第二十六話 子犬
――12月22日 朝 学校
翔が教室に入るとざわついていたのが少し増した気がした。
もちろん話題は“女子高校生行方不明事件”だ。
元々孤独を好むような人は本を呼んだり自由なことをしているが、群れるのが好きな女子グループはきっと未来について話している。
『小田君結構落ち込んでるんじゃないかな?』
『えー? どうして?』
『だって、前までカップルのように仲良かったじゃん?』
何も聞こえないふりをして席についたし、本人たちもひそひそ話しているつもりだろうが、翔には全部聞こえていた。
そして言ってることなかなかあってるな、とも思った。
昨日は色々起こりすぎて、ショックも大きくて何度も何度も目が覚め、十分な睡眠が取れなかった。
毎回毎回、夢の中であの男性の死体が思い浮かんで…それが終わると思うと、未来が自分に向かって『助けて』と叫ぶのだ。
そして自分の無力さを知る。
朝のホームルームでも担任は未来のことについて軽く触れていたが、ほぼ聞き流した。
今は、無になりたい…
いつもはおもしろかった授業もつまらない。と、彼はほとんどを寝て過ごした。
元々騒いだりとか周りの人に迷惑をかけるような生徒は注意するが、寝ている人や静かに好きなことをしているような生徒は放っておくような感じの雰囲気。
休み時間はなんだかいつもより女子が話しかけてきた。
急になんだと驚いたが彼に理由はわからなかった。
――同日 昼休み
「今日はモテモテだったじゃない」
「……どういうこと? ていうかお前こそ三人ならともかく、俺と二人きりって彼氏いるのにいいのかよ」
結は女子力の高そうなお弁当を食べ、翔は購買で買ってきたパンを食べる。
今日はコロッケパンだ。
「…わかれた」
「え?」
「フラレたの、告ったのはあっちなのにさ…」
「あぁ、そう…」
お互い少し気まずい雰囲気で二口程食べたくらいで、翔が切り出した。
「で、モテモテってなに?」
「んー?」
結は周りをキョロキョロ見渡してからちょっと身を乗り出し、小声で話し始めた。
「いつもは未来がいて、あんたに近寄れない女子が狙ってるんだよ」
「は?」
コロッケパンを加えながらきょとんと首をかしげる翔。
それを見て呆れたように
「あんたほんっっと鈍感」
『わざわざ言ってあげてるのに』というオーラをまといながら結は黙々とお弁当を食べる。
結のお弁当箱の黄色で映える卵焼きとたこさんにはされていないけれど、ウィンナーをみて未来と二人で食べた昼休みを思い出した。
ふと窓の外を見ると、やっぱり空は澄んでいた。
「なによ、人の弁当まじまじとみたと思ったら空見たりなんかして、変なの」
「……鈴谷の弁当の方がうまそう」
「うるさいっ」
『うるさい』は、まるで聞こえていないかのようだった。
「…なにその捨てられた子犬みたいな顔」
まさに、上の空という感じでコロッケパンを食べる。
しかしがっつくわけではなく、ちびちびと。
「そんなに未来いなくてさみしいの?」
「寂しいっていうか…わかんね、」
それから先は捨てられた子犬がすねているようにみえて、話しかけずにほうっておくことにした。




