第一話 11月20日
朝の通学や、通勤で少し混み合うバスの中、未来は、窓際の席に座っていた。
ガラスの外にいる、マフラーや手袋をして寒そうに歩く人々を、ただの絵のように眺めていた。
今日は、11月20日、未来の父親の命日だ。
ちょうど10年前の今日、彼女の父、鈴谷雅人は、同じ仕事場の人間によって殺された。
まだ7歳だった未来は、状況がよく理解できなかったため、父のことは覚えていても、事件のことに関してははっきり覚えていない。
覚えていることは、父が殺されたことと、犯人は職場の人間だということくらい。
しかし、あんなに優しい父が事件に巻き込まれるとは思ってもいなかったし、今でも犯人のことを考えると、何とも言えない感情が滲み出てくる。
無罪。
家族を殺された苦しみを、犯人は知らない。
無罪で済まされて今も呑気に暮らしているのだ……
それが未来は許せなかった。
このままの気持ちで一日を過ごしてはいけないと未来は感じて、感情を抑え、一人で反省した。
すると、バス停に着く。
通勤客が二人ほどと、制服を着崩し、茶色に染めた髪をピンで止めている、世間で言う「チャラい」男子高校生が乗車してきた。
「鈴谷、おはよっ!」
ニッと未来に笑いかける。
「おはよう」
さっきまで沈みかけていた気持ちが、少し軽くなったように感じた。
彼は、つい今月のはじめにした席替えで隣になった、小田翔
見た目通り、授業は体育以外適当。しかし、誰に対しても平等に振る舞い、いつもクラスの中心にいるような存在だ。
隣の席になってから意外と家が近いことを知り、最近は一緒に学校へ通っている。
「今日で10ねんだな」
「覚えてくれてたんだ、ありがとう」
「まぁな、あの事件有名だし」
「うん……毎日ニュースで取り上げられてたよね、」
「……鈴谷、小さい頃から苦労してるんだなー…」
「全然苦労してないってほどじゃないけど、そんなにみんなと変わらないよ、それに昔のことはあんまり覚えてない・・・」
「そっか、でもすごく残酷なことをはっきりといつまでも覚えてるよりいいんじゃないか?」
「・・・そうだね」
徐々に一緒にいる時間が増えていく。
そうしているうちに、クラスの中では“お似合いな二人”として、クラス中の噂でもある。
未来は、そんな翔に
少しずつ、少しずつ……
惹かれていった。




