第二十四話 純粋
――12月22日 朝 コンクリートの部屋
「そんなに俺の部屋に入るの嫌? 男の人の部屋って抵抗あるの?」
「いや、そういうわけじゃ…」
「じゃぁ入るーっ」
半分無理やりに未来を引っ張ってきて、ソファに座らせる。
ぱっと見た感じの雰囲気は未来のいた場所と変わらない。
窓はなく、コンクリートに囲まれていてテーブルと向かい合うようにソファがある。
ただ決定的に違うのはこっちにはテレビがないことと、向こうにはないキッチンがあること。
「まぁこういう状況だから豪華なものは作れないけど」
「なんでも食べれれば…」
冷蔵庫から材料を取り出して、手際よく作る姿。
レストランで働いてるだけあるなー…と未来は感心しつつ、彼を見るために通う女性客の気持ちもなんとなくわかるような気がした。
そして蒼真はとても楽しそうだったし、かなり集中しているようなので、未来は部屋の色々なものを見ておくことにした。
まず目に付いたのはベッドだった。
ここにあるということは、きっと彼も毎日とまではわからないが寝泊りしているらしい。近くにカバンが置いてあり、生活必需品等あるのかもしれない。
それ以外は得に変わったところはなかった。
「はいできましたー、オムレツ」
真っ黄色でふわふわなプレーンオムレツを向かい合うようにして自分と未来に置いた。
「ありがとうございます…」
「そんな警戒しなくていいって、未来ちゃん殺す気ないし…って言ってもまだ拳銃とか護身用に持ってるんだけど」
「それって銃刀法違反じゃ…?」
「まぁ誘拐してるんだし、銃刀法違反なんか受けたってどうってことない」
くすっと笑う。
いつものただ不気味な楽しさをもった笑いじゃなくて純粋に笑っていた。
まるであの写真のように、おとぎ話の王子様のように。
「いただきます」
「どうぞー」
スプーンですくうと、ふわふわの卵。
口に入れるとまるで溶けるかのように柔らかい。
その美味しさに思わず笑顔になる。
「あ、やっと笑ってくれた」
「え……?」
「こんな環境で笑えって言うのも無理な話だけどさ、俺がずっと笑顔絶やさなかったのも未来ちゃんが笑顔になるようにって思ってなんだけど」
「逆に怖かったですよ?」
「え?ごめん」
まるで犯罪者とその被害者のような空気ではなく、家族の爽やかな朝の朝食のようだった。
蛍光灯の光しかない、こんな暗い空間なのに…
蒼真はさっさと食べて食器を片付けてどこかへいなくなっても、未来はゆっくりオムレツを食べていた。
同じ場所で働いていたからか、なんとなく父の味に近いような懐かしいような気がして、ゆっくりとゆっくりと味わいたかった。
「よいしょっ」
蒼真は何やら未来のそばに置いた。
「ん…?」
「お風呂、入りたいでしょ?」
クスッと微笑んでおいたのはバスタオルや洗面器や石鹸など…入浴に必要なもの一式。
「あ、でも未来ちゃん着替えがないのかー…」
「……」
未来は自分の服装を改めて見る。
手錠を外された時にブレザーを脱いだが、いまだに高校の制服。
「やっぱり危険を犯してでも買い物行かなきゃかな? 冷蔵庫の食料も少ないし…」
腕を組み考え込む。
蒼真が警察に見つかれば、未来に関して重要参考人として連れて行かれる可能性大。
未来が見つかれば、ここまで蒼真がしてきたことは水の泡。
「よし、いいこと考えた」
ふっと思いついたように顔を上げ、もう一度未来と向かい合うように座る。
そして、ニッコリと
「未来ちゃんの家に行って取りに行けばいいんだっ」
もう彼の笑顔から怪しさはない。




