第三十二話 警察
――12月22日 夜
きゃぁああああああああっ!!
その悲鳴で目が覚めた。
体が重くて起き上がれないし、視界もぼやけている。
わかるのは自分がうつ伏せで倒れていることだけ。でも必死で指をなんとか動かす。
自分が生きていることを確認するかのように、なんとか声を振り絞る。
「ぅ……」
「小田君…!? 小田君よね!?」
少し揺さぶられて冷静になってきた。
(鈴谷が心配だからここにきて……インターホンを押して…)
彼は記憶をたどる。
「生きてるのね!? 大丈夫!?」
意識がだんだんと戻ってくると、彼は寒さを感じた。
どうやら雨が降ったらしく家の屋根から外れていた腕や足の一部が濡れていた。
「一応…救急車…」
悲鳴の主、美紀は焦って震える手で携帯のボタンを押す。
(あぁ、そうだ…訳の分からない男に捕まって…そこから意識がないんだ)
――12月23日 昼
大事をとってということで彼は病院に一日入院した。
スタンガンによって気絶させられて、ケガといっても倒れた時にうったのか痣がある程度だ。
昨夜は鈴谷家の周りにはパトカーのサイレンが鳴り響き、病院には翔の両親が慌ててやってきてと、大変騒がしい夜だった。
今日で退院のため、翔が帰宅の準備をしているときに二人の男が現れた。
「鈴谷未来さん行方不明事件を担当している山崎です。」
最初に名乗ったのは全体的にがっちりした感じの人。
体育の先生かのような雰囲気。
「同じく、松沢です。」
もう一人は山崎と比べるとすらっとしているように翔は感じた。
そして笑顔で明るく、自分に似た印象を受ける。
ぱっと見た感じは若いため、きっと後輩なのだろう。
「小田翔君だね? 公園での殺人事件の第一発見者って聞いているよ」
「はい」
翔がベッドに座ると、二人は近くのパイプ椅子に座り、松沢の方は手帳を開き筆記用具を持っていた。
「昨日のことについて、覚えている範囲で教えてくれないかな?」
まずは昨日、学校が終わった頃に鈴谷家へ行ってインターホンを押したところで、青年が現れたことを伝えた。
「先輩、ヤツと特徴、なかなか一致しますね」
松沢が手帳を見返しながら苦い表情で言う。
山崎も同じように相槌を返す。
「だなぁ……」
「ヤツ…とは誰の事なんですか?」
誰だって気になる。
そんなの当然だし、自分を殺しかけた犯人ならなおさらだ。
「君は犯人の顔を見ていないんだね?」
腕を組みながら渋い表情で言う山崎は少し威圧感がある。
そして視線で松沢に何か訴えると、それに応えるようにスーツの胸ポケットから一枚の写真を撮り出す。
「こんな人、見たことないかな?」
真っ黒で艶のある髪に泣きぼくろ。
まだ行方不明になる前、お見舞いに行った時に見たことのある顔。
「宮下……蒼真」
そんな名前だったはずだ。
忘れてはいないが自信もない。
「知ってるの?」
松沢は少し驚いた表情を見せる。
「えっと、鈴谷の家に行ったとき、彼女が『私のお父さんを殺した犯人かもしれない』って教えてくれました。昨日の犯人は顔を見ていないので、彼とは言い切れないですけど」
興味深そうにメモをとると、山崎が腰を上げた。
「貴重な時間をありがとう、また何かあったらよろしく頼むよ」
ニカっと笑って肩を叩いてくれたのは真面目で堅いイメージを抱いていたこちらとしても緊張がほぐれ良かったのだが、彼の太い腕らしい強い力だった。
「ありがとうございました」
二人は一礼して部屋を出て行った。
「あー、緊張した」
外には聞こえないくらいの声で呟くと伸びをして、また帰宅準備をした。
肩がジンジンと、まだ痺れていた。
――同時刻 病院の廊下
「先輩の予想通りじゃないですか」
「10年前の事件も担当しているからな、宮下本人も取り調べしたことがある。」
看護師や医者が忙しそうに行ったり来たり。
患者さんがゆっくりと散歩なのか行ったり来たり。
二人は聞き込みを終えて、推理をすすめる。
「へぇー、どんな感じなんですか? 見た感じいい顔立ちなんで気になってるんですよ。僕と年齢も近いですし」
「……一言で言うと奇妙なやつだな」
松沢は少し意外だった。
爽やかな顔立ちなのに奇妙とは、なんだかあっていない感じがするのだ。
「奇妙? どういうことですか」
「会ってみればわかる。というか、会ってみないときっとわからん。そういうところが奇妙なんだ。」
「はいはい、宮下蒼真を捕まえろってことですね、いい加減遠まわしじゃなくわかるように言ってくださいよ。」
こうして、本格的に宮下蒼真がマークされ、警察は血眼になって彼を探し始めた。
その深刻さに犯人は気づけるのだろうか……?




