第二十五話 悩み
――12月22日 コンクリート部屋
「んー…」
食べきったオムレツのお皿を片付け、なにも無くなったテーブルの上にノートの切れ端を置き、彼はペン回しをしながら考え込む。
向かい合ってある一見高級そうでもふるぼけ中古感を出しているソファの片方に隣り合って座る。
最初は監禁されていて、だんだん緊張はほどかれていく。
今も監禁状態は続いているがこんなに距離は縮まるものなのだろうか?
「私の家に入って必要なものをとってくるってことですか?」
「うん、今まで未来ちゃんまともに食事摂ってなかったから歯ブラシもないでしょ?それに俺の計画はまだ終わってない。まだ未来ちゃんにはここにいてもらうことになる」
「……」
「それなのにずっと制服のままってのも可愛そうだし…俺はそこらへんのドラマの犯人とは違う。『利用する』じゃなくて『協力してもらう』だから」
「何に協力すればいいんでしょうか?」
「んー…まだ詳しくは言えないけど、鈴谷さんのことだから君が損をすることはない」
そうは言われても未来の心配は消えない。
こんな場所まで本当に警察の人は自分が生きているうちに探し出してくれるのだろうか?
また蒼真の性格が、がらりと変わって殺されるんじゃないかとか……
もしここから生きて出てきたとしても、おばあさんになってたり、
高校生のうちに開放されても勉強等そのあとの生活についていけるのか…
でも彼女が一番心配しているのは……
「ねぇー、聞いてる?」
「あっ、はい!?」
蒼真に呼ばれてふと我に帰ると、さっきまで真っ白だった切れ端には何か色々書かれ始めている。
「んー、まぁテレビを見ればわかることだから言うけどここは未来ちゃんの家からそんなに遠くない。でもここがどこかはまだ言えないなぁー」
悩みながらもどんどん書いていく。
なにやら作戦らしい。
が、うまくいかないらしくほとんど×印で消されている。
「ということは未来ちゃんを連れてくなら、少なくともまた縛って目隠しだね」
平然と言い放つ。
「えぇっ!?」
「だってそうじゃなきゃこの先服どころか下着も変えられないか、俺のを着ることになるんだよ?」
「ですね…」
「今はね、買いに行くか未来ちゃんの家に行くかで迷ってるんだよ」
紙には『買う』『家に行く』と書かれている。
「買いに行くってなったら俺一人で行くんだけど、女の子の衣類買うのにはやっぱり抵抗あるからねー…女性家族もいなかったし」
腕組しながら苦笑いする蒼真。
20代後半の男性が10代女子の服を買うなんて、小さいサイズなら父親がプレゼントか何かで買うかもしれないが、高校生サイズを買うのは変態に近い。
「だから家に入ってとってきてもらうしかないな」
『買う』に×をつけ、また×印が増える。
もちろん買いに行かせるのは悪いとも思っていたのだが、また縛られて暗闇の恐怖も、もう味わいたくない。
「まぁ、まずは未来ちゃんの家の間取りだね、ちょっと書いてくれない?」
「あ、はい…」
そう言われて、物件のチラシのような図を書く。
書いてるうちになんだかホームシックのような気持ちになってきた。
もう一度家に帰って、母と二人…いや、家族三人でまた幸せに暮らしたい……
一階のリビングを書くくらいになったとき、未来の心は耐え切れなくなって、彼女の頬を涙がぽろぽろと伝っていく。
「…未来ちゃんっ!?」
蒼真は驚いてあたふたしている。
が、なぜ未来が泣いているのかはわからないようだった。
でも彼女も『家に帰りたい』と言ったら今度こそ本気で殺されるんじゃないかと思い、ただただ泣くだけ。
「どうしたの?」
「ぅ…っ…」
彼の変わっていく性格と一緒に流れていっていた悩みが全部帰ってきたような感じ。
急に連れてこられたこの状況で何もわからなくて、呆然としているうちに過ぎていった数日。
なんとなく慣れてきて、状況が理解できるようになると一気に不安が襲いかかる。
状況と一緒に不安や心配も飲み込んでしまったようだ。
蒼真は紙を見てなんとなく察したのか
「怖いよな、早く帰りたいよね…」
そっと頭をなでて、涙を拭いてあげる。
でもそんな彼女のいちばんの不安は、
恐れていながら、早く開放されたいと思いながらも蒼真のことを放っておけないような気がすることだ。




