる。
少し経つと、真剣な眼差しで未来を見つめる。
「十年前も今日みたいに11月だけれど、とても寒い日だったの・・・」




