第十九話 昔話《中編》
「じゃぁ、まずは未来ちゃんと俺の関係について話そうか、」
「はい」
「未来ちゃんが七歳頃の話だね」
蒼真は目を細め遠くを見つめる。
彼にとって、あの時代は一番輝いていた美しい汚れのない思い出だから……
――10年前 春 “月光”
少女は、とても大切に育てられた。
竹から生まれたかぐや姫のように、親はとても可愛がった。
初めて出来た一人娘。
仕事中は兄弟がおらず一人で留守番もできないし、近くに親戚がいないからあずけることもできない。
かといってご近所さんにあずけるわけにもいかず、小さい頃は一日中、保育園や学校に行く頃になれば、帰っきたら店の手伝いか裏や庭でおとなしく一人で遊んでいた。
未来が真っ赤なランドセルを背負い始めるころになると、まだ若い青年が働きに来ていた。
彼の名は宮下蒼真。
一言で表すなら“爽やかな好青年”と言うべきであろうか?
大人の世界はまだよくわからなかったが、いつも一生懸命だと未来は思っていた。
ある日、未来は入学祝いに買ってもらったバドミントンのセットで遊んでいた。
といっても、相手はおらず一人で地面に落とさぬようラケットで空中にあげるだけ。
バレーボールをバドミントンの道具でやっているような感じ。
休憩時間に庭を散歩していた蒼真は、そんな彼女を見つける。
「一人で遊んでるのかな?」
「……!?」
その声に驚き振り返る。
蒼真は怖がらせてしまったのかと思い、
「あ、ごめんね」
と苦笑いするとしゃがんで彼女と目線を合わせる。
そしてにっこり微笑むと
「一人で遊んでるの?」
「うん…」
「そっか…じゃぁお兄さんと一緒に遊ぼう?」
「うんっ!」
一度目は寂しそうな返事だったが、それとは対象的に無邪気な笑顔で頷いた。
いつも一人で遊んでいて、小学校はまだ通い始めたばかりで一緒に遊べる友達もまだいないから、とても嬉しかったのだ。
「いくよーっ」
「うんっ!」
未来は思いっきり遊んだ。
休憩時間だったためほんのわずかな時間。
楽しいからさらに短く未来には感じられる。
「あ、そろそろお兄ちゃんお仕事戻らなきゃ」
「えー、もっとあそびたいー」
「んー…じゃぁ、また明日遊ぼう、絶対って約束するから」
「うんっ!」
名前も知らないお兄さんだったけれど、優しくてすぐに大好きになった。
その晩、夕食の時間に優しいお兄さんと遊んだことを母に話した。
「ねぇママ、今日優しいお兄ちゃんと遊んだんだよー!」
「そう、よかったわね」
「そういえば宮下くんが一緒に遊んだって言ってたなぁ」
「えっ!?」
美紀の表情が変化する。
驚きと怒りに近い。
彼女は蒼真のことをよく思っていない。
得に彼が悪いことをしたわけでもないのだが、深い事情も小さな未来にとってはよくわからなかったし、雅人も彼女が怪訝そうな顔をするたびに「まぁまぁ」となだめていた。
「仕事も頑張るし、未来の面倒も見てくれるし…とってもいい子だなぁ」
「……」
「美紀もそのうち彼がいい人だってわかるよ」
「…えぇ」
表情に一瞬曇を見せたりはするが“嫌い”とはっきり言うのは美紀の性格ではない。
だから雅人も大目に見ているようだ。
「ママ、お兄ちゃんのこと嫌い?」
「んー…うん」
「そっか、ケンカはダメだよ? 仲良しだよ?」
「そうね、未来もお友達は大切にね」
「うんっ!」
それから未来は毎日のように蒼真と遊んだ。
初めて会った時は名前を知らなかったのだが、名前を覚えてからは“蒼真お兄ちゃん”と呼び、よくなつくようになった。
「蒼真お兄ちゃん、これ食べるー?」
「んー?」
彼女の小さな手のひらには、可愛いラッピングのされたお菓子だった。
中にはクッキーやマカロンなど、小さくて一口くらいで食べられるお菓子がたくさん入っていた。
「お兄ちゃんのためにね、ママと作ったの」
「へぇー…もらっていいの?」
「うん!」
「ありがとう」
そう言って未来を撫でる。
彼も本当の妹が出来たようで可愛くて仕方がなかったのだ。
そして季節が巡っていく。
夏も、秋も…ほぼ毎日遊んだ。
11月20日になるまでは…
――現代
「その顔じゃ、全然覚えてないみたいだね」
苦笑い。
未来には少しさみしそうに見えた。
「ごめんなさい。でも誰かと遊んでたってことは思い出しました。」
「そっか、君をさらった理由はもうここから始まってたんだ」
さっきとは違って少し面白そうに笑う。
まるで何かのゲームをしているような。
「で、今度は僕が犯人じゃないことをはなさなくちゃね、」
「はい…」
時計を見ると、思ったより時間がかかったようで、話し始めて約60分以上たっていた。
もう一つ話をするとなると、もっと長い話になりそうだと、未来は覚悟した。
そして、真実に触れられることに、期待と不安を抱いていた。




