第二十三話 嫉妬
――12月21日 夜
二人を見送った後に、一人でティーカップの破片を拾い集める。
彼女にとっては、記憶を拾い集めるような感覚にも近かったし、パズルのピースを一つ一つを集めるようにも近かった。
拾い集める記憶は、蒼真のこと……
彼は施設で育ち、高校へも進学していた。
しかし、経済的な面など色々と問題が重なり成績上位を維持していた彼だったが、中退することになってしまう。
そうすると彼に残された将来は就職しかない。
仕事を探しながら彼の通っていたのが“月光”だった。
かなりの頻度で通っていたため、雅人と会話を交わすようになり、雅人も蒼真の事情を知るとすぐに彼を採用した。
蒼真はとても真面目だった。
一度も遅刻はなく、むしろ遅くまで残っている雅人に付き合って一緒に残るほどだ。
よく雅人が“そんなに頑張らなくてもいいんだよ”と言っても、“鈴谷さんにしてもらった恩はこれ以外では返せないですから”と毎回答えた。
その上容姿もよく、彼を目当てに来る女性客もちらほらと現れ始め……
未来とも毎日遊んでくれた。
でも美紀は彼を好まなかった。
最初は、嫌いと言えるほどではなかったが…
なんでも完璧に、真面目にこなす彼の周りには自然と人が集まっていった。
だからこそ、夫も娘も全て奪われていくような感覚がして…
自分でもこの感情は“嫉妬”の延長線上にあることを知っていたが、それ以上に恐怖だった。
そんな中起きたあの事件。
11月20日…
あの時から、ほんとうに彼の存在、宮下蒼真という人間を否定するようになる。
夫を奪われた悲しみ…
しかし何年も経つうちに、否定することにも疲れ記憶の隅に追いやって消そうとした。
何もかも、忘れようとして10年経った。
そして娘も彼に奪われたかもしれない…
怒りと憎しみが心を染める。
「……!」
床にたれた血で記憶をたどっていた意識から目を覚ました。
手を開くといつの間にかティーカップの破片を握りしめていたようだ。
「私…おかしいかな…」
苦笑いしながら救急箱から包帯を取り出して手に巻く。
最初はちょっと赤い血が滲んでいたけれど、不思議に痛みもひいていった。
最後に紅茶と血を拭き取ると二階の未来の部屋に向かう。
ひんやりとしたドアノブを引くと、窓からカーテン越しに月の光がもやもやと部屋を照らし、幻想的な雰囲気を創りだしていた。
まるでそれを見ろと言っているかのように月の光は机の上の山積みの紙へ伸びていた。
「これね…小田君が言っていたのは…」
そう言って手に取ったのは11月20日の事件の新聞記事について。
周りに事細かに未来の調べたことが加えられていた。
「こんなに調べたって…雅人さんは帰ってこないのに…」
元あった場所に置いてもう一枚を手に取る。
今度は蒼真についてだった。
美紀が話さなかったことについても知っているような文章。
そしてクリップで一緒に止められていた写真は、ニッコリとどこかのおとぎ話の王子様のように微笑む蒼真だった。
その写真は月光の前でとられたものだ。
「…こんなのどこから…」
記憶から追いやると同時に、未来にも蒼真についてはあまり知って欲しくなかった美紀は、いつも彼の写真は奥にしまっておいていた。
事件捜査のために使われるかも…と思い捨てることはできなかったのだが。
しかし、彼女の行動を支配するのは怒りと憎しみ。
写真をビリビリに破り裂いて、
「本当に…本当に未来をさらったのがあの男なら…」
部屋にばらばらと撒く。
「今度こそ、最終決戦ね…」




