第三十六話 美女
――1月2日 13時頃
昼食を食べ終え、なんとなく蒼真の部屋でテレビをみたり、まったりしていると、切り出してきた。
「おうち、帰りたい?」
「え…?」
彼はいつも唐突だ。
予測不能なタイミングで、未来はいつも考える暇もない。
「今日行くつもりなのは月光か未来ちゃんの家だから。美紀さんがいればどっちでもいい」
「……母を巻き込むんですか?」
どんどん家族が奪われて、一人になるような気がした。
父はともかく、原因はわからないけれども、母と蒼真はあまり仲が良くなかったと聞いていた。
それが寂しくて、でもどうしたらいいかわからなくて、きゅっと服をつかみ俯く。
「はぁーぁ、」
興味を失ったとでも言いたげに大きくわざとらしいため息をつく。
「あのさ、俺がここまで…10年かけてやってきたことはいったいなんなの……?」
震える声。
呆れたような口調。
「でもね、やっとわかったんだよ? 犯人、未来ちゃんの大好きなお父さんを殺したヤツ……」
そう言って一冊の手帳を取り出した。
未来は見たことがあるような気もするがよくあるデザインなので気には止めなかった。
「……」
しかし中の文字、12月のスケジュール欄を見て息を飲んだ。
――12月21日 古いアパート
錆び付いて崩れそうな外階段を王子様のような青年が登る。
一番奥まで廊下を歩いていき、表札を確認する。
「呉朱音」の文字を確認してからインターホンを押した。
「はーい……」
少し経ってから一人の女性が現れた。
茶髪の髪は緩く巻かれ、肩にかかっている。
40代だろうか、目の近くに小じわがあったりとなんとなく年齢を感じさせるのだが、この古ぼけたアパートには釣り合わない美しさだった。
「あの、えっと…どちら様でしょうか?」
女性にそう尋ねられ、少し悲しげな表情をしてから、
「蒼真…って言えばわかりますか?」
「……っ? 本当に!? 嘘じゃないのね!? 蒼真なのね!?」
最初は状況が理解できなかったのかきょとんとした表情をしていたが、やっと状況を飲み込むと蒼真の肩をつかみ揺さぶった。
「本当です、嘘じゃないです。あなたを見つけられて良かった。」
爽やかなほほ笑みを見せると女性は嬉しそうに抱き着き、
「私なんか探さなくて良かったのに……ごめんなさい、辛かったでしょう?」
「あなたが気にすることじゃありません、そのことも含めてお話にきました。」
「そう…じゃぁ中へどうぞ」
そう言って呉朱音は部屋の奥へ招き入れた。
「おじゃまします」
部屋の中はアパートの外見に比べればいくらか綺麗だった。
というよりかは、きっと外見に気を使っているだけあって、部屋もこまめに掃除し、インテリアも綺麗なものを揃えているようだ。
「お茶、淹れてくるからそこ座ってて」
そう言って彼女は紅茶を入れ始めた。
背中を向けコンロの前に立っている。
「ありがとうございます」
蒼真はテーブルの近くのソファに座ると
「敬語なんて……やめない? 私なんかが言えることじゃないけど」
「そうだね」
それしか返さなかった。
沈黙が流れるが彼女に気を使ってか蒼真は少し考えてから
「若いね」
「え? 私のこと?」
驚いたように振り返り自分を指差す。
「そうそう、だってもう40過ぎたでしょ? そんな風には見えない」
「……子育てっていう苦労をしなかったから…私は…」
消え入りそうに小さな声でそう言いながらまたそっぽを向いてしまった。
「充分苦労したじゃないか、――母さんは……」




