第二十七話 教会
――12月22日
結局昨日眠らなかった分泣いて疲れて未来はいつの間にか寝てしまっていたらしく、目が覚めたときはまだ蒼真の部屋のソファで毛布がかけられていた。
起き上がると反対側のソファでパンを食べながら何か考えている蒼真が見えた。
「あ、起きた?」
「はい…」
「急に泣くからびっくりした」
クスッと笑うとまた紙に目を移してしまう。
覗き込むとまだ作戦について考えているらしい。
あの後なんとか泣きながらも図を書いたところまでは覚えているのだけれど、すぐに寝てしまったのだろうか?
「美紀さんのいない時間は知ってる?」
「いつもは私がいるので早く帰ってくるときもあるけど…今は私がここなので夜まで残ってると思います」
「そっか、でも用心して暗くなったらすぐ出ようかな」
蒼真は腕時計をちらりと見る。
そうすると未来にも時計を見せて
「今は四時、冬だから日が落ちるのは早い。ここを六時くらいには出たいと思ってる」
「はい」
「ねぇ未来ちゃん」
一度ペンを置いて改まったように見つめる。
未来の方は何か悪いことをしたのかと少し焦っているのだけれど、
彼が良かれと思ってやっていることは空回りしていることが多い。
「なんですか?」
「絶対に逃げない? 俺と協力して、鈴谷さんを殺した犯人への復讐…してくれる?」
ずっと彼は言ってくれなかった“私をここに連れてきた理由”それは未来がここ最近にたてた目標とかなり近い…いや同じものだ。
だったら、怖くて一度もしようとは思わなかったけれど逃亡する意味も、彼に怯える意味も、変える意味も…全て無くなった。
ここにいれば彼女の目標は成し遂げられるかもしれない。
こんなに強力な人が仲間なら、なおさら。
「私、ここに連れてこられてすぐの時、あなたのこと犯人だって言いましたよね?」
「あったね、」
「それって私は犯人に復讐をするため調べていたりしたとき、あなたが犯人なんじゃないかっていう説が一番有力だったからで…もちろん、いまはそんなこと思ってません」
「うん」
「でも今わかったんです、私のしたいこととあなたのしたいこと、同じなんです。むしろ協力させてください。」
「良かった、でも一つ条件つけていいかな?」
「はい?」
「敬語は禁止、俺のことも名前で呼んでよ」
協力してくれるのだから拒否とまではいかないが、一応年上だしこの人に殺されかけたわけだし…ちょっと抵抗がある。
「蒼真…さん」
「ん、呼び捨てのほうがいいけど今はそれでもいいよ、まぁ俺もちゃん付けだしねぇ」
そう言うと残りのパンを口に一気に頬張り、お皿をシンクで水につけてリュックのようなカバンに荷物を詰め始めた。
「お母さんに見つかったら、どうするの?」
「殺したくないな、俺が殺すのは鈴谷さんを殺した人か、俺の言うことを聞かないで計画の邪魔をする人…」
「蒼真さんに従うなら殺さないってこと?」
「そうだね、未来ちゃんだっていくら母親だとしても計画邪魔されたくないでしょ?」
「はい…」
クスッと笑うと黒い革製のジャケットを羽織る。元々スタイルも顔もいいのでこのまま雑誌の表紙も飾れそうな雰囲気をまとっている。
そしてポケットに入った拳銃を取り出すとそっと撫でた。
蛍光灯の光に当たり、無機質な輝きを放っている。
「でも、蒼真さん捕まったりしない?」
「どうだろうね…もし捕まったらそれは神様が俺に“もうやめなさい”って言っている証拠。ってこんなことしてる時点から神様から見放されてるかもしれないけど」
「…神様?」
「うん、別にキリシタンじゃないけど小さい頃は教会で育ったからね」
「教会……」
「そ、俺は捨てられた子だから。でも別に親を恨んだりなんかしてないよ」
拳銃をまたポケットにしまうと、楽しそうに微笑んで、
「俺の“父親”を殺した奴らの死に際、どんな顔すると思う?」




