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銀色と月  作者: 藍乃*
Ⅲ Crescent moon
32/37

第三十一話 出口

――12月30日 コンクリート部屋


蒼真が未来の手を握り続けて数十秒。

なんだか恥ずかしくなってきて、未来から切り出した。


「あの……」

「ん? なぁに?」


いつもの…というよりは、昔の。

彼が働いていて、一緒に遊んでもらっていたあの時…断片的にしかもう残っていない、記憶の中の青年と、同じ目をしていた。


「この前、“蒼真さんを恨んでいる人が犯人”って言ってたけど……具体的には、わかってるの?」

「いい質問だねー…」


未来の手を離し、手帳を取り出すとビリっと一枚引き裂いた。

その紙に何やら書き始める。


「こいつと、あいつとー…んー…」


覗き込んでみると、人の名前だった。

しかも苗字だけでなくフルネームで、職業や年齢まで書き足す。


「こんな感じ?」


紙をテーブルの上に置く。

書かれている名前は三人分。

全員名前だけを見る限りは男だが、一人はバツで消されている。ということは、あの公園の男性はこの人なのだろうか?

そしてその三人の上にある空欄。


「ここは…?」

「あー、まだわかんないんだよね、仮説はいくらかあるんだけど……」


苦笑いを浮かべてみせる。


「じゃぁ、もうふたりは?」

「会う価値もないね。無駄に動いたらすぐに見つかる。警察は今、必死だからね」

「ふーん…」

「で、主犯見つけて、警察にそいつ連れてって、そしたら嫌でもほかのふたりはあぶり出される……俺がしたいのは“殺し”じゃなくて“復讐”だよ」

「そうだよね、むやみに殺すのはね……」


とは言いつつも隣にいるのは殺人犯である。

“父を殺した容疑”は未来の中で薄まっているけれども、公園での出来事。あの男性が殺されるところは見ているし、口癖は“従わなければ殺す”だ。従えばそれなりの対応はしてもらえるのだから、本当の、闇と悪で隠れた心の奥底は優しいのではないか? そんな風にも読み取れる。


「さーて、怖いお話はやめて、朝ごはん食べますかぁー」


蒼真が立ち上がり「んー」と言いながら伸びをする。

こういう姿をみると、やっぱり普通の若い男の人の印象を受ける。



――数分後 蒼真の部屋


「今日はフレンチトーストー!」


彼はよっぽど料理が好きらしく、料理中はいつもニコニコしている。

こんなふうに明るい人が作る料理はやっぱり美味しいと未来も思っているが、彼に関してはまだ謎が多い。


「どーぞ、」

「ありがとう、いただきます」


甘くて美味しかった。

なんとなく父の味に似ているような感じもして、彼の料理は好きだ。

警察に見つからないようにひっそりと建っているこのコンクリートの館なのに、何故か料理だけは充実している。

きっと彼の気配がないときは、ここから出て買い物などしているのかもしれないが。

しかし何よりも気になるのは“出口”だった。

未来が知る限り、ここには部屋が三つある。

まず最初に目が覚めた時の、未来が監禁されている部屋。そこにはテレビと簡単なテーブルとソファのセットと、ベッドなどがある。

今いる蒼真の部屋は未来の部屋より広い。ベッドがありテレビはないが、ガスコンロ、小さめの冷蔵庫など簡易的だがキッチンがある。そして、お風呂などのある部屋にもつながっている。

そしてもう一つ、ドアがある。衣服を取りに行くために部屋を出たときは目隠しをして目隠しをとったのは車の前だったからわからない。

彼女は出口だと思ってはいるのだが、彼は彼女を部屋に入れる時以外は基本的に内側から鍵をかけ、未来は自分の部屋にしかいることができない。

つまり、彼がいない間を狙うことは不可能。

そもそもそこが出口だったところで、彼女の脱出したいという気持ちが麻痺していたら関係のないことなのだけれど。


「さてと、食べてるとこ悪いけど、また次の計画をはなさなくちゃね」

「はい…」

「なんで今更悲しい表情になるのさ、俺も未来ちゃんも、もう立派な犯罪者なんだから」


そう言うと一枚の紙が置かれた。

この先のスケジュールがまとめてある。


「年が明けたらすぐに俺が主犯って睨んでる人物に会おうと思うんだ」

「……」

「未来ちゃんも来てもらうから、関係のある人だし」

「……関係がある?」

「そう、まだ秘密だよ、気になるならこの先も俺の下でおとなしくしててよ」


ケラケラ笑う。

たまに見せる隙や、共感できたりすると優しい面影を思い出すのに、こうしているとやっぱり異常だとしか思えない。


「そこで警察とテレビ局を集めて世間に知らしめてやるんだ、真犯人は誰か、そしてこの事件の真相を……」


いつも逃げたいとは思わなくなってきていて、かなり彼のペースに流されていることはわかっている。

彼の“異常”を恐怖として感じ取り、逆らいたいとも思っている。

しかし彼女の好奇心がそれの邪魔をする。

10年ずっと霧に包まれていた謎が、あと少しで自分のものにできる、その時までは……

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