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銀色と月  作者: 藍乃*
Ⅱ dark moon
23/37

第二十二話 衝撃

――12月21日 夜 鈴谷宅


「どうぞ」


美紀がテーブルの上に二つのティーカップを置く。

まだあたたかく湯気がでて、紅茶の香りが部屋いっぱいに広がって、思わず深呼吸がしたくなるよう。

しかしそれ以上にこの部屋の空気は重たく、深刻なものだ。


「ありがとうございます」

「気にしないで、ただの紅茶だし」


あの後、二人はなんとか警察に連絡して警察署で事情聴取を受けた。

ちょうど同じタイミングで美紀からも未来の行方不明の通報があり、その殺人事件と関係がありそうだということになった。

そして話は長引き、帰るのもこの時間になってしまったところを、美紀がこの家まで連れてきた。


最後に自分の前に紅茶を置いてから結と翔に向かい合うように美紀は座る。

何秒か沈黙が続いてから、


「ありがとう、未来のために色々してくれて」

「そんな、私たち何も出来てなくて…」

「高校生だけで事件を解決するなんて難しいもの、私が言いたいのは二人が未来のためにって動いてくれたのが、嬉しくて」


少し苦笑いの混じったほほ笑みを浮かべて、美紀は一口紅茶飲む。

さっきのようにまた紅茶の香りがふんわりと広がる。

ティーカップを置くとふと思い出したように


「それと…あなたは小田…翔君よね?」

「あ、はい」

「はじめまして、電話した時も焦ってて全然挨拶出来てなかった、遅くなってごめんなさいね」

「いえ、大丈夫です」


そこまで言うと、沈黙がまた続く。

一分くらい経ってから美紀は席を立ちクッキーを持ってくる。

高級そうな缶入れられ、開けると一つ一つ袋で個包装のクッキーだ。


「どうぞ食べて、二人はすぐ帰らなくて大丈夫なの?」

「私は親に連絡してあります」

「俺もっす」

「そう…じゃぁちょっと未来のことについて話していいかしら」


暖房が効いているため、寒いということではないが美紀はまるで冷えた指先を缶コーヒーで温めるかのようにティーカップに触れる。

白くて長い彼女の左手薬指には、まだ婚約指輪が光っている。

どれだけ彼を愛していたのかを語るかのように。


「未来、なんか変わった様子とかなかった?」

「私はなかったと思いますけど…」

「そっか…」


美紀は苦笑いする。

その表情にはなんとなく諦めの雰囲気が感じられた。


「警察の人は誘拐じゃないかって言ってるの、二人が見たあの死体の人はね、未来がさらわれる瞬間を見てそれを犯人が口封じのために殺したって」

「そうなんですか」


結は何度も美紀に会っているため、二人で会話は進んでいるがほぼ初対面の翔はずっと紅茶を見つめていた。


「神様にどんどん大切なものを奪われてる感じがするわ…」


美紀の視線の先には家族三人で仲良く写っている写真。

今は亡き雅人の姿があり、今行方がわからない娘はまだ幼い。


「なんか、ショックで涙すらも出てこない……って二人に話しても困るだけよね」


自嘲気味に笑うとまた一口紅茶を飲む。

自分の心を落ち着かせるかのようにも見える。


「未来が帰ってきたら、また仲良くしてあげてください」

「はい、もちろんです」

「それと…また警察の方が話しを聞きに来たりとかまた迷惑かけちゃうかもしれないけど、お願いします」


美紀はそう言って頭を下げる。


「いえ、そんな顔上げてください、友達なんで当然ですよ」


結が少し焦ったような口調で言う。

翔は何も言わなかったが、一人で頷いた。


「でもひとりの親として、おねがいします」


彼女の瞳は真剣だった。

結と翔のひとりひとりをしっかり見つめた。


「じゃぁこれ以上遅くなったら二人のご両親も心配するでしょうし……そろそろ終わりにしましょうか」


美紀はそう言って立ち上がり、自分の紅茶と二人の紅茶を片付けようと持ち上げた時に、翔は口を開いた。


「あの…」

「はい?」

「ちょっと鈴谷について思い出したんです」


二人は驚いたような表情をした。

明るくはないものの、少し希望が感じられた。


「鈴谷が高い熱出して学校休んだの覚えてますか」

「あぁ、あったわね」


結も心の中で頷く。


「その時お見舞いに俺来たんです、」

「あら、そうだったの? 未来そんなこと一言も言ってなかった、ありがとう」

「いえ、それで、彼女調べ物をしてたみたいなんです。」

「調べ物…?」

「10年前の鈴谷の父親、貴方の旦那さんが殺された事件…」

「だからあの子…」


美紀はあの夜のことを思い出した。

事件からちょうど10年のあの日、二人でハンバーグを食べた時だ。

未来は事件についてしつこく聞いていた。


「得に、男の人について…黒髪ですっと背が高くて…確か泣きぼくろのある人です、名前は思い出せないんですけど…」


ガシャン。

翔が言い切ると同時に、美紀の手から滑り落ちたティーカップが砕け散った。

周りに破片と冷め切った紅茶が飛び散る。

二人が驚き見ると、美紀は青ざめた表情で立ち尽くしていた。


「宮…下蒼…真」


彼女の体は、怒りと衝撃で震えが止まらなかった。

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